ウルトラ先生の確率教室

第2章 確率の計算 ~「起こりやすさ」を数字で表す~

2-6: 独立事象Independent Events(互いに影響しない出来事)と確率の乗法定理Multiplication Rule

前のページでは、同時には起こらない「排反事象」について学んで、確率の足し算(加法定理)ができることを見たね。

今回は、また別の視点から事象の関係を見ていくよ。それは、「ある事象が起こったことが、別の事象の起こりやすさに影響を与えるかどうか?」という点だ。

例えば、コインを1回投げて表が出たとする。じゃあ、次にもう1回投げるとき、表が出やすくなったり、裏が出やすくなったりするかな? …普通は考えないよね? このように、互いに影響しあわない事象の関係を「独立independent」と呼ぶんだ。

独立事象Independent Events とは?

2つの事象Aと事象Bがあって、一方の事象が起こるかどうかが、もう一方の事象が起こる確率にまったく影響を与えないとき、事象Aと事象Bは互いに「独立independent」である、または「独立事象independent events」であると言うんだ。

言い換えると、事象Aの結果を知っても知らなくても、事象Bが起こる確率が変わらない、ということだね。

例で考えてみよう:

  • 独立な例:
    • 1枚のコインを2回投げる試行で、「1回目が表」と「2回目が表」。
    • 1個のサイコロを2回投げる試行で、「1回目が偶数」と「2回目が1」。
    • 袋(赤玉3,白玉2)から玉を1個取り出し、色を見て元に戻し、もう1個取り出す試行(復元抽出with replacement)で、「1回目が赤玉」と「2回目が赤玉」。
      → 元に戻すから、袋の中身は変わらず、2回目の確率は1回目の結果に影響されないね。
  • 独立でない(従属dependentな)例:
    • 袋(赤玉3,白玉2)から玉を1個取り出し、元に戻さずにもう1個取り出す試行(非復元抽出without replacement)で、「1回目が赤玉」と「2回目が赤玉」。
      → 1回目に赤玉を引くと、袋の中は赤2白2になり、2回目に赤玉が出る確率は $\frac{2}{4}=\frac{1}{2}$ になる。もし1回目に白玉を引いていたら、袋の中は赤3白1になり、2回目に赤玉が出る確率は $\frac{3}{4}$ になる。このように、1回目の結果によって2回目の確率が変わるから、これらは独立じゃない(従属だ)と言えるんだ。

復元抽出 (独立になりやすい)

非復元抽出 (従属になりやすい)

確率の乗法定理Multiplication Rule(独立事象の場合)

さて、事象Aと事象Bが互いに独立であるとき、「事象A かつ 事象Bが起こる」という確率 $P(A \cap B)$ はどうやって計算できるかな?(記号「$\cap$」は「かつ (and)」を表し、「積事象(せきじしょう)」とも言うよ。)

これも簡単で、それぞれの確率を単純に掛け算すればいいんだ!これを確率の乗法定理Multiplication Rule(特に独立事象の場合の)と呼ぶよ。

$P(A \cap B) = P(A) \times P(B)$  (ただし、AとBが互いに独立のとき)

実は、数学的には「$P(A \cap B) = P(A) \times P(B)$ が成り立つとき、事象Aと事象Bは独立である」と定義することもあるんだ。

例題1:コインを2回投げて、2回とも表が出る確率

1枚のコインを2回投げる試行を考えよう。

  • 事象A:「1回目に表が出る」 $\implies P(A) = \frac{1}{2}$
  • 事象B:「2回目に表が出る」 $\implies P(B) = \frac{1}{2}$

1回目の結果は2回目の結果に影響しないので、事象Aと事象Bは独立だ。

したがって、「1回目に表が出て、かつ、2回目も表が出る」確率は、

$P(A \cap B) = P(A) \times P(B) = \frac{1}{2} \times \frac{1}{2} = \frac{1}{4}$

(これは、(表,表), (表,裏), (裏,表), (裏,裏) の4通りの中で (表,表) が1通りだから $\frac{1}{4}$、と数え上げた結果とも一致するね!)

例題2:サイコロを2回投げて、1回目偶数かつ2回目1の目が出る確率

1個のサイコロを2回投げる試行を考えよう。

  • 事象A:「1回目に偶数の目が出る」 $\implies P(A) = \frac{3}{6} = \frac{1}{2}$
  • 事象B:「2回目に1の目が出る」 $\implies P(B) = \frac{1}{6}$

1回目の結果は2回目の結果に影響しないので、事象Aと事象Bは独立だ。

したがって、「1回目に偶数が出て、かつ、2回目に1の目が出る」確率は、

$P(A \cap B) = P(A) \times P(B) = \frac{1}{2} \times \frac{1}{6} = \frac{1}{12}$

(全36通りのうち、(2,1), (4,1), (6,1) の3通りが該当するので、$\frac{3}{36}=\frac{1}{12}$ と数え上げても一致するね。)

例題3:復元抽出で2回とも赤玉が出る確率

袋の中に赤玉が3個、白玉が2個、合計5個の玉が入っているとする。この袋から玉を1個取り出し、色を見て元に戻し、さらにもう1個取り出す。このとき、2回とも赤玉が出る確率を求めてみよう。

  • 事象A:「1回目に赤玉が出る」 $\implies P(A) = \frac{3}{5}$
  • 事象B:「2回目に赤玉が出る」 $\implies P(B) = \frac{3}{5}$ (元に戻すので、袋の中身は変わらず確率も同じ!)

玉を元に戻すので、1回目の結果は2回目の確率に影響しない。だから事象Aと事象Bは独立だ。

したがって、「1回目に赤玉が出て、かつ、2回目も赤玉が出る」確率は、

$P(A \cap B) = P(A) \times P(B) = \frac{3}{5} \times \frac{3}{5} = \frac{9}{25}$

3つ以上の独立事象の場合

この乗法定理は、3つ以上の事象が互いに独立である場合にも拡張できるよ。

例えば、事象 $A_1, A_2, \dots, A_k$ が互いに独立(どの事象の組み合わせを取っても独立)なら、これらがすべて同時に起こる確率は、

$P(A_1 \cap A_2 \cap \dots \cap A_k) = P(A_1) \times P(A_2) \times \dots \times P(A_k)$

となるんだ。

例題4:コインを3回投げて、3回とも表が出る確率

1枚のコインを3回投げる試行を考えよう。

1回目表、2回目表、3回目表はそれぞれ独立な事象で、確率はすべて $\frac{1}{2}$。

したがって、「3回とも表が出る」確率は、

$P(\text{1回目表} \cap \text{2回目表} \cap \text{3回目表}) = P(\text{1回目表}) \times P(\text{2回目表}) \times P(\text{3回目表})$

$ = \frac{1}{2} \times \frac{1}{2} \times \frac{1}{2} = \frac{1}{8}$

(これも、HHH, HHT, ..., TTT の全8通りのうち HHH が1通りであることと一致するね。)

もし独立じゃなかったら? (ちらっと予告)

「じゃあ、事象Aと事象Bが独立じゃない(従属の)とき、つまり一方の結果がもう一方の確率に影響を与えるときは、$P(A \cap B)$ はどう計算するの?」と思ったかな?

その場合は、「条件付き確率conditional probability」という考え方が必要になるんだ。例えば、「事象Aが起こったという条件の下で事象Bが起こる確率」を $P(B|A)$ と書くんだけど、これを使うと、

一般の乗法定理: $P(A \cap B) = P(A) \times P(B|A)$

という式が成り立つんだ。もしAとBが独立なら、$P(B|A)$ は $P(B)$ と同じになるから、独立事象の乗法定理 $P(A \cap B) = P(A) \times P(B)$ に戻る、というわけだね。

この「条件付き確率」や独立でない場合の乗法定理は、次の第3章で詳しく学ぶからね!今回はまず「独立なら確率を掛け算できる」ということをしっかりマスターしよう。

このページで出てきたEnglish wordsとその仲間たち

英単語 (English) 意味 (Meaning) 例文 (Example Sentence) 例文の読み上げ 例文の日本語訳
Independent Events 独立事象 Two coin flips are typically considered independent events. ▶ 再生 2回のコイン投げは、通常、独立事象と見なされます。
Dependent Events 従属事象 Drawing cards without replacement involves dependent events. ▶ 再生 復元せずにカードを引くことは、従属事象を伴います。
Multiplication Rule 乗法定理 The multiplication rule for independent events is $P(A \text{ and } B) = P(A) \times P(B)$. ▶ 再生 独立事象に対する乗法定理は $P(A \text{ かつ } B) = P(A) \times P(B)$ です。
Intersection (of events) 積事象(事象の共通部分) The probability of the intersection of two independent events is the product of their probabilities. ▶ 再生 2つの独立事象の積事象の確率は、それぞれの確率の積です。
With Replacement 復元抽出で(元に戻して) Sampling with replacement ensures independence between draws. ▶ 再生 復元抽出によるサンプリングは、抽出間の独立性を保証します。
Without Replacement 非復元抽出で(元に戻さずに) Sampling without replacement leads to dependent events. ▶ 再生 非復元抽出によるサンプリングは、従属事象につながります。
Conditional Probability 条件付き確率 Conditional probability $P(B|A)$ is the probability of event B occurring given that event A has occurred. ▶ 再生 条件付き確率 $P(B|A)$ は、事象Aが起こったという条件の下で事象Bが起こる確率です。