03-06: 裏声と地声を使い分けよう~Mixed Voice(ミックスドボイス)への挑戦~
正しい姿勢と呼吸、声帯のウォームアップ、響きの良い声、そしてクリアな滑舌…。第3章の発声練習も、いよいよ最後のテーマです!ここまで本当によく頑張りましたね。
私たちの声には、実はいくつかの「vocal register(ボーカル・レジスター:声区(せいく))」と呼ばれる、響きや出し方の異なる領域があります。この声区を理解し、上手に使い分けることで、歌える音域がグッと広がり、表現の幅も豊かになります。
このページでは、特に重要な「Chest Voice(チェストボイス:地声)」と「Head Voice(ヘッドボイス:裏声の一種)」、そしてそれらを滑らかにつなぐ「Mixed Voice(ミックスドボイス:ミックスボイス)」という魔法のような声について学んでいきましょう!
Chest Voice(チェストボイス):普段の声に近い、力強い地声
チェストボイスは、私たちが普段話しているときの声に近い、胸のあたりで響きを感じる、比較的太く力強い声です。文字通り、胸(chest)が共鳴するような感覚があることから、この名前がついています。
- 特徴: 声帯が比較的厚く、しっかりと振動して音を出します。主に低音域から中音域で使われます。
- メリット: パワフルな歌声、しっかりとした芯のある声、言葉がはっきり伝わりやすい。
- デメリット: 無理に高い音を出そうとすると、喉を締め付けやすく、苦しい声になりがち。
- 感じ方: 胸に軽く手を当てて「あー」と声を出してみると、胸がビリビリと振動するのを感じられるでしょう。
Head Voice(ヘッドボイス) / Falsetto(ファルセット):軽やかで澄んだ裏声
ヘッドボイスやファルセットは、一般的に「裏声」と呼ばれる声です。頭や鼻のあたり(頭部)で響きを感じる、軽やかで澄んだ、または息漏れの多い柔らかい声です。
- ヘッドボイスとファルセットの簡単な違い:
- ヘッドボイス: 声帯が薄く引き伸ばされて振動し、芯のある澄んだ高音が出やすいです。比較的コントロールしやすく、豊かな響きを持つことがあります。
- ファルセット: 声帯の縁(ふち)だけが軽く振動し、息漏れが多く、より柔らかくか細い、天使のような高音が出やすいです。
※ 最初はまとめて「裏声」として、地声とは違う高い声を出す感覚を掴むことから始めても大丈夫です。
- 特徴: 高い音域を出すのに適しています。
- メリット: 優しい表現、柔らかいニュアンス、楽に高音が出せる。
- デメリット: 地声に比べてパワーが出しにくい、低音域では響きにくい。
- 感じ方: 高い声で「ふー」とハミングしてみると、頭のてっぺんや眉間のあたりが振動するのを感じられることがあります。
Animation(アニメーション)で見てみよう!声区と響きのイメージ
下のボタンを押すと、チェストボイスとヘッドボイスのときの響きの場所と、声帯の振動の様子の簡単なイメージがアニメーションで見られます。
なぜ声区の使い分けが大切なの?
地声と裏声を上手に使い分けられるようになると、以下のようなメリットがあります。
- 歌える音域が広がる: 地声だけでは出せない高い音も、裏声を使えば楽に出せるようになります。
- 表現力が豊かになる: 曲の雰囲気や歌詞の内容に合わせて、力強い地声と優しい裏声を使い分けることで、歌にメリハリがつき、感情をより豊かに表現できます。
- 喉への負担を軽減する: 無理に地声で高音を出そうとして喉を締め付けるのを防ぎ、楽に歌えるようになります。
Mixed Voice(ミックスドボイス):地声と裏声の魔法の架け橋
さて、いよいよ多くの人が憧れる「ミックスボイス」の登場です。ミックスボイスとは、その名の通り、地声(チェストボイス)の力強さや響きと、裏声(ヘッドボイス)の高さや軽やかさがバランス良く混ざり合ったような声のことです。
ミックスボイスが出せるようになると、地声から裏声へ(またはその逆へ)移るときの声質の急な変化(換声点、かんせいてん、またはブレイクポイントと呼ばれます)が目立たなくなり、まるで一つの声のように滑らかに、低い音から高い音まで歌いこなせるようになります。特に、ポップスやロックでよく聴かれる、中音域から高音域にかけてのパワフルかつ伸びやかな声は、このミックスボイスが使われていることが多いです。
ミックスボイスの習得は、ボイストレーニングの中でも一つの大きな目標であり、時間と根気強い練習が必要です。でも、諦めずに取り組めば、必ずその感覚を掴むことができます。
ミックスボイス習得への第一歩(導入的な練習)
ここでは、本格的なミックスボイストレーニングに入る前の、ごく基本的な「意識付け」と「準備運動」としての練習を紹介します。
1. 声区の「切り替わり(換声点)」を意識する
まずは、自分の地声と裏声がどこで切り替わるのか(換声点)を知ることから始めましょう。
- 地声の出しやすい低い音から、「あー」や「おー」といった母音で、ゆっくりと音階を上がっていきます。どこかの音で、声が裏返ったり、急に弱々しくなったりするポイントがあるはずです。そこがあなたの地声の上限に近い換声点です。
- 逆に、裏声の出しやすい高い音から、同じようにゆっくりと音階を下がってきます。地声にスムーズに移行できず、声が途切れたり、ガクンと変わったりするポイントが、裏声の下限に近い換声点です。
- この「切り替わり」を、できるだけ意識して、滑らかにつなげようと試みることが第一歩です。
2. 「つなぎ」を意識した優しい発声練習
声帯に負担の少ない発声方法(リップロール、タングトリル、ハミングなど)を使って、地声の音域から裏声の音域へ(またはその逆へ)、できるだけ滑らかに音程を移動させる練習をします。
- リップロールで「ブルルル~」と低い音から高い音へ、サイレンのように音を上げていき、裏声の領域までつなげます。このとき、途中で唇の振動が止まったり、声が途切れたりしないように、息の支えを意識します。
- ハミング「ン~~~」でも同様に、低い音から高い音へ滑らかにつなげる練習をします。鼻腔や頭の響きを感じながら行いましょう。
- 「な」「ま」「にゃ」など、鼻にかかりやすい子音を使って、「なーあーあー(低音から高音へ)」や「まーあーあー」と、換声点をまたぐように発声練習するのも効果的です。
大切なこと:この段階では、完璧なミックスボイスを出すことよりも、地声と裏声の響きの違いを感じ取り、その間をできるだけスムーズにつなげようと「意識する」ことが重要です。力まかせにやろうとせず、リラックスして、色々な音の出し方を試してみてください。
地声と裏声、そしてそれらを繋ぐミックスボイス。これらの声区を理解し、コントロールできるようになることは、あなたの歌の表現力を飛躍的に高めてくれます。ミックスボイスの習得は簡単な道ではありませんが、これまで学んできた姿勢、呼吸、そして様々な発声練習の積み重ねが、必ずその土台となります。焦らず、じっくりと自分の声と向き合っていきましょう。
これで第3章「響く声を手に入れよう!」は終わりです。お疲れ様でした!次の第4章では、いよいよカラオケで実践するためのテクニックを学んでいきますよ!