3.4 空気抵抗 (Air Resistance) ~いつ考えて、いつ無視する?~
空気抵抗って、どんな力?
自転車で速く走ると顔に風を感じたり、向かい風だとペダルが重くなったりするよね。紙切れと鉄球を同じ高さから落とすと、紙切れはひらひらとゆっくり落ちるのに、鉄球はストーンと落ちる。パラシュートを開くと、落下するスピードがゆっくりになる。 これらの現象には、空気抵抗 (Air Resistance) — または単に抵抗 (Drag) とも呼ばれる — が深く関わっているんだ。
空気抵抗とは、空気中を運動する物体が、空気から受ける運動を妨げる向きの力のこと。空気に粘り気 (Viscosity) があることや、物体が空気分子を押しのけながら進むことによって生じるんだ。 地面との摩擦力とは違って、流体(この場合は空気)と物体との間で働く力だよ。
図1:パラシュートは大きな空気抵抗を利用して落下速度を抑える。
空気抵抗の主な性質
空気抵抗には、知っておきたい重要な性質がいくつかあるよ。
- 向き: 物体の運動(速度)の向きと常に反対向きに働く。運動を妨げる力だからね。
- 大きさ:
- 速さに依存する! これが動摩擦力との大きな違い。一般的に、速く動くほど空気抵抗は大きくなるんだ。
- 速さとの関係は複雑だけど、物理の問題では、物体の速さ $v$ に比例する ($F_{air} = kv$) か、速さの2乗 $v^2$ に比例する ($F_{air} = Cv^2$) とモデル化されることが多いよ。($k$ や $C$ は物体の形や空気の状態によって決まる定数)
- 物体の形状 (Shape) や、運動方向に対する断面積 (Cross-sectional area) (前から見たときの面積)が大きいほど、空気抵抗は大きくなる。(だからパラシュートは大きいんだね!)
- 空気の密度 (Density) が大きいほど、空気抵抗も大きくなる。
高校物理での空気抵抗の扱い:無視? それとも考える?
こんなに身近な空気抵抗だけど、高校物理の問題ではどう扱われるんだろう?
基本は「無視」することが多い!
空気抵抗の大きさは、速さや物体の形など、色々な要因で複雑に変化する。そのため、物理の基本的な法則を学ぶ段階では、計算を単純にするために「空気抵抗は無視できるものとする」と問題文で仮定されることがほとんどなんだ。 特に、物体の速度がそれほど速くない場合や、落下運動で重力の影響が圧倒的に大きい場合などは、空気抵抗を無視しても、運動の様子を大まかには捉えられることが多いからね。
でも、こんなときは「考える」必要がある!
もちろん、空気抵抗が無視できない、あるいは空気抵抗そのものがテーマになる問題もあるよ。
- 問題文で「空気抵抗を考慮せよ」と明示されている場合。
- 空気抵抗の大きさが、具体的な式(例:$F_{air}=kv$)で与えられている場合。
- 終端速度 (Terminal velocity) という現象を考える場合。
終端速度ってなんだろう?
例えば、雨粒やスカイダイバーが高いところから落ちてくるとき、最初は重力によってどんどん加速するよね。でも、スピードが上がるにつれて空気抵抗もどんどん大きくなっていく。 そして、ついに空気抵抗の大きさ(上向き)と重力の大きさ(下向き)がつり合うと、物体に働く合力がゼロになる。 合力がゼロということは、加速度もゼロ!つまり、それ以上は加速しなくなり、一定の速度で落下し続けることになるんだ。このときの速度のことを終端速度と呼ぶよ。
下のデモは、物体が落下するときに速度と空気抵抗(ここでは $F_{air}=Cv^2$ と仮定)がどう変化し、やがて終端速度に達する様子を示しているよ。(グラフも見てね!)
【アニメーション&グラフ】終端速度に達する様子
空気抵抗がある場合の力の図示と運動方程式
もし空気抵抗を考慮する必要があるなら、力の図示では、物体の運動方向と反対向きに空気抵抗の矢印を追加する。 運動方程式を立てるときは、運動方向の合力を計算する際に、空気抵抗の項を追加すればOKだ。
例えば、質量 $m$ の物体が鉛直下向き(この向きを正とする)に落下していて、速さ $v$ に比例する空気抵抗 $F_{air}=kv$ ($k$は比例定数) を受ける場合を考えてみよう。
- 働く力:重力 $mg$ (正)、空気抵抗 $kv$ (負、運動方向と逆向き)
- 運動方程式: $ma = (+mg) + (-kv)$
- $ma = mg - kv$
この式から、加速度 $a = g - \frac{k}{m}v$ となる。速度 $v$ が大きくなると、加速度 $a$ は小さくなり、やがて $a=0$ になる。 $a=0$ となるとき、$mg - kv = 0$ だから、$v = \frac{mg}{k}$ となる。これがこの場合の終端速度 $v_t$ だね!
「無視する力」を見抜く感覚(空気抵抗編)
これで空気抵抗について少し詳しくなったね。物理の問題で「空気抵抗は無視する」と書かれていることが多い理由も、少し分かったかな? 計算が複雑になることが多いからだね。
でも、現実世界では空気抵抗は常に存在している。紙がひらひら落ちるのは、軽い割に空気抵抗を受ける面積が大きいから。鉄球はずっしり重いから、空気抵抗の影響は相対的に小さく、ほぼ重力だけで落下しているように見える(これも厳密には空気抵抗を受けているけどね!)。
このように、「問題の状況設定」や「他の力との大きさの比較」から、どの力を考えてどの力を無視するかを判断する感覚は、物理を学ぶ上でとても大切なんだ。空気抵抗は、その良い練習例になるね。(この話は第4章でさらに詳しく!)
【練習】空気抵抗と終端速度 (準備中)
ここでは、終端速度を計算する問題や、空気抵抗が運動にどう影響するかを考える問題などを解く練習アプリを準備する予定だよ。
(ここに空気抵抗練習用JSアプリが入る予定です)