03-01-02: アニメーションで学ぶAbdominal Breathing(腹式呼吸) ~歌声が変わる息の使い方~
前のページでは、歌うときの正しい姿勢について学びましたね。良い姿勢は、良い呼吸をするための第一歩です。そして今回は、歌声を力強く、そして安定させるために不可欠な「abdominal breathing(アブドミナル・ブリージング:腹式呼吸)」をマスターしましょう!
「腹式呼吸」と聞くと、なんだか難しそうに感じるかもしれませんが、心配いりません。その仕組みを理解し、ステップごとに丁寧に練習すれば、誰でも必ず身につけることができます。腹式呼吸をマスターすると、こんな良いことがありますよ。
- より深く、たくさんの息を吸えるので、長いフレーズも楽に歌えるようになります。
- 安定した息のコントロールができるようになり、声が震えたり、かすれたりしにくくなります。
- 喉に余計な力が入りにくくなり、リラックスした発声につながります。
腹式呼吸のメカニズム:Diaphragm(ダイアフラム:横隔膜)の働き
普段私たちが無意識にしている呼吸の多くは「胸式呼吸(きょうしきこきゅう)」といって、主に肋骨(ろっこつ)を広げて胸で息をする方法です。これに対して「腹式呼吸」は、肺の下にある「diaphragm(横隔膜)」という大きな筋肉を主に使って呼吸する方法です。
下の図は、胸式呼吸と腹式呼吸の簡単なイメージです。
横隔膜は、ドーム型(お椀をふせたような形)をしていて、肺のすぐ下にあります。この横隔膜が上下することで、呼吸が行われます。
- 息を吸うとき (Inhale インヘイル): 横隔膜が下にグーッと下がります。すると、肺が下に引っ張られて広がるためのスペースができ、そこに空気が自然と流れ込みます。横隔膜が下がることで内臓が少し押し下げられるため、お腹が前に膨らむように見えます。
- 息を吐くとき (Exhale エクスヘイル): 横隔膜がリラックスして元のドーム型にグーッと上がります。すると、肺が押し上げられて縮み、空気が外に送り出されます。このとき、お腹はへこんでいきます。
Animation(アニメーション)で見てみよう!横隔膜の動き
下の「再生」ボタンを押すと、腹式呼吸のときの横隔膜と肺、お腹の動きがアニメーションで見られます。「吸う」「吐く」の動きをじっくり観察してみてください。
腹式呼吸の練習ステップ
では、実際に腹式呼吸を練習してみましょう。焦らず、一つ一つのステップを確かめながら進めてくださいね。
ステップ1:感覚を掴む練習(寝ながら)
最初は、一番感覚を掴みやすい仰向けで練習します。
- 床やベッドの上に仰向けに寝て、膝を軽く立てます。体はリラックスさせましょう。
- 片方の手をお腹(おへその少し下あたり)に、もう片方の手を胸の上にそっと置きます。
- まず、体の中の空気を全部吐き出すイメージで、口からゆっくりと息を「ふーっ」と吐き切ります。お腹がへこんでいくのを感じましょう。
- 次に、鼻からゆっくりと、お腹に置いた手が持ち上がるのを感じながら息を吸い込みます。このとき、胸に置いた手はあまり動かないように意識するのがポイントです。お腹が風船のように膨らんでいくイメージです。
- いっぱいまで吸い込んだら、今度は口から「スーッ」と細く長く、お腹がゆっくりとへこんでいくのを感じながら息を吐き出します。
- これを5~10回ほど繰り返しましょう。
Tip:お腹の動きが分かりにくい場合は、お腹の上に軽めの本などを乗せてみると、本が上下するのを目で確認できて分かりやすいですよ。
ステップ2:座って練習
寝ながらの練習で感覚が掴めてきたら、次は座って練習してみましょう。
- 前のページで学んだ「正しい座り姿勢」で椅子に座ります。背筋を伸ばし、肩の力は抜きましょう。
- 寝ていたときと同じように、片手をお腹に、もう片方の手を胸に置きます。
- 鼻からゆっくり息を吸い込み、お腹を膨らませます(胸は動かさない)。
- 口からゆっくりと、お腹をへこませながら息を吐き出します。
ステップ3:立って練習
座ってできるようになったら、いよいよ立って練習です。
- 「正しい立ち姿勢」で立ちます。足は肩幅、膝は軽くゆるめ、背筋を伸ばします。
- 同様に、お腹と胸に手を当て、お腹の動きを意識しながら腹式呼吸を繰り返します。
ステップ4:息を長く吐く練習(ロングブレス)
腹式呼吸で安定した声を出すためには、息をコントロールしながら長く吐き続ける練習が効果的です。
- 腹式呼吸で、お腹にたっぷり息を吸い込みます。
- 口を軽くすぼめて、「スー(sーーーーー)」という音で、できるだけ長く、そして一定の強さで息を吐き続けます。声は出さなくてOKです。
- 何秒間続けられたか、時間を計ってみましょう。目標はまず10秒、慣れてきたら15秒、20秒と伸ばしていきます。
下の「再生」ボタンで、ロングブレスのイメージアニメーションが見られます。お腹から一定の息が流れ出る感じです。
ステップ5:スタッカートで息を吐く練習
横隔膜を瞬間的にコントロールする感覚を養うために、短く強く息を吐く練習もしてみましょう。
- 腹式呼吸で息を吸い込みます。
- お腹にグッと力を入れて、「スッ!」「フッ!」または「シッ!」といった音で、短く鋭く息を吐き出します。
- これをリズミカルに「スッ、スッ、スッ、スッ…」と繰り返します。お腹が一瞬へこんでは戻るのを感じましょう。
Tip:ろうそくの火を、息でフッと吹き消すようなイメージです。ただし、顔だけでやろうとせず、お腹の力を使うのがポイントです。
腹式呼吸のチェックポイントと注意点
- □ 息を吸うときに、肩が上がっていませんか?肩が上がるのは胸式呼吸になっているサインです。
- □ 胸ではなく、お腹(おへその下あたり)が主に動いていますか?
- □ 息を吸うときも吐くときも、体(特に肩や首)はリラックスしていますか?
- □ 無理にたくさん吸おうとしたり、力みすぎたりしていませんか?自然な呼吸を心がけましょう。
腹式呼吸は、最初は意識しないとなかなか難しいかもしれません。でも、自転車の練習と同じで、何度も繰り返すうちに体が覚え、だんだんと無意識にできるようになります。毎日の生活の中で、例えばテレビを見ているときや寝る前などに、少しずつでも良いので腹式呼吸を意識する時間を作ってみてください。この呼吸法が、あなたの歌声を支える強力な武器になりますよ!