ウルトラ先生の確率教室

第2章 確率の計算 ~「起こりやすさ」を数字で表す~

2-5: 排反事象Mutually Exclusive Events(同時には起こらない出来事)と確率の加法定理Addition Rule

これまでは、一つの事象が起こる確率について考えてきたね。例えば、「サイコロを投げて1の目が出る確率」とか、「コインを投げて表が出る確率」とかだ。

でも、時には「サイコロを投げて1の目が出る、または、2の目が出る確率」のように、複数の事象が関わってくる確率を考えたいときがある。そんなときに重要になるのが、「排反事象Mutually Exclusive Events」という考え方なんだ。

排反事象Mutually Exclusive Events とは?

2つの事象Aと事象Bがあって、それらが同時には決して起こらないとき、事象Aと事象Bは互いに「排反mutually exclusive」である、または「排反事象mutually exclusive events」であると言うんだ。(「互いに素disjointな事象」とも言うよ。)

つまり、事象Aが起これば事象Bは起こらないし、事象Bが起これば事象Aは起こらない、という関係だね。どちらか一方しか起こりえない、ということだ。

これを図で表すと分かりやすいよ。下のベン図を見てみよう。事象Aを表す円と事象Bを表す円がまったく重なっていないでしょう?これが排反な状態だ。重なる部分(これを積事象 $A \cap B$ と言うんだけど、これは「AかつB」という意味)が空っぽ(空事象 $\emptyset$)なんだね。

AとBは排反 (重なりなし)

AとCは排反ではない (重なりあり)

例で見てみよう:

確率の加法定理Addition Rule(排反事象の場合)

さて、事象Aと事象Bが互いに排反であるとき、「事象A または 事象Bが起こる」という確率 $P(A \cup B)$ はどうやって計算できるかな?(記号「$\cup$」は「または」を表し、「和事象(わじしょう)」とも言うよ。)

とっても簡単で、それぞれの確率を単純に足し算すればいいんだ!これを確率の加法定理Addition Rule(特に排反事象の場合の)と呼ぶよ。

$P(A \cup B) = P(A) + P(B)$  (ただし、AとBが互いに排反のとき)

なぜこうなるの?

全体の根元事象の数を $N$、事象Aが起こる場合の数を $n(A)$、事象Bが起こる場合の数を $n(B)$ とすると、$P(A) = \frac{n(A)}{N}$、$P(B) = \frac{n(B)}{N}$ だね。

事象Aと事象Bが排反なら、AまたはBが起こる場合の数 $n(A \cup B)$ は、$n(A)$ と $n(B)$ をそのまま足した数になるよね(共通部分がないから)。つまり、$n(A \cup B) = n(A) + n(B)$ だ。

だから、$P(A \cup B) = \frac{n(A \cup B)}{N} = \frac{n(A) + n(B)}{N} = \frac{n(A)}{N} + \frac{n(B)}{N} = P(A) + P(B)$ となるわけだ。

例題1:サイコロで1または6が出る確率

1個のサイコロを1回投げるときを考えよう。

  • 事象A:「1の目が出る」 $\implies P(A) = \frac{1}{6}$
  • 事象B:「6の目が出る」 $\implies P(B) = \frac{1}{6}$

事象Aと事象Bは、同時に起こることはないから排反だね。

したがって、「1の目 または 6の目が出る」確率は、

$P(A \cup B) = P(A) + P(B) = \frac{1}{6} + \frac{1}{6} = \frac{2}{6} = \frac{1}{3}$

例題2:袋から赤玉または白玉が出る確率

袋の中に赤玉が3個、白玉が4個、青玉が2個、合計9個の玉が入っているとする。この袋から玉を1個取り出すとき、それが赤玉または白玉である確率を求めてみよう。

  • 事象R:「赤玉が出る」 $\implies P(R) = \frac{3}{9}$
  • 事象W:「白玉が出る」 $\implies P(W) = \frac{4}{9}$

1個の玉を取り出すとき、それが赤玉であり同時に白玉であることはありえないから、事象Rと事象Wは排反だ。

したがって、「赤玉 または 白玉が出る」確率は、

$P(R \cup W) = P(R) + P(W) = \frac{3}{9} + \frac{4}{9} = \frac{7}{9}$

3つ以上の排反事象の場合

この加法定理は、3つ以上の事象が互いに排反(どの2つの事象を選んでも排反)である場合にも拡張できるよ。

例えば、事象 $A_1, A_2, \dots, A_k$ がどの2つも互いに排反なら、これらのうちいずれかが起こる確率は、

$P(A_1 \cup A_2 \cup \dots \cup A_k) = P(A_1) + P(A_2) + \dots + P(A_k)$

となるんだ。

例題3:サイコロで1または2または3の目が出る確率

1個のサイコロを1回投げるとき、「1の目が出る」事象を $A_1$、「2の目が出る」事象を $A_2$、「3の目が出る」事象を $A_3$ としよう。

$P(A_1) = \frac{1}{6}$, $P(A_2) = \frac{1}{6}$, $P(A_3) = \frac{1}{6}$ だね。 これら3つの事象は、どれも互いに排反だ(例えば1の目と2の目は同時に出ない)。

だから、「1の目 または 2の目 または 3の目が出る」確率は、

$P(A_1 \cup A_2 \cup A_3) = P(A_1) + P(A_2) + P(A_3) = \frac{1}{6} + \frac{1}{6} + \frac{1}{6} = \frac{3}{6} = \frac{1}{2}$

もし排反じゃなかったら? (ちらっと予告)

「じゃあ、事象Aと事象Bが排反じゃないとき、つまり同時に起こる可能性があるときは、$P(A \cup B)$ はどう計算するの?」と思ったかな?

その場合は、単純に $P(A)$ と $P(B)$ を足すだけだと、重なっている部分(AとBが同時に起こる場合 $A \cap B$)を2回数えてしまうことになるんだ。だから、その分を引いてあげる必要がある。

一般の加法定理: $P(A \cup B) = P(A) + P(B) - P(A \cap B)$

この「積事象 $A \cap B$ (AかつB)」や、排反でない場合の加法定理については、また後のページで詳しく見ていくから、楽しみにしていてね!今回はまず「排反事象なら確率を足せる」ということをしっかりマスターしよう。

このページで出てきたEnglish wordsとその仲間たち

英単語 (English) 意味 (Meaning) 例文 (Example Sentence) 例文の読み上げ 例文の日本語訳
Mutually Exclusive Events 排反事象 If two events are mutually exclusive, they cannot occur at the same time. ▶ 再生 もし2つの事象が排反ならば、それらは同時に起こることはありません。
Disjoint Events 互いに素な事象(排反事象と同じ) Getting a '1' and getting a '2' on a single die roll are disjoint events. ▶ 再生 1回のサイコロ投げで「1」が出ることと「2」が出ることは、互いに素な事象です。
Addition Rule 加法定理 The addition rule for mutually exclusive events is $P(A \text{ or } B) = P(A) + P(B)$. ▶ 再生 排反事象に対する加法定理は $P(A \text{ または } B) = P(A) + P(B)$ です。
Union (of events) 和事象(事象の合併) The union of events A and B, denoted $A \cup B$, occurs if A or B or both occur. ▶ 再生 事象AとBの和事象($A \cup B$ と表記)は、AまたはBまたは両方が起こる場合に発生します。
Intersection (of events) 積事象(事象の共通部分) The intersection of events A and B, $A \cap B$, occurs if both A and B occur. For mutually exclusive events, $A \cap B = \emptyset$. ▶ 再生 事象AとBの積事象($A \cap B$)は、AとBの両方が起こる場合に発生します。排反事象の場合、$A \cap B = \emptyset$ です。
Empty Set ($\emptyset$) 空集合 The intersection of two mutually exclusive events is the empty set. ▶ 再生 2つの排反事象の積事象は空集合です。