2.2.2 第2法則 (Second Law): 運動方程式 (Equation of Motion) $F=ma$ ~力と加速度の関係を解き明かす!~
運動方程式って、どんな法則?
ニュートンの第1法則(慣性の法則)では、物体に働く力の合力がゼロなら、物体の速度は変化しない(加速度 $a=0$)ことを学んだね。 じゃあ、力がつり合っていなくて、合力がゼロじゃない ($\sum \vec{F} \neq \vec{0}$) ときはどうなるんだろう?
その答えを教えてくれるのが、ニュートンの第2法則、通称「運動方程式」だ! これは力学の中でも、とてつもなく重要な法則だよ。
物体の質量を $m$ [kg]、
物体に生じる加速度を $\vec{a}$ [m/s²]、
物体に働く力の合力を $\vec{F}$ [N] とすると…
$$ m\vec{a} = \vec{F} $$
(ベクトル量であることを示すために矢印 $\vec{\ }$ をつけているけど、高校物理では多くの場合、運動方向の成分だけを考えて $ma=F$ と書くことが多いよ。)
この式は、一見シンプルだけど、物体の運動に関する深い意味を持っているんだ。 式を変形して $a = F/m$ と考えてみると…
- 物体の加速度 $a$ は、働く力の合力 $F$ に比例する (Proportional)。
→ つまり、大きな力で押したり引いたりすれば、それだけ物体の速度は大きく変化する(大きな加速度が生じる)ってことだね! - 物体の加速度 $a$ は、物体の質量 $m$ に反比例する (Inversely proportional)。
→ つまり、同じ力で押しても、質量が大きい(重い)物体ほど、速度は変化しにくい(加速度が小さい)ってこと。これは第1法則で学んだ「質量は慣性の大きさ(動きにくさ)」ということとも一致するね!
この運動方程式は、物体にどんな力が働いているかが分かれば、その物体がどんな加速度で運動するのかを予測できるし、逆に物体の運動(加速度)が分かれば、どんな力が働いているのかを知る手がかりにもなる、まさに物理学の「予言の書」のようなものなんだ!
運動方程式の登場人物を詳しく見てみよう!
運動方程式 $ma=F$ を正しく使うために、それぞれの文字が何を表しているのか、もう一度しっかり確認しよう。
- $m$: 質量 (Mass) [kg]
- 物体の「動きにくさ」「止まりにくさ」を表す量。慣性の大きさのことだね。単位はキログラム (kg)。質量は物体固有の量で、場所によって変わらないよ。
- $a$: 加速度 (Acceleration) [m/s²]
- 速度が1秒あたりどれだけ変化するかを表す量。向きを持つベクトル量だ。単位はメートル毎秒毎秒 (m/s²)。加速度の向きは、次に説明する合力の向きと必ず同じになるよ!
- $F$: 合力 (Net force / Resultant force) [N]
- ここが超重要ポイント! 運動方程式の $F$ は、物体に働くただ一つの力ではなく、物体に働いている「すべての力」をベクトル的に足し合わせた合計の力(合力)のことなんだ! 単位はニュートン (N)。 だから、運動方程式を立てる前には、第1章で学んだように、物体に働く力をすべて見つけ出して図示することが絶対に必要になるんだね!
運動方程式の使い方:立て方の手順をマスターしよう!
運動方程式は強力な武器だけど、正しく使わないと意味がない。次の手順に従って、運動方程式を立てる練習をしよう!
- 注目物体を定める。(これは全ての基本!)
- 物体に働く力をすべて図示する。(重力、垂直抗力、張力、弾性力、摩擦力、押す力…など、第1章の知識を総動員!)
- 座標軸を設定する。
- 通常は、物体が加速する向き(またはその反対向き)を一つの軸(例:x軸)に取ると、式が立てやすくなるよ。
- もう一つの軸(例:y軸)は、それと垂直な方向にとる。
- 斜面の問題なら、「斜面に平行な方向」と「斜面に垂直な方向」に軸をとると便利だ。
- どちらの向きを「正」とするかも決めておこう。(通常は加速度の向きを正とすることが多い)
- 力を座標軸の成分に分解する。(もし力が軸の方向と斜めになっている場合は、設定した軸の方向に分解しよう。三角比が活躍!)
- 運動方向(加速度の向きの軸)について、運動方程式 $ma=F$ を立てる。
- 左辺は $ma$。
- 右辺の $F$ は、その軸方向の力の合力を入れる。つまり、正の向きの力の成分をプラス、負の向きの力の成分をマイナスとして、すべて足し合わせるんだ!
- 運動方向と垂直な方向について、力のつりあいの式 ($\sum F_{\perp} = 0$) を立てる。
- 多くの場合、物体は運動方向と垂直な方向には動かない(加速度がゼロ)ので、この方向の力はつり合っていると考えられるんだ。
- この式を使って、垂直抗力 $N$ などを求めることができる場合が多いよ。
- 立てた方程式(複数ある場合は連立方程式)を解いて、求めたい加速度 $a$ や未知の力などを計算する。
この手順、特にステップ2(力の図示)とステップ5(合力を正しく求める)がめちゃくちゃ大事だよ!
運動方程式を使ってみよう! 具体例
言葉だけだと難しいから、具体的な例で運動方程式を立ててみよう。
例1:粗い水平な床の上で、質量 $m$ の物体を水平な力 $F_0$ で押し続ける
物体に働く力は右図の4つ。
- 注目物体:箱 (質量 $m$)
- 働く力:重力 $W$, 垂直抗力 $N$, 押す力 $F_0$, 動摩擦力 $f_k$
- 座標軸:水平右向きをx軸正、鉛直上向きをy軸正とする。加速度 $a$ は右向き(x軸正)と仮定。
- 力の分解:今回は不要。
- 運動方程式 (x方向):
$ma = (+F_0) + (-f_k)$
$ma = F_0 - f_k$ - y方向のつりあい:
$(+N) + (-W) = 0 \implies N = W = mg$ - 求める:$f_k = \mu_k N = \mu_k mg$ を運動方程式に代入すると、
$ma = F_0 - \mu_k mg$
よって、$a = \frac{F_0 - \mu_k mg}{m}$ が求まる。
例2:粗い斜面(角度 $\theta$)を質量 $m$ の物体が滑り降りる
物体に働く力は右図の3つ(+重力分解成分)。
- 注目物体:箱 (質量 $m$)
- 働く力:重力 $W$, 垂直抗力 $N$, 動摩擦力 $f_k$
- 座標軸:斜面に平行下向きをx軸正、斜面に垂直上向きをy軸正とする。加速度 $a$ は斜面下向き(x軸正)と仮定。
- 力の分解:重力 $W$ を分解 → x成分: $W\sin\theta$, y成分: $-W\cos\theta$
- 運動方程式 (x方向):
$ma = (+W\sin\theta) + (-f_k)$
$ma = mg\sin\theta - f_k$ - y方向のつりあい:
$(+N) + (-W\cos\theta) = 0 \implies N = mg\cos\theta$ - 求める:$f_k = \mu_k N = \mu_k mg\cos\theta$ を運動方程式に代入すると、
$ma = mg\sin\theta - \mu_k mg\cos\theta$
よって、$a = g(\sin\theta - \mu_k \cos\theta)$ が求まる。
【練習】運動方程式を立ててみよう! (準備中)
ここでは、いくつかの状況設定で、実際に運動方程式を立てる練習ができるアプリを置く予定だよ。 力の図示と連動させながら、正しい合力を求めて方程式を完成させるステップを体験できるようにしたいと考えているよ! また、質量や力、摩擦係数を変えると加速度がどう変わるか、シミュレーションで観察できる機能も面白いかもしれないね。
(ここに運動方程式練習用JSアプリが入る予定です)
第2法則のまとめ:運動方程式は最強の武器!
ニュートンの第2法則(運動方程式)のポイントをまとめると…
- 物体に働く力の合力 $F$ と、物体の質量 $m$、生じる加速度 $a$ の間には、$ma=F$ の関係がある。
- 運動方程式の $F$ は、必ず「合力」であることに注意!
- 加速度の向きは、合力の向きと同じ。
- 運動方程式を立てるときは、力の図示と、必要に応じた力の分解が不可欠。
- 運動方向と垂直な方向では、力のつりあいの式を立てることが多い。
運動方程式を使いこなせれば、物体の様々な運動を予測したり、分析したりできるようになる。まさに力学を学ぶ上での最強の武器の一つだ! たくさんの問題演習を通して、この武器の使い方をしっかりマスターしていこう!
さて、残るはニュートンの最後の法則、第3法則(作用・反作用の法則)だ。力は常にペアで生まれる、というこの法則について、次のページで詳しく見ていこう!