2.2.1 第1法則 (First Law): 慣性の法則 (Law of Inertia) ~物体は今の状態を続けたい~
慣性の法則って、なに?
ニュートンの運動の法則、その最初のドアを開けてみよう! それが第1法則、またの名を「慣性の法則」だ。
みんな、電車やバスに乗っていて、急に発車したり、急ブレーキがかかったりしたときに、体がグラッとなる経験はないかな? 発車するときは後ろに引っ張られるように感じて、止まるときは前に倒れそうになるよね。 あるいは、テーブルクロス引き。上手な人がやると、クロスだけがスッと引き抜かれて、上の食器はそのままテーブルに残る。 これらは全部、「慣性」という性質のおかげ(?)なんだ。
慣性の法則をちゃんと説明すると、こうなるよ。
静止している物体は静止し続け (At rest)、運動している物体は等速直線運動(一定の速度 Constant velocity)を続ける。
つまり、物体には「今の自分の運動状態を保ち続けよう」とする性質があるんだ。この性質そのものを慣性 (Inertia) と呼ぶよ。「惰性(だせい)」って言葉を聞いたことがあるかもしれないけど、それと似たようなイメージだね。
さっきの電車の例で言うと、電車が急に発車しても、中にいる君の体は「まだ静止していたい!」と、元の場所にとどまろうとするから、相対的に後ろに引っ張られるように感じるんだ。逆に急ブレーキのときは、君の体は「まだ動き続けたい!」と思っているのに電車だけが止まるから、前に投げ出されるように感じるんだね。
【アニメーションで見てみよう!】電車の中の慣性 (構想)
(ここに、電車内の吊り革や人が慣性で動くアニメーションを表示する予定だよ!発車/停止ボタンを押すと、慣性の様子が観察できるイメージだね。)
慣性の法則と力のつりあい
慣性の法則の条件、「力が作用しない限り(または、働く力の合力がゼロである限り)」という部分に注目してみよう。 これって、まさに前のセクションで学んだ「力のつりあい」の条件 ($\sum \vec{F} = \vec{0}$) と同じだよね!
つまり、慣性の法則は、力がつり合っているときに物体がどうなるかを示している法則、と考えることができるんだ。
- 力がつり合っていて、物体がもともと静止していたら → そのまま静止し続ける(慣性)。
- 力がつり合っていて、物体がもともと動いていたら → そのまま等速直線運動を続ける(慣性)。
逆に言えば、物体が静止しているか、等速直線運動をしているのを見たら、「ああ、この物体に働く力はつり合っているんだな」と判断できるわけだね。
慣性の大きさを決めるもの:質量 (Mass)
ところで、この「現状維持をしたがる性質(慣性)」の大きさは、何によって決まるんだろう? 想像してみて。軽いピンポン玉と、重いボーリングの球。どっちが動かしにくくて、どっちが止めにくいかな?
もちろん、重いボーリングの球だよね! これは、ボーリングの球の方がピンポン玉よりも慣性が大きいことを意味しているんだ。
物理では、この慣性の大きさ(運動状態の変化に対する抵抗の大きさ)を表す量が、物体の質量 (Mass) だと考えるんだ。 質量が大きい物体ほど、
- 静止している状態から動かしにくい。
- 動いている状態から止めにくい(あるいは向きを変えにくい)。
つまり、質量は「動きにくさ」「止まりにくさ」の度合いを表しているとも言えるね。 この「質量」という考え方が、次の第2法則(運動方程式)でめちゃくちゃ重要になってくるよ!
【ちょっと発展】慣性系ってなに?
実は、慣性の法則がそのままの形で成り立つのは、特別な場所(座標系)だけなんだ。 その特別な場所のことを慣性系 (Inertial frame of reference) と呼ぶよ。
慣性系とは、簡単に言うと、静止しているか、または等速直線運動をしている観測者から見た世界のこと。 例えば、地面に立っている君から見た世界や、一定の速さでまっすぐ進んでいる電車の中から見た世界(窓の外を見ないとして)は、ほぼ慣性系と考えてOKだ。
逆に、加速している電車の中や、ぐるぐる回るメリーゴーラウンドの上のような場所(これらを非慣性系という)では、力が働いていないように見えるのに物体が勝手に動いていったりして、慣性の法則がそのままでは成り立たないように見えるんだ。(※こういう場合は「慣性力」という見かけの力を考えて説明するんだけど、それはもう少し後の章で学ぶよ!)
高校物理の問題では、特に断りがなければ、基本的にこの「慣性系」で物事を考えていると思って大丈夫だよ。
第1法則のまとめ
ニュートンの第1法則(慣性の法則)のポイントをまとめると…
- 物体は、力が働かない(または力がつり合っている)限り、現在の運動状態(静止または等速直線運動)を維持しようとする性質(=慣性)を持つ。
- 慣性の大きさ(運動の変化のしにくさ)は、質量が大きいほど大きい。
- この法則は、慣性系と呼ばれる特別な座標系で成り立つ。
力がつり合っていれば運動は変化しない、ということを教えてくれるのが第1法則だったね。 じゃあ、次はいよいよ、力がつり合っていないときに運動がどう変化するのか? その関係を表す第2法則(運動方程式)の世界に飛び込もう!