2.3 運動方程式を使った力の図示と問題解決 ~加速度の世界を解き明かせ!~
はじめに:運動方程式は最強の分析ツール!
さあ、ニュートンの運動の法則、特に第2法則(運動方程式 $ma=F$)という強力な武器を手に入れた君たち! この武器は、物体に力が働いた結果、その物体がどのように運動するのか(つまり、どんな加速度を持つのか)を教えてくれるすごいツールなんだ。
前のセクションで運動方程式の基本と立て方の手順を学んだけど、ここではもっと色々な状況にその武器を適用する (Apply) 練習をしていくよ。 エレベーターの中での体重の変化、複数の物体が糸でつながれて動く様子など、一見複雑に見える問題も、運動方程式を正しく立てて使えば、スッキリ解き明かすことができるんだ。
ここでもやっぱり「力の図示」がすべての基本になることを忘れずに、一緒に問題解決のプロセスを見ていこう!
運動方程式を立てる手順のおさらいとポイント
もう一度、運動方程式を立てる手順を確認しておこう。この流れをしっかり身につけるのが大事だよ!
- 注目物体を定める。
- 物体に働く力をすべて図示する。(← 超重要!)
- 座標軸を設定する。(加速度の向きを正に取ると便利!)
- 力を軸方向に分解する。(斜めの力があれば)
- 運動方向について運動方程式 ($ma=F_{合力}$) を立てる。(← Fは合力!)
- 運動と垂直な方向について力のつりあいの式 ($\sum F_{\perp}=0$) を立てる。(← Nなどを求めるのに使う)
- 方程式を解く。
特にステップ2とステップ5が鍵だ! 正確な力の図示ができて、合力を正しく(向きも考えて!)計算できれば、運動方程式は君の強力な味方になるぞ!
様々な状況での運動方程式の適用例
実際にいくつかの例題を通して、運動方程式の使い方を見てみよう。
例1:エレベーター (Elevator) の中の体重計
エレベーターに乗って動き出すときや止まるとき、体がフワッとしたり、グッと重く感じたりしたことはないかな? あれは実際に体重が変わっているわけじゃないんだけど、体重計が示す値は変化するんだ。その謎を運動方程式で解き明かそう!
状況:質量 $m$ の人が乗ったエレベーターが、加速度 $a$ で鉛直方向に運動している。鉛直上向きを正とする。
- 注目物体:人
- 働く力:重力 $mg$ (下向き = $-mg$)、体重計からの垂直抗力 $N$ (上向き = $+N$)。※この垂直抗力 $N$ が体重計の示す「見かけの重さ (Apparent weight)」になる。
- 座標軸:鉛直上向きを正とする。
- 力の分解:不要。
- 運動方程式 (鉛直方向):
$ma = (+N) + (-mg)$
$ma = N - mg$ - 垂直方向のつりあい:今回は運動方程式が鉛直方向なので不要。
- 求める:体重計の示す値 $N$ について解くと…
$N = mg + ma = m(g+a)$
考察:
- 加速上昇 ($a>0$):$N = m(g+a) > mg$ となり、体重計の示す値は本来の体重より大きくなる!(体が重く感じる)
- 減速上昇 ($a<0$):$N = m(g+a) < mg$ となり、体重計の示す値は小さくなる!(体がフワッと軽く感じる)
- 等速上昇/下降 ($a=0$):$N = mg$ となり、体重計の示す値は本来の体重と同じ。
- 加速下降 ($a<0$):減速上昇と同じで $N < mg$。
- 減速下降 ($a>0$):加速上昇と同じで $N > mg$。
- 自由落下 ($a=-g$):もしエレベーターのケーブルが切れて自由落下したら、$N = m(g-g) = 0$!体重計は0を示し、体は無重力状態のように感じる(実際にはやらないでね!)。
例2:連結された物体 (Connected objects) の水平運動
軽い糸でつながれた二つの物体を引っ張ると、どう動くだろう? 加速度と、物体間の糸の張力を求めてみよう。
状況:なめらかな水平面上に、質量 $m_1, m_2$ の物体が軽い糸でつながれている。$m_2$ を水平右向きに力 $F_0$ で引く。全体の加速度 $a$ と糸の張力 $T$ は?
二つの物体にそれぞれ注目しよう! 床はなめらかなので摩擦は考えない。鉛直方向は重力と垂直抗力がつり合っている。
物体 $m_1$ について:
- 働く力(水平方向):糸の張力 $T$ (右向き)
- 運動方程式(右向き正):$m_1 a = T$ ...(式1)
物体 $m_2$ について:
- 働く力(水平方向):引く力 $F_0$ (右向き)、糸の張力 $T$ (左向き)
- 運動方程式(右向き正):$m_2 a = F_0 - T$ ...(式2)
連立して解く:
(式1)を(式2)に代入して $T$ を消去すると、$m_2 a = F_0 - m_1 a$
$(m_1 + m_2)a = F_0 \quad \implies \quad a = \frac{F_0}{m_1 + m_2}$
この $a$ を(式1)に代入すると、$T = m_1 a = \frac{m_1 F_0}{m_1 + m_2}$
これで加速度 $a$ と張力 $T$ が求まったね!
例3:連結された物体(滑車 Pulley)
軽い滑車に軽い糸をかけ、両端に質量 $m_1, m_2$ のおもりを吊るす。$m_1 > m_2$ として、おもりの加速度 $a$ と糸の張力 $T$ を求めよう。
状況:軽い滑車に軽い糸をかけ、質量 $m_1, m_2$ ($m_1 > m_2$) のおもりを吊るす。手を離した後の加速度の大きさ $a$ と張力 $T$ は?
おもり $m_1$ は下向きに、おもり $m_2$ は上向きに、同じ大きさ $a$ の加速度で運動する。糸は一本なので張力 $T$ は共通。
おもり $m_1$ について:(下向きを正とする)
- 働く力:重力 $m_1 g$ (正)、張力 $T$ (負)
- 運動方程式:$m_1 a = m_1 g - T$ ...(式3)
おもり $m_2$ について:(上向きを正とする)
- 働く力:張力 $T$ (正)、重力 $m_2 g$ (負)
- 運動方程式:$m_2 a = T - m_2 g$ ...(式4)
連立して解く:
(式3) + (式4) を計算すると $T$ が消えて、
$(m_1 + m_2)a = (m_1 - m_2)g \quad \implies \quad a = \frac{m_1 - m_2}{m_1 + m_2} g$
この $a$ を(式4)に代入すると、$T = m_2 a + m_2 g = m_2 (a+g)$
$T = m_2 \left( \frac{m_1 - m_2}{m_1 + m_2} g + g \right) = m_2 \left( \frac{m_1 - m_2 + m_1 + m_2}{m_1 + m_2} \right) g$
$T = \frac{2m_1 m_2}{m_1 + m_2} g$
複雑に見えるけど、一つ一つ方程式を立てれば解けるね!
運動方程式を解く上でのヒント
- 何はともあれ、まずは力の図示を正確に!
- 座標軸は、加速度の向きや斜面の向きに合わせると計算が楽になることが多い。
- 力の向き(符号)に細心の注意を払って、合力を計算する。
- 物体が複数ある場合は、物体ごとに方程式を立てる。そして、それらの物体をつなぐ関係(糸の張力は同じ、加速度が同じなど)を見つけて連立方程式 (Simultaneous equations) として解く。
【練習】運動方程式マスターを目指そう! (準備中)
運動方程式に慣れるには、やっぱり練習が一番! ここでは、色々なパターンの問題で運動方程式を立てる練習ができるアプリや、パラメータを変えて運動の変化をシミュレーションできるアプリを準備する予定だよ。お楽しみに!
(ここに運動方程式応用練習用JSアプリが入る予定です)
第2章のゴール!
これで第2章「力のつりあいと運動の法則」もゴールだ! 力のつり合いの条件、そしてニュートンの3つの運動法則、特に運動方程式 $ma=F$ という強力な分析ツールを手に入れたね。 力の図示と合わせて、これらの知識を使えば、物体の運動に関する多くの謎を解き明かすことができるようになるはずだ。
次の第3章では、これまで学んだ基本的な力や法則を応用して、さらに色々な運動(複数の物体、斜面、円運動など)について、深く掘り下げていくよ。 物理の世界はまだまだ奥深い!どんどん探検していこう!