5.1 東大入試問題に挑戦 ~思考力を刺激する力の分析~
はじめに:東大物理の挑戦状!
いよいよ具体的な難問への挑戦だ! ここでは、日本の最高学府の一つである東京大学の入試問題で問われるような、深い思考力や洞察力を必要とする問題のエッセンスに触れてみよう。(※著作権の関係上、実際の問題そのものではなく、同レベルの思考を要求するオリジナル問題または改変問題で解説するよ。)
東大の物理では、単に公式を覚えて当てはめるだけでは太刀打ちできない問題が多い。現象をしっかり理解し、適切な物理モデルを設定し、基本法則に基づいて論理的に考察を進める力が求められるんだ。 そして、その全ての土台となるのが、やはり「正確な力の図示」なんだ。複雑な状況を解きほぐす最初のステップとして、力の図示の重要性を再確認しよう!
挑戦問題:円錐面上の小球の等速円運動
【問題設定】
頂点からの半頂角(中心軸と母線のなす角)が $\alpha$ である、なめらかな円錐面の内側がある。この円錐面の内側で、質量 $m$ の小球が、水平面内で等速円運動をしている。小球が描く円運動の半径を $r$、その速さを $v$ とする。重力加速度の大きさを $g$ として、以下の問いに答えよ。
図1:円錐面内を等速円運動する小球
(1) この小球に働く力をすべて図示し、それぞれの力の名称を答えよ。
(2) この円運動の向心力の大きさ $F_c$ を、$m, r, v$ を用いて表せ。
(3) 小球に働く力を、鉛直方向と水平方向(円の中心方向)に分解し、それぞれの方向における力のつり合いの式、または運動方程式を立てよ。(垂直抗力の大きさを $N$ とする。)
(4) 円運動の速さ $v$ を、$g, r, \alpha$ を用いて表せ。
--- (発展) ---
(5) 次に、円錐面に摩擦があり、小球との間の静止摩擦係数を $\mu_s$ とする。小球が半径 $r$ の円運動を保つことができる速さ $v$ の範囲を、$g, r, \alpha, \mu_s$ を用いて表せ。(静止摩擦力が最大になる場合を考えよ。)
解法のステップ
【ステップ1:状況の把握と注目物体】
小球がなめらかな円錐面の内側を、一定の速さ $v$、半径 $r$ で水平にぐるぐる回っている状況だね。注目物体はもちろん「小球 (質量 $m$)」だ。
【ステップ2:力の図示(最重要ポイント!)】
図2:小球に働く力の図示
小球に働く力は、以下の2つだけだね。
- 重力 $mg$:鉛直下向き。
- 垂直抗力 $N$:円錐面から受ける力で、面に垂直な向き(図のように、鉛直方向から角 $\alpha$ だけ外側に傾いた向き)。
(※「なめらか」なので摩擦力は働かない。「向心力」は力の種類ではないので、ここでは描かない。)
**(1) の答え:** 上記の2力(重力と垂直抗力)。
【ステップ3:立式(運動方程式 or つり合い)】
**(2) の答え:** 円運動の向心力は、定義より $\boldsymbol{F_c = m \frac{v^2}{r}}$ と表される。
**(3) の考え方:**
円運動の中心は水平面内にあるので、座標軸を鉛直方向(上下)と水平方向(円の中心向き)に取るのが便利だ。 働く力のうち、垂直抗力 $N$ が斜めを向いているので、これを分解しよう。
- $N$ の鉛直成分:$N\cos\alpha$ (上向き)
- $N$ の水平成分:$N\sin\alpha$ (円の中心向き)
次に、各方向で力の関係を考える。
- 鉛直方向: 小球は上下には動かないので、力はつり合っている。
つり合いの式: (上向きの力) = (下向きの力)
$\boldsymbol{N\cos\alpha = mg}$ ...(式①) - 水平方向(円の中心方向): 小球はこの方向に向心加速度 $a_c = v^2/r$ で運動している。したがって、この方向には運動方程式を立てる。中心向きの力が向心力の役割を果たしている。
運動方程式 $ma = F_{合力(中心向き)}$:
$\boldsymbol{m\frac{v^2}{r} = N\sin\alpha}$ ...(式②)
**(3) の答え:** 鉛直方向: $N\cos\alpha = mg$, 水平方向: $m\frac{v^2}{r} = N\sin\alpha$。
【ステップ4:計算と考察】
**(4) の考え方:**
(3)で立てた2つの式(式①と式②)から、求めたい $v$ を導く。未知数で不要なのは $N$ なので、これを消去しよう。
式①より、$N = \frac{mg}{\cos\alpha}$。これを式②に代入すると、
$m\frac{v^2}{r} = \left( \frac{mg}{\cos\alpha} \right) \sin\alpha$
$m\frac{v^2}{r} = mg \frac{\sin\alpha}{\cos\alpha} = mg \tan\alpha$
両辺の $m$ を消して、$v^2$ について解くと、
$v^2 = gr\tan\alpha$
$v > 0$ なので、 $v = \sqrt{gr\tan\alpha}$ となる。
**(4) の答え:** $\boldsymbol{v = \sqrt{gr\tan\alpha}}$。
考察:この結果を見ると、速さ $v$ は質量 $m$ にはよらないことが分かるね! また、角度 $\alpha$ が大きいほど(円錐が平らに近くなるほど)、$\tan\alpha$ が大きくなるので、同じ半径 $r$ で回るにはより大きな速さ $v$ が必要になることが分かる。感覚とも合っているかな?
【ステップ5:発展問題 (5) への挑戦】(考え方のヒント)
**(5) の考え方:**
今度は円錐面に摩擦がある場合。小球が半径 $r$ を保ったまま回れる速さ $v$ の範囲を考える。
- 働く力に静止摩擦力 $f_s$ が加わる。向きは?
- 速さ $v$ が遅すぎる場合:小球は下に滑り落ちそうになる。それを防ぐために、静止摩擦力は斜面に沿って上向きに働く。このときの速さが $v_{min}$。静止摩擦力は最大値 $f_{s,max} = \mu_s N$ になっていると考える。
- 速さ $v$ が速すぎる場合:小球は上に滑り上がりそう(外に飛び出しそう)になる。それを防ぐために、静止摩擦力は斜面に沿って下向きに働く。このときの速さが $v_{max}$。静止摩擦力は同じく最大値 $f_{s,max} = \mu_s N$ になっていると考える。
それぞれのケースで、摩擦力も考慮に入れて力の分解を行い、鉛直方向のつり合いと水平方向(中心方向)の運動方程式を立てて、$v_{min}$ と $v_{max}$ を求めることになる。計算は少し複雑になるけれど、基本のステップは同じだよ! チャレンジしてみてほしい。
【この問題から学べること】
- 複雑に見える運動(円錐面上の円運動)も、基本の力(重力、垂直抗力、摩擦力)の組み合わせで分析できる。
- 力の分解(特に重力と、今回は垂直抗力も分解した)と座標軸の適切な設定(鉛直と水平)が極めて重要。
- 円運動では、中心方向の力の合力が向心力 ($mv^2/r$) になる、という運動方程式の立て方を理解する。
- 静止摩擦力は、状況に応じて向きと大きさが変わる(最大値まで)。
- 基本的な法則を正しく適用すれば、一見難しそうな問題も解き明かせる。
力の図示から始まり、力を分解し、法則に当てはめて立式する、という物理の王道のプロセスを体験できたかな?