ウルトラ先生の「力の図示」徹底解説!

~物理の"なぜ?"をスッキリ解消~

5.2 京大入試問題に挑戦 ~独創的な設定から本質を見抜く~

はじめに:京大物理からの挑戦状!

最後の挑戦の舞台は、京都大学だ! 京大の物理入試問題は、東大と同様に高い思考力が求められるのはもちろんのこと、時には独創的 (Unique / Novel) で一見奇抜に見える設定が登場したり、物理現象のより根本的な理解や洞察力 (Insight) を試すような問題が出されたりすることもあるんだ。

しかし、どんなにユニークな設定の問題であっても、恐れることはない! 落ち着いて状況を把握し、基本に立ち返って、これまで何度も練習してきた「力の図示」を行い、基本原理 (Fundamental principles) であるニュートンの法則や保存則などを適用していけば、必ず解法の糸口は見えてくる。物理法則の普遍性 (Universality) を信じて、挑戦してみよう!

挑戦問題:動く台の上でのばね付き物体の運動

【問題設定】

質量 $M$ の台が、なめらかな水平面上に静止している。台の上面もなめらかであり、台の左端には壁が固定されている。 この壁と質量 $m$ の小物体を、自然長 $l_0$、ばね定数 $k$ の軽いばねでつなぐ。 時刻 $t=0$ に、小物体を壁から距離 $l_0 + A$ の位置(ばねが $A$ だけ伸びた位置)で静かに放す。 その後の小物体と台の運動について、以下の問いに答えよ。水平右向きを正の向きとする。

図1:静かに放す瞬間の状態 (t=0)

(1) 小物体を放した直後 ($t=0$) の、小物体および台の加速度の大きさをそれぞれ求めよ。

(2) (発展) 小物体が運動を始めてから、最初にばねの長さが自然長 $l_0$ になった瞬間の、小物体および台の速さをそれぞれ求めよ。(ヒント:この系では水平方向の運動量が保存され、力学的エネルギーも保存されることを利用せよ。)

(3) (発展) この小物体と台からなる系全体の重心は、水平方向にはどのような運動をするか、理由とともに説明せよ。

解法のステップ(主に(1)について)

【ステップ1:状況の把握と注目物体】

なめらかな水平面上に置かれた台があり、その台の上でばねにつながれた小物体が運動する、という状況だね。床と台の間、台と小物体の間には摩擦がない。ばねは軽い。 (1)では、$t=0$ の瞬間の加速度を問われている。この瞬間、小物体も台も速度はゼロだ。 注目物体は「小物体 ($m$)」「台 ($M$)」のそれぞれになる。

【ステップ2:力の図示($t=0$ の瞬間)】

それぞれの物体に働く力を考えよう。特に水平方向の力が加速度を生む。

図2:$t=0$ における小物体と台に働く力(水平方向のみ図示)

  • 小物体 $m$ に働く力(水平方向):
    • ばねからの弾性力 $F_{el}$:ばねは $A$ だけ伸びているので、自然長に戻ろうとして小物体を左向きに引く。大きさはフックの法則より $F_{el} = kA$。
    (※垂直抗力や重力は鉛直方向なので、水平方向の運動には直接関与しない。)
  • 台 $M$ に働く力(水平方向):
    • ばね(壁を通じて)から受ける力 $F'_{el}$:これは、小物体がばねを引く力(弾性力の反作用)が壁に伝わり、壁が台を押す力と考えることができる(少しややこしいが、作用・反作用を考えると結果的に)。向きは小物体がばねを引く向き(右向き)と同じになり、大きさは作用・反作用の法則から $F_{el}$ と同じ $kA$。右向き
    (※台自身の重力、床からの垂直抗力、小物体からの垂直抗力(の反作用)などは鉛直方向。)

【ステップ3&5:立式(運動方程式)】

それぞれの物体について、水平方向(右向きを正)の運動方程式 $ma=F_{合力}$ を立てよう。$t=0$ における小物体の加速度を $a_m$、台の加速度を $a_M$ とする。

  • 小物体 $m$ の運動方程式:
    $m a_m = -kA$ (弾性力は左向きなのでマイナス)
  • 台 $M$ の運動方程式:
    $M a_M = +kA$ (弾性力の反作用は右向きなのでプラス)

【ステップ4&7:計算と考察】

**(1) の答え:** 上の運動方程式から、それぞれの加速度の大きさが求まる。

  • 小物体の加速度の大きさ:$|a_m| = \frac{kA}{m}$ (向きは左向き)
  • 台の加速度の大きさ:$|a_M| = \frac{kA}{M}$ (向きは右向き)

放した瞬間、小物体は左に、台は右にそれぞれ加速し始めるんだね!

【ステップ5:発展問題 (2),(3) への挑戦】(考え方のヒント)

**(2) の考え方:**

小物体が自然長の位置に戻るということは、ばねの伸びがゼロになるということ。この過程で、系全体(小物体+台+ばね)に水平方向の外力は働いていない(ばねの力は内力)。したがって…

  • 水平方向の運動量が保存される:初めの運動量はゼロなので、任意の時刻で $mv_m + Mv_M = 0$ が成り立つ。($v_m, v_M$ はそれぞれの速度)
  • 力学的エネルギーが保存される:摩擦がないので、(運動エネルギーの合計)+(弾性エネルギー)=一定。初めは $\frac{1}{2}kA^2$。自然長に戻ったときは弾性エネルギーはゼロで、運動エネルギーは $\frac{1}{2}mv_m^2 + \frac{1}{2}Mv_M^2$。

これら2つの保存則の式を連立して、$v_m$ と $v_M$ を求めることができるよ。

**(3) の考え方:**

系全体の重心の加速度 $a_G$ は、系に働く外力の合力 $F_{ext}$ と全体の質量 $m+M$ を使って、$(m+M)a_G = F_{ext}$ と表されるんだったね。この問題では、水平方向の外力はゼロ ($F_{ext}=0$)。ということは…?

【この問題から学べること】

  • 複数の物体が相互作用しながら運動する場合でも、物体ごとに注目し、力を正確に図示して運動方程式を立てる、という基本は変わらない。
  • 物体間にはたらく力(この場合はばねの力とその反作用)は内力であり、作用・反作用の関係にあることを理解する。
  • (発展として)保存則(運動量保存、エネルギー保存)や重心の考え方が、問題を別の角度から解く強力な武器になることがある。
  • 一見複雑な設定でも、基本法則を粘り強く適用すれば解き明かせる。

京大の問題には、このように基本法則の深い理解と、それを応用する思考力を試す良問が多いんだ。

このページで出てきた英単語 (English words)

Unique / Novel
意味:独特な、他に類を見ない / 目新しい、斬新な
Kyoto University sometimes presents unique problem settings.
意訳:京都大学は時々、独特な問題設定を提示します。
Insight
意味:洞察力、見識
Solving these problems requires deep physical insight.
意訳:これらの問題を解くには、深い物理的な洞察力が必要です。
Fundamental principles
意味:基本原理
All solutions are based on fundamental principles of physics.
意訳:すべての解法は物理学の基本原理に基づいています。
Universality
意味:普遍性
The universality of physical laws allows us to apply them in various situations.
意訳:物理法則の普遍性によって、私たちはそれらを様々な状況に適用することができます。
Internal force (復習)
External force (復習)
System (復習)
意味:内力 / 外力 / 系
Consider individually (復習)
意味:個々に考える
Conservation law (復習)
意味:保存則
Center of mass (復習)
意味:重心、質量中心