3.3 浮力 (Buoyancy) ~水やお風呂で感じるあの力~
浮力って、どんな力?
プールや海に入ると、体がなんだか軽くなったように感じるよね? お風呂にアヒルのおもちゃを浮かべたり、大きな船が海にプカプカ浮いていたりするのも不思議だ。 これらの現象の鍵を握っているのが「浮力」 (Buoyancy) という力なんだ。
物理でいう浮力とは、流体 (Fluid) — つまり液体や気体のこと — の中にある物体が、その流体から受ける上向きの力のことを言うよ。
図1:巨大な船が水に浮かぶのも浮力のおかげ!
「どうして上向きの力が働くの?」って思うよね。簡単に言うと、水のような流体の中では、深い場所ほど大きな圧力がかかっているんだ(水圧)。 だから、流体の中にある物体は、その下面が受ける上向きの圧力の方が、上面が受ける下向きの圧力よりも大きい。この圧力の差が、結果として物体全体を上に押し上げる力、つまり浮力を生み出すんだ。
図2:水圧は深いほど大きい。下面を押す力(↑)が上面を押す力(↓)より大きいので、差し引き上向きの力 (浮力) が生じる。
浮力の大きさはどう決まる? アルキメデスの原理
じゃあ、その浮力の「大きさ」は、どうやって決まるんだろう? これを説明してくれるのが、古代ギリシャの天才科学者アルキメデスが見つけた「アルキメデスの原理」 (Archimedes' principle) だ! お風呂に入ったときに水があふれるのを見て発見した、なんていう逸話もある有名な原理だよ。
流体中の物体が受ける浮力の大きさは、
その物体が押しのけた流体の重さに等しい。
「押しのけた流体の重さ」って、ちょっと分かりにくいかな? 例えば、物体を水に沈めたら、その物体の体積と同じだけの水が、もともとあった場所から押し出されるよね? その押し出された水の重さが、そのまま浮力の大きさになる、ということなんだ。
これを式で表すと、次のようになる。
浮力の大きさ $F_B$ [N] = 流体の密度 $\rho_f$ [kg/m³] $\times$ 物体が流体中に沈んでいる部分の体積 $V$ [m³] $\times$ 重力加速度 $g$ [m/s²]
$$ F_B = \rho_f V g $$
ここで、
- $\rho_f$ (ローf): 物体が沈んでいる流体(fluid)の密度 (Density)だよ。例えば、水の密度は約 $1000 \text{ kg/m}^3$。空気の密度は約 $1.2 \text{ kg/m}^3$。
- $V$: 物体が流体中に沈んでいる部分の体積 (Volume) だ。物体全体の体積じゃないことに注意!物体が完全に沈んでいれば、物体全体の体積と同じになるよ。この $V$ が、物体が「押しのけた流体の体積」になる。
- $g$: おなじみの重力加速度(約 $9.8 \text{ m/s}^2$)。
$\rho_f \times V$ を計算すると、これは「押しのけた流体の質量」になる(質量=密度×体積 だからね)。それに $g$ をかけているから、$F_B = (\rho_f V) g$ は、まさに「押しのけた流体の重さ」を表しているんだ!
【例題1】体積が $0.01 \text{ m}^3$ の金属の塊を、完全に水(密度 $\rho_f = 1000 \text{ kg/m}^3$)の中に沈めた。この金属塊に働く浮力の大きさ $F_B$ は何Nかな? 重力加速度を $g=9.8 \text{ m/s}^2$ とするよ。
【考え方】
完全に沈んでいるので、流体中(水中)に沈んでいる部分の体積 $V$ は、金属塊全体の体積と同じ $V = 0.01 \text{ m}^3$ だね。
流体(水)の密度は $\rho_f = 1000 \text{ kg/m}^3$。
アルキメデスの原理 $F_B = \rho_f V g$ を使うと…
$F_B = 1000 \text{ kg/m}^3 \times 0.01 \text{ m}^3 \times 9.8 \text{ m/s}^2 = 10 \times 9.8 = 98 \text{ N}$
【答え】98 N
【例題2】質量 1kg、体積 $0.002 \text{ m}^3$ の木片を水($\rho_f = 1000 \text{ kg/m}^3$)に入れたところ、体積のちょうど半分が水面に出て、浮かんだ。この木片に働く浮力の大きさ $F_B$ は何N? また、この木片の密度 $\rho_{obj}$ は何kg/m³かな? ($g=9.8 \text{ m/s}^2$)
【考え方】
(浮力 $F_B$) 木片は水に浮かんで静止している。ということは、木片に働く力はつり合っているはずだね。木片に働く力は、鉛直下向きの重力 $mg$ と、鉛直上向きの浮力 $F_B$ の2つ。力のつり合いより、$F_B = mg$ が成り立つ。
$F_B = 1 \text{ kg} \times 9.8 \text{ m/s}^2 = 9.8 \text{ N}$。
(木片の密度 $\rho_{obj}$) 浮力をアルキメデスの原理からも計算してみよう。木片は体積の半分が沈んでいるので、水中に沈んでいる体積 $V$ は、木片全体の体積 $V_{obj} = 0.002 \text{ m}^3$ の半分だから、$V = V_{obj} / 2 = 0.001 \text{ m}^3$。
$F_B = \rho_f V g = 1000 \text{ kg/m}^3 \times 0.001 \text{ m}^3 \times 9.8 \text{ m/s}^2 = 1 \times 9.8 = 9.8 \text{ N}$。ちゃんとつり合いから求めた値と同じになったね!
さて、木片の密度 $\rho_{obj}$ は、質量 $m$ を体積 $V_{obj}$ で割ればいいから、
$\rho_{obj} = m / V_{obj} = 1 \text{ kg} / 0.002 \text{ m}^3 = 500 \text{ kg/m}^3$。
(ちなみに、物体が浮く条件は、物体の密度 $\rho_{obj}$ が流体の密度 $\rho_f$ より小さいこと ($\rho_{obj} < \rho_f$)。今回は $500 < 1000$ なので、ちゃんと浮くね!)
【答え】浮力は 9.8 N、木片の密度は 500 kg/m³
浮力の3要素 まとめ
- 作用点
- 物体が押しのけた流体の重心(浮力中心 Center of buoyancy)。均質な物体なら、水面下の部分の中心と考えてよい場合が多い。(力の図示では、物体の重心に作用点があるとして描くことも多い。)
- 向き
- 常に鉛直上向き (Vertically upward)。
- 大きさ
- アルキメデスの原理より、$F_B = \rho_f V g$。($V$は流体中の体積!)
浮力の図示と応用
浮力が働く状況で力の図示をするときは、重力など他の力と一緒に、浮力(上向きの力 $F_B = \rho_f V g$)を描き加えればOKだ。
図3:浮力が働く例 (左:浮いている物体、右:糸で吊るされ水中の物体)
- 物体が浮いている (Float) 場合:
浮力 $F_B$ と重力 $mg$ がちょうどつり合っている状態 ($F_B = mg$)。 アルキメデスの原理 $F_B = \rho_f V g$ と合わせると $\rho_f V g = mg$ となる。 ここで、物体の密度を $\rho_{obj}$、物体全体の体積を $V_{obj}$ とすると $m=\rho_{obj}V_{obj}$ なので、 $\rho_f V g = \rho_{obj} V_{obj} g \implies \rho_f V = \rho_{obj} V_{obj}$ という関係が成り立つ。 これから、物体が浮くための条件 ($\rho_{obj} < \rho_f$) や、水面下の体積の割合 ($V/V_{obj} = \rho_{obj} / \rho_f$) を求めることができるんだ。 - 物体が沈む (Sink) 場合:
物体全体の体積分の浮力 $F_B = \rho_f V_{obj} g$ が働いているけど、重力 $mg$ の方が大きい ($mg > F_B$) ため、下に沈んでいく(または底に沈んで静止する)。沈む条件は $\rho_{obj} > \rho_f$ だね。 - 糸で吊るして水に入れる場合:
物体には、重力 $mg$(下向き)、浮力 $F_B$(上向き)、糸の張力 $T$(上向き)の3つの力が働くことが多い。 もし静止していれば、力のつり合いから $T + F_B = mg$ となる。もし運動していれば、運動方程式を立てることになる。
空気中でも浮力は働くの?
空気も流体の一種だから、実は私たちも空気から常に浮力を受けているんだ! でも、空気の密度 ($\rho_{air} \approx 1.2 \text{ kg/m}^3$) は、水の密度 ($\rho_{water} \approx 1000 \text{ kg/m}^3$) と比べて非常に小さい(約1/800~1/1000)。 だから、空気中で働く浮力の大きさ $F_B = \rho_{air} V g$ は、物体の重力 $mg$ と比べてずっと小さくなることがほとんどなんだ。
そのため、日常生活でボールを投げたり、物が落ちたりする運動を考えるときには、空気による浮力は通常無視して考えることが多いよ。
もちろん、風船や気球のように、体積が非常に大きくて全体の密度が空気より小さい物体の場合は、空気の浮力が重力より大きくなって、空に浮かんでいくことになるね!
【練習】浮力の計算とシミュレーション (準備中)
ここでは、物体の密度や体積、流体の密度を変えると、浮力の大きさや物体が浮くか沈むか、水面下の体積の割合などがどのように変化するかを計算したり、シミュレーションで見たりできるアプリを準備する予定だよ。アルキメデスの原理を体感的に理解しよう!
(ここに浮力練習用JSアプリが入る予定です)