2.1 力のつりあい (Force Equilibrium) ~力がプラスマイナスゼロの状態~
「力のつりあい」って、どういう状態?
机の上に置かれた本、天井からぶら下がっている電気、壁にかかっている時計…。私たちの身の回りには、ピタッと静止しているものがたくさんあるよね。 また、エスカレーターが一定の速さで人を運んでいたり、まっすぐな道を車が同じスピードで走り続けたりするのも見かけることがある。
これらの物体には、重力や垂直抗力、張力など、複数の力が働いているはずなのに、どうして動きが変化しないんだろう? それは、物体に働いている力が「つり合っている」からなんだ!
物理でいう力のつりあい (Force Equilibrium) とは、物体に複数の力が働いているにもかかわらず、
- 物体が静止し続けている状態
- 物体が等速直線運動を続けている(つまり、速さも向きも変わらない運動)状態
のことを言うよ。このとき、物体に働いている力は、お互いに効果を打ち消し合って、まるで力が全く働いていないかのような結果になっているんだ。(でも、実際に力が働いていないわけではないから注意してね!)
力のつりあいの条件:合力がゼロ!
では、どんなときに力が「つり合っている」と言えるんだろう? その条件はたった一つ!
「合力」というのは、物体に働くすべての力を、向きも考慮して足し合わせた(ベクトル的に合成した)もののこと。 これが「ゼロ」になるということは、力が完全に打ち消し合っている状態を意味するんだ。数学の式で書くと、$\sum \vec{F} = \vec{0}$ と表されるよ。($\sum$ は「全部足す」という意味の記号で、$\vec{F}$ は力のベクトルを表すよ。)
1次元(直線上の力)の場合のつりあい
力が一直線上でしか働かない場合は簡単! 例えば、綱引きで両チームが同じ強さで反対向きにロープを引けば、ロープは動かないよね? このとき、左右の力がつり合っているんだ。つまり、反対向きに働く力の大きさが等しいとき、力はつり合う。
図1:綱引きのつりあい (左右の力が同じ大きさならロープは動かない)
2次元(平面上の力)の場合のつりあい:力の合成と分解
力が平面上のいろんな向きに働く場合は、ちょっと工夫が必要だ。ここで役立つのが力の合成 (Composition of forces) と力の分解 (Resolution of forces) という考え方だよ。
- 力の合成:複数の力を、それらと同じ効果を持つ1つの力(合力)にまとめること。矢印の根元を合わせて平行四辺形を作ったり、矢印を次々につないでいったりする方法があるよ。
- 力の分解:1つの力を、複数の力(通常は互いに垂直な2つの方向の成分 (Component) に分けること。三角比 ($\sin\theta, \cos\theta$) を使うことが多いね。
(三角比が苦手な人は、付録のベクトルの基礎知識のページも見てみてね!)
平面上で複数の力がつり合っているとき、これらの力をベクトルとして次々につなぎ合わせていくと、最終的に元の出発点に戻ってくるんだ。つまり、力の矢印で作った多角形が閉じる、ということ。
図3:3つの力がつり合っている場合、力のベクトルをつなぐと閉じた三角形になる。
もっと実用的なのは、力を互いに垂直な2つの方向(例えば、水平方向(x方向)と鉛直方向(y方向))に分解して、それぞれの方向で力の成分の合計がゼロになる、という条件を使う方法だよ。
x方向の力の成分の合計: $\sum F_x = 0$
y方向の力の成分の合計: $\sum F_y = 0$
この2つの式が同時に成り立っていれば、力はつり合っているんだ!
力のつり合いの具体例と力の図示
実際にどんな場面で力がつり合っているのか、力の図示と合わせて見てみよう。
例1:水平な床に置かれた物体(静止)
物体に働く力は…
- 鉛直下向きの重力 $W$
- 鉛直上向きの垂直抗力 $N$
この物体は静止しているので、これらの力が鉛直方向でつり合っている。つまり、力の大きさが等しく向きが反対なので…
つりあいの式: $N - W = 0 \quad \implies \quad N = W$
(もし質量が $m$ なら $W=mg$ なので、$N=mg$ となるね)
例2:天井から糸で吊るされた物体(静止)
物体に働く力は…
- 鉛直下向きの重力 $W$
- 鉛直上向きの糸の張力 $T$
物体は静止しているので、これらの力が鉛直方向でつり合っている。つまり…
つりあいの式: $T - W = 0 \quad \implies \quad T = W$
(これも質量が $m$ なら $T=mg$ だね)
例3:なめらかな斜面上で、斜面に平行な力 $F$ で支えられて静止している物体
物体に働く力は…
- 鉛直下向きの重力 $W$
- 斜面から垂直な向きの垂直抗力 $N$
- 斜面に平行上向きに支える力 $F$
- (もし摩擦があるなら、摩擦力も考える)
力を「斜面に平行な方向」と「斜面に垂直な方向」に分解して考えると…
つりあいの式:
・斜面に垂直な方向: $N - W\cos\theta = 0 \quad \implies \quad N = W\cos\theta$
・斜面に平行な方向: $F - W\sin\theta = 0 \quad \implies \quad F = W\sin\theta$
($\theta$ は斜面の角度だよ)
※例4:2本の糸で吊るされた物体は、力の分解が少し複雑になるので、ここでは省略しますが、考え方は同じだよ!
力のつり合いの問題を解く手順まとめ
力のつり合いの問題が出てきたら、次の順番で考えていくとスムーズに解けることが多いよ。
- 注目物体を定める。
- 物体に働く力をすべて図示する。(力の種類、作用点、向きを正確に!)
- 座標軸を設定し、力を成分に分解する。(水平・鉛直方向や、斜面の問題なら斜面に平行・垂直な方向が便利)
- 各方向について、力のつりあいの式を立てる。(例:$\sum F_x = 0$, $\sum F_y = 0$)
- 方程式を解いて、未知の力などを求める。
この手順をしっかり身につければ、力のつり合いの問題はバッチリだ!
【練習】力のつり合いを考えてみよう! (準備中)
ここでは、力のつり合いの考え方を使って、簡単な問題を解く練習アプリを置く予定だよ。 例えば、いくつかの力が矢印で示されていて、そのうち一つの力の大きさが「?」になっているのを計算したり、 つり合いの式の一部を穴埋めしたりするようなものを考えているよ。お楽しみに!
(ここに力のつり合い練習用JSアプリが入る予定です)