3.6 円運動 (Circular Motion) と向心力 (Centripetal Force) ~ぐるぐる回る運動の秘密~
円運動って、どんな運動?
遊園地のコーヒーカップや回転ブランコ、陸上競技のトラックのカーブ、バケツに水を入れてぐるぐる回す遊び、そして地球の周りを回る月や、太陽の周りを回る地球…。私たちの周りには、物が円を描くように回る運動がたくさんあるね。このような運動を「円運動」 (Circular Motion) と呼ぶんだ。
特に、物が一定の速さで円を描き続ける運動のことを「等速円運動」 (Uniform Circular Motion) と言うよ。
ここで注意! 等速円運動は「速さ」は一定だけど、「速度(向きを含む)」は常に変化しているんだ。だって、円周上をぐるぐる回っている間、進む向きは刻一刻と変わっているでしょう?
速度が変化するということは…? そう、ニュートンの第1法則(慣性の法則)によれば、速度が変化するには力が働いている必要がある。つまり、等速円運動は、常に加速度が生じている運動なんだ!
円運動の加速度:向心加速度
等速円運動をしている物体には、常に加速度が生じている。じゃあ、その加速度はどっち向きで、大きさはどれくらいなんだろう?
- 加速度の向き: なんと、常に円の中心 (Center) を向いているんだ! だから、この加速度のことを「向心加速度」 (Centripetal acceleration) と呼ぶよ。(Centripetal = Center-seeking 中心を求める、という意味)
- 加速度の大きさ $a_c$: 物体の速さを $v$ [m/s]、円運動の半径 (Radius) を $r$ [m] とすると、向心加速度の大きさは次のように表されるんだ。
$$ a_c = \frac{v^2}{r} $$(角速度 $\omega$ [rad/s] を使うと $a_c = r\omega^2$ とも書けるよ。)
下の図は、等速円運動する物体の、ある瞬間での速度ベクトル(円の接線方向)と加速度ベクトル(中心方向)を示しているよ。物体が動くにつれて、速度ベクトルの向きは変わるけど、加速度ベクトルは常に中心を指しているのが分かるかな?
図1:等速円運動する物体の速度 $\vec{v}$ と向心加速度 $\vec{a}_c$
向心力とは? ~円運動を引き起こす力~
さて、加速度があるところには、必ず力が働いているはずだよね(ニュートンの第2法則 $ma=F$!)。 円運動の場合、この中心向きの加速度(向心加速度)を生み出している力のことを、特別に「向心力」 (Centripetal Force) と呼ぶんだ。
向心力は、常に円の中心を向いていて、その大きさ $F_c$ は、運動方程式 $F=ma$ に向心加速度 $a_c = v^2/r$ を代入して、次のように表される。
向心力の大きさ $F_c$ [N] = 質量 $m$ [kg] $\times$ 向心加速度 $a_c$ [m/s²]
$$ F_c = m a_c = m \frac{v^2}{r} $$
(角速度 $\omega$ を使うと $F_c = mr\omega^2$)
【超重要!】 向心力というのは、新しい種類の力ではないんだ! 重力、張力、摩擦力、垂直抗力など、これまで学んできた具体的な力が、たまたま円運動の中心向きに働いて、その「役割」を果たしているときに、その力を(あるいは中心向きの力の合力を)「向心力」と呼んでいるだけなんだ。 力の図示をするときに、「向心力」という名前の矢印を新たに描き加えるわけではないから、絶対に注意してね!
向心力の「正体」を探れ!
円運動の問題を解く鍵は、「この円運動の向心力として、実際にどんな力が働いているのか?」を見抜くことにある。状況によって、向心力の「正体」は様々だよ。
図2:向心力の正体の例
- 糸につけたおもりを水平面で回す: おもりを円軌道の内側に引っ張っているのは糸の張力 $T$ だね。だから、この場合の向心力は張力。運動方程式は $m \frac{v^2}{r} = T$ となる。
- 地球の周りを回る月: 月を地球の中心に向かって引っ張っているのは、地球と月の間の万有引力(重力)$F_G$ だ。これが向心力の役割をしている。運動方程式は $m \frac{v^2}{r} = F_G$。
- 水平なカーブを曲がる車: 車がカーブの外側に飛び出さずに曲がれるのは、タイヤと路面の間に中心向きの静止摩擦力 $f_s$ が働いているからだ。これが向心力。運動方程式は $m \frac{v^2}{r} = f_s$。静止摩擦力には最大値 $\mu_s N$ があるから、速すぎると ($mv^2/r$ が $\mu_s N$ を超えると) 曲がりきれずに滑ってしまうんだね。
このように、円運動を見たら、まず「何が中心向きに引っ張っている力(向心力)になっているのかな?」と考えることが大切だよ!
円運動の問題を解く手順
円運動の問題も、基本的な考え方はこれまでと同じだよ。
- 注目物体を定める。
- 円運動の中心と半径 $r$ を確認する。
- 物体に働く力をすべて図示する。
- 座標軸を、円の中心方向(向心方向)と、それに垂直な方向(例:接線方向 Tangential direction や鉛直方向)に設定する。
- 力を座標軸の方向に分解する。
- 円の中心方向について、運動方程式 $\boldsymbol{m \frac{v^2}{r} = F_{合力(中心向き)}}$ を立てる。($F_{合力(中心向き)}$ は、中心向きの力の成分の合計から、中心と反対向きの力の成分の合計を引いたもの)
- 中心方向以外の軸について、力のつりあいの式 ($\sum F_{\perp} = 0$) を立てる。(必要な場合)
- 方程式を解く。
ポイントはステップ6! 中心方向の力の合力が、向心力 $m v^2 / r$(または $mr\omega^2$)と等しくなる、という式を立てることだね。
【注意】遠心力 (Centrifugal force) って何?
円運動の話をすると、よく「遠心力」という言葉を聞くかもしれないね。カーブで外側に引っ張られる感じを「遠心力が働いた!」と言う人もいる。 でも、注意が必要だ!
遠心力というのは、実は慣性力の一種なんだ。つまり、円運動をする物体と一緒に回転している観測者(非慣性系)から見たときに考えられる「見かけの力」なんだよ。 遠心力は、円の中心から遠ざかる向きに、$m \frac{v^2}{r}$ の大きさで働くと考えられる。
でも、慣性系(静止している観測者)から見れば、遠心力なんて力は存在しないんだ。慣性系から見ると、物体は本来まっすぐ進みたい(慣性の法則!)。それを無理やり中心向きの力(向心力)で引っ張っているから、円運動をしている、と考えるのが基本だよ。
高校物理では、混乱を避けるためにも、まずは慣性系で考えて、実際に働いている力の中から「向心力」の役割をしている力を見つける、という考え方で問題を解くことを強くオススメするよ! 遠心力は、どうしても非慣性系で考えたい場合に使う「特別な道具」くらいに思っておこう。
【練習】円運動シミュレーション! (準備中)
ここでは、円運動の速さや半径、質量を変えると、必要な向心力がどう変化するかをシミュレーションで見たり、向心力(例えば糸の張力)に限界がある場合に、それを超えると物体がどうなるか(糸が切れて接線方向に飛んでいく様子など)を観察できるアプリを準備する予定だよ!
(ここに円運動練習用JSアプリが入る予定です)
第3章のゴール!
これで第3章「様々な状況における力の図示」もクリアだ!複数の物体、斜面、浮力、空気抵抗、慣性力、そして円運動と、色々な応用的な状況を見てきたね。 どんなに複雑に見える状況でも、基本に立ち返って「注目物体を決め」「力を図示し」「法則を適用する」というステップを踏めば、ちゃんと分析できることが分かったんじゃないかな?
特に、力の図示の重要性は、ますます身に染みて感じられたことだろう。 次の第4章では、これまで少しずつ触れてきた「物理モデルと現実のギャップ」というテーマ、特に「どの力を無視していいのか?」という判断力を磨くことに焦点を当てていくよ。物理の"目"をさらにレベルアップさせよう!