古文対策問題 006(平家物語「祇園精舎」)

【本文】

祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。娑羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし。たけき者も遂にはほろびぬ、ひとへに風の前の塵におなじ。

【現代語訳】

(インドの)祇園精舎の鐘の音には、この世の全てのものは絶えず変化し、同じ状態に留まることはないという響きがある。釈迦が入滅した時に白く枯れたという娑羅双樹の花の色は、勢いが盛んな者も必ず衰えるという道理を示している。権勢を誇り思い上がっている人も、その栄華が長く続くことはない、それはまるで儚い春の夜の夢のようなものである。勇猛で強い者も、結局は滅んでしまう、全くもって風の前の塵と同じである。

【覚えておきたい知識】

文学史・古文常識:

  • 作品:『平家物語』は鎌倉時代に成立した軍記物語。平家の栄華と滅亡を、仏教的な無常観を基調に描く。
  • 成立と享受:琵琶法師(びわほうし)と呼ばれる盲目の僧侶たちによって、琵琶の伴奏付きで語り継がれ、民衆に広まった。そのため、七五調を基本とするリズミカルな和漢混交文で書かれている。

重要語句・思想:

  • 祇園精舎(ぎおんしょうじゃ):古代インドにあった寺院。釈迦が説法を行った場所。
  • 諸行無常(しょぎょうむじょう):仏教の根本思想。この世の万物はすべて、絶えず変化し生滅するものであり、永遠不変なものはないということ。
  • 娑羅双樹(しゃらそうじゅ):釈迦が亡くなった(入滅した)場所に生えていたという沙羅の木。その花が白く変色し枯れたという伝説と結びつく。
  • 盛者必衰(じょうしゃひっすい):勢いの盛んな者も、必ず衰え滅びる時が来るということ。
  • おごれる人:思い上がり、権勢を誇る人。具体的には平清盛をはじめとする平家一門を指す。
  • たけき者:勇猛な者、強い者。これも平家の武士たちを指す。

【設問】

【問1】冒頭の「祇園精舎の鐘の声」「娑羅双樹の花の色」という二つの句が、この文章全体の中で果たしている役割は何か。最も適当なものを次の中から一つ選べ。

  1. これから始まる物語が、遠い異国であるインドから伝わった話であることを示している。
  2. 平家一門の栄華が、鐘の音や花の色のように美しくも儚いものであったことを暗示している。
  3. 仏教にまつわる故事を引き、物語全体を貫く普遍的な真理(諸行無常・盛者必衰)を提示している。
  4. 鐘の聴覚イメージと花の視覚イメージを対比させ、読者の感覚に強く訴えかけている。
  5. 平家が祇園精舎や娑羅双樹と深い関わりを持っていたという歴史的事実を述べている。
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    【問1 正解と解説】

    正解:3

    この二句は、これから語られる平家の盛衰という「個別の出来事」が、単なる歴史上の話ではなく、「諸行無常」「盛者必衰」という、時代や場所を超えた仏教的な普遍的真理の一つの現れであることを宣言する役割を担っています。インドの故事を引用することで、物語に壮大で普遍的な説得力を与えているのです。選択肢2や4も部分的には正しいですが、最も根幹的な役割を説明しているのは3です。

    【問2】本文中で用いられている二つの比喩表現、「春の夜の夢のごとし」と「風の前の塵におなじ」が、共通して表現しているものは何か。最も適当なものを次の中から一つ選べ。

    1. 権力を手にした者の、現実離れした傲慢な精神状態。
    2. 栄華の絶頂にある時の、つかの間の美しい思い出。
    3. 権力や武力が、いかに儚く、無力で、あっけなく消え去るものであるかということ。
    4. 夢や塵のように、人々の記憶に残らないほど取るに足らない存在であること。
    5. 春の夜や風のような、抗うことのできない自然の大きな力。
    【問2 正解と解説】

    正解:3

    「春の夜の夢」は、目が覚めれば消えてしまう儚いものの代表です。「風の前の塵」は、一陣の風でたやすく吹き飛ばされてしまう無力なものの象徴です。この二つの比喩は、どれほど栄華を誇り、強い力を持っていても、その終わりは驚くほどあっけなく、儚いものであるという共通のメッセージを伝えています。権力や武力の「無常」と「無力さ」を強調している点がポイントです。

    【問3】この冒頭部分は、物語全体の序章として、平家一門の行く末をどのように予告しているか。最も適当なものを次の中から一つ選べ。

    1. 多くの困難を乗り越え、一門の栄光を長く維持していくだろうと予告している。
    2. その傲慢さゆえに、多くの人々から恨みを買い、孤立していくだろうと予告している。
    3. どれほど栄華を極めても、最後には必ず滅びる運命にあることを予告している。
    4. 一門の中から、仏の道に入り、来世での救いを求める者が出てくるだろうと予告している。
    5. その武勇によって、夢や塵を吹き飛ばすかのように、敵対勢力を一掃するだろうと予告している。
    【問3 正解と解説】

    正解:3

    この序文は、物語全体のテーマを提示するものです。「おごれる人も久しからず」「たけき者も遂にはほろびぬ」と断言することで、この物語の主人公である平家一門が、その例外ではなく、歴史の法則通りに必ず滅びへと向かうことを、読者に対して明確に宣言しています。つまり、これから語られる壮大な物語が、最終的に「滅亡」という結末を迎えることを、あらかじめ予告しているのです。

    レベル:共通テスト標準|更新:2025-07-23|問題番号:006