付録A.2:単位 (Unit) と次元 (Dimension) ~計算ミスを防ぐ味方~
はじめに:数字だけじゃない!物理量の大切な「顔」
物理の問題を解いていると、たくさんの「量」が出てくるよね。長さ、時間、質量、速さ、力、エネルギー…。 これらの物理量を扱うとき、数字だけを見ていてはダメなんだ。例えば「5」という数字だけでは、それが「5m」なのか「5kg」なのか「5s(秒)」なのかで、全く意味が違ってくる。
そう、物理量には必ず「単位」 (Unit) という「顔」がついているんだ。この単位を正しく意識して計算することが、うっかりミスを防ぐための第一歩になる。
さらに、単位の奥には「次元」 (Dimension) という、その物理量が根本的に「何の種類」の量なのかを表す考え方がある。この次元を理解すると、立てた式が妥当かどうかをチェックする強力な武器を手に入れることができるんだ! このページでは、単位と次元という、物理計算の頼もしい味方について学んでいこう。
単位 (Unit) とは? ~物理量の「ものさし」~
単位は、物理量の種類と大きさを表すための世界共通の「ものさし」のようなものだ。 現在、科学の世界で標準的に使われているのは「国際単位系(SI)」 (International System of Units (SI)) というルールだよ。物理の問題を解くときは、基本的にこのSI単位を使うことを心がけよう。
SI基本単位(力学で重要なもの)
SIには7つの基本単位があるけど、力学でまず覚えるべきなのはこの3つ!
- 長さ:m (メートル)
- 質量:kg (キログラム) ※グラム(g)ではなくキログラム(kg)が基本単位なのがポイント!
- 時間:s (秒)
組立単位
基本単位を組み合わせて作られる単位を組立単位 (Derived unit) と言うよ。力学でよく使う組立単位には、こんなものがある。
- 速度:m/s (メートル毎秒)
- 加速度:m/s² (メートル毎秒毎秒)
- 力:N (ニュートン) $\quad$ ($1 \text{ N} = 1 \text{ kg} \cdot \text{m/s}^2$)
- エネルギー、仕事:J (ジュール) $\quad$ ($1 \text{ J} = 1 \text{ N} \cdot \text{m} = 1 \text{ kg} \cdot \text{m}^2/\text{s}^2$)
- 仕事率:W (ワット) $\quad$ ($1 \text{ W} = 1 \text{ J/s} = 1 \text{ kg} \cdot \text{m}^2/\text{s}^3$)
力の単位ニュートン(N)が、基本単位だけで表すと $\text{kg} \cdot \text{m/s}^2$ となるのは、運動方程式 $F=ma$ (力=質量×加速度)の関係から来ているんだね!
単位の換算 (Conversion) と計算
問題を解くときは、与えられた数値の単位に注意しよう。例えば、長さが cm で与えられていたり、質量が g で与えられていたりしたら、計算する前に m や kg に直す(換算する)必要があることが多いよ。($1 \text{ m} = 100 \text{ cm}$, $1 \text{ kg} = 1000 \text{ g}$) 計算に使う物理量の単位をSI基本単位(またはそれらから組み立てられた単位)に揃えるのが、計算ミスを防ぐコツだ。
そして、計算結果が出たら、その単位が求めたかった物理量の単位として正しいかを必ずチェックしよう! 例えば、力を計算したはずなのに、答えの単位が $\text{m/s}$ になっていたら、どこかで計算を間違えている可能性が高いぞ!
次元 (Dimension) とは? ~物理量の「種類」を表す記号~
単位よりもさらに根本的な考え方として「次元」がある。次元とは、その物理量が、どのような基本的な量(長さ、質量、時間など)の組み合わせで成り立っているかを示すものなんだ。
物理では、基本的な次元を次のような記号で表すことが多いよ。
- 長さ (Length) の次元:[L]
- 質量 (Mass) の次元:[M]
- 時間 (Time) の次元:[T]
(※角括弧 [ ] で囲んで次元を表すのが慣例だよ。)
これらを使って、色々な物理量の次元を表してみよう。
物理量 | 単位(SI) | 次元 | 成り立ち |
---|---|---|---|
速度 | m/s | [L T⁻¹] | [長さ]/[時間] |
加速度 | m/s² | [L T⁻²] | [速度]/[時間] = [LT⁻¹]/[T] |
力 | N (=kg・m/s²) | [M L T⁻²] | [質量]×[加速度] = [M][LT⁻²] |
面積 | m² | [L²] | [長さ]×[長さ] |
体積 | m³ | [L³] | [長さ]³ |
密度 | kg/m³ | [M L⁻³] | [質量]/[体積] = [M]/[L³] |
エネルギー/仕事 | J (=N・m) | [M L² T⁻²] | [力]×[距離] = [MLT⁻²][L] |
角度 | rad (ラジアン) | [1] (無次元) | (円弧の長さ/半径) |
摩擦係数 | (なし) | [1] (無次元) | (摩擦力/垂直抗力 = 力/力) |
角度(ラジアン)や摩擦係数のように、単位がない、あるいは基本量の組み合わせで単位が消えてしまう量を「無次元量」 (Dimensionless quantity) と言うよ。次元は [1] と表す。
次元解析 (Dimensional analysis) の威力 ~式のチェックに使おう!~
次元の考え方が何の役に立つのかって? それはね、物理的に正しい方程式(関係式)は、必ず両辺で次元が一致するという性質があるんだ! これを「次元の斉一性(せいいつせい)」 (Consistency of dimensions / Homogeneity of dimensions) と言うよ。
この性質を利用するのが「次元解析」だ。次元解析を使うと、次のようなことができる。
- 自分が立てた式や、覚えている公式が、次元的に見ておかしくないかチェックできる。(大きな間違いを発見できる!)
- 複雑な計算の結果出てきた量の単位や次元を推測できる。
- (時には)忘れてしまった公式の形を思い出すヒントになる。
例:等加速度運動の式をチェック!
例えば、$x = v_0 t + \frac{1}{2} a t^2$ という式。これは正しいかな? 各項の次元を調べてみよう。
- 左辺 $x$ (変位):[L]
- 右辺第1項 $v_0 t$ (初速度×時間):[LT⁻¹] × [T] = [L]
- 右辺第2項 $\frac{1}{2} a t^2$ (加速度×時間²):[1] × [LT⁻²] × [T²] = [L] (※係数 1/2 は無次元なので [1])
→ 左辺も右辺の各項も、すべて次元が [L] で一致しているね! だから、この式は次元的には正しいと言える。(もちろん、次元が合っていても係数が間違っている可能性はあるけどね。)
もし、うっかり $x = v_0 t + \frac{1}{2} a t$ と覚えていたらどうだろう?
- 右辺第2項 $\frac{1}{2} a t$ の次元:[1] × [LT⁻²] × [T] = [LT⁻¹]
→ 左辺 [L] と次元が合わない! これは明らかに間違いだと、次元解析で気づくことができるんだ!
次元解析は万能ではないけれど(数字だけの係数(1/2とか)の間違いは見つけられない)、式の形に関する大きな間違いを発見したり、式の妥当性を確認したりするのにとても役立つ考え方だよ。
まとめ:単位と次元を味方につけよう!
- 物理量を扱うときは、常に単位を意識しよう!SI単位系(m, kg, s)を基本に。単位のチェックは計算ミス防止の第一歩。
- 次元は物理量の「種類」を表す。物理法則の式は両辺で次元が一致する(次元の斉一性)。
- 次元解析を使えば、式の妥当性をチェックしたり、大きな間違いを発見したりできる。
正しい単位と次元の感覚を身につけて、物理の計算や式の理解に自信を持とう!