03-05: ビブラートってかっこいい!~どうやって声をvibrate(ヴァイブレイト:震わせる)の?~
正しい姿勢、腹式呼吸、声帯のウォームアップ、響きのある声、そしてクリアな滑舌…。ここまでたくさんの発声練習を頑張ってきましたね!声の基礎がだいぶ整ってきたことでしょう。
今回は、あなたの歌にさらに彩りや深みを加え、感情豊かな表現を可能にする歌唱テクニックの一つ、「Vibrato(ヴィブラート、ビブラート)」について学んでいきましょう。プロの歌手が歌の終わりや伸ばす音で、声を「ふぅ〜〜〜ん」と心地よく揺らしているのを聴いたことがありませんか?あれがビブラートです!
Vibrato(ビブラート)とは何か?
ビブラートとは、声を一定の周期で、音の高さ(pitch ピッチ)をわずかに上下に揺らす歌唱テクニックです。まるで、声に優しい波が加わるようなイメージですね。
※ 音量が周期的に変化する「トレモロ」とは区別されますが、ここではまず音程の揺れであるビブラートに集中しましょう。
ビブラートの効果って?
- 声に豊かさ、深み、温かみ、そしてexpression(エクスプレッション:表現力)を与えます。
- ロングトーン(長く伸ばす音)を単調にせず、より美しく、安定して聴かせることができます。
- 歌に感情を乗せやすくなります(例えば、切なさ、感動、余韻など)。
- 一般的に「歌が上手い」という印象を与える効果もあります。
ビブラートの仕組み(イメージ)
ビブラートは、横隔膜や喉の周りの筋肉を繊細にコントロールすることで、息の圧力や声帯の張り具合を周期的に変化させて生み出されます。大切なのは、これが意図的にコントロールされた「安定した揺れ」であるということです。声が不安定でただ震えているのとは全く違います。
下の図は、ビブラートがかかった声の音程がどのように変化するかを示したイメージです。横軸が時間、縦軸が音の高さです。
緑線:ビブラートなしの音、青線:ビブラートありの音(イメージ)
このように、ビブラートがかかった声は、基準となる音程を中心に、滑らかな波を描くように上下に揺れます。この揺れの「幅(振幅)」と「速さ(周期)」が適切で、心地よく聞こえることが重要です。
ビブラートの種類(軽く触れる程度)
ビブラートのかけ方にはいくつかのタイプがあると言われています。
- 横隔膜ビブラート:お腹(横隔膜)の動きで息の圧力をコントロールしてかけるタイプ。自然で安定したビブラートになりやすいと言われます。
- 喉ビブラート:喉の筋肉を微妙に動かしてかけるタイプ。コントロールが難しく、不自然な揺れになったり喉に負担がかかったりすることもあるため、注意が必要です。
- あごビブラート:あごを揺らしてかけるタイプ。これは見た目にも不自然で、声自体が揺れているわけではないため、基本的には使いません。
理想は、これらのどこか一箇所で無理にかけるのではなく、体全体がリラックスし、横隔膜の支えのもとで自然に声が揺れる状態ですが、最初は意識的な練習から入ることが多いです。
ビブラートの練習方法(はじめの一歩)
1. 横隔膜を意識した練習(ドッグブレスの応用)
腹式呼吸の練習でやった「ドッグブレス」(「ハッ、ハッ、ハッ」と犬のように短く息を吐く練習)を思い出してみましょう。あれは横隔膜をリズミカルに動かす練習でしたね。
- まず、出しやすい高さの音で「あーーー」とまっすぐ声を伸ばします(ロングトーン)。
- そのロングトーンに、お腹(横隔膜のあたり)を使って、ごく軽く「ハッ、ハッ」と息の圧力を加えるようなイメージで、音に周期的なアクセントをつけてみます。「あー(揺)あー(揺)あー(揺)あー」という感じです。
- 最初はゆっくり、1秒間に2~3回程度の揺れから始めてみましょう。お腹の動きと声の揺れが連動する感覚を掴みます。
2. 音程を意識的に揺らす練習
今度は、音程そのものを意識的に少しだけ上下させてみましょう。
- 出しやすい高さで「あーーー」とロングトーンをします。
- その音を基準に、ほんの少しだけ(半音のさらに半分よりも狭いくらいのイメージで)音程をゆっくりと上げ、また元の音に戻し、次にほんの少しだけ下げ、また元の音に戻す、という動きを繰り返します。「あー(上)あー(元)あー(下)あー(元)あー(上)…」という感じです。
- メトロノームを使って、一定の周期(例えばBPM60で1拍に1往復、または2往復など)でこの揺れをコントロールできるように練習します。揺れの幅が大きくなりすぎないように注意しましょう。
3. 好きな歌手のビブラートを真似てみる
あなたの好きな歌手で、ビブラートが綺麗だなと思う人はいませんか?その人の歌をよく聴いて、どんなタイミングで、どんな速さ・幅のビブラートを使っているか観察してみましょう。そして、それを真似して歌ってみるのも良い練習になります。耳で聴いた良いイメージを自分の声で再現しようとすることで、感覚が掴みやすくなることがあります。
ビブラートをかける上での注意点
- かけすぎは禁物:ビブラートはあくまで装飾。全ての音にかける必要はなく、曲の雰囲気や歌詞の内容に合わせて効果的に使いましょう。使いすぎるとくどい印象になることも。
- 揺れの幅や速さをコントロール:不自然に大きすぎる揺れや、細かく速すぎる揺れ(「ちりめんビブラート」と呼ばれることもあります)は、聴いていて心地よくありません。自然で安定した揺れを目指しましょう。
- 「こぶし」との違い:演歌などでよく使われる「こぶし」は、音程を瞬間的に細かく動かす装飾音で、滑らかな波を描くビブラートとは異なります。
ビブラートは、歌の表現力を豊かにしてくれる素晴らしいテクニックです。一朝一夕にマスターできるものではありませんが、正しい方法で根気強く練習すれば、必ず自然で美しいビブラートが身につきます。焦らず、楽しみながら取り組んでいきましょう。