古文対策問題 012(古今和歌集 仮名序)

【本文】

やまとうたは、人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける。世の中にある人、ことわざしげきものなれば、心に思ふことを、見るもの聞くものにつけて、言ひ出せるなり。
花に鳴く鶯、水にすむ蛙の声を聞けば、生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける。力をも入れずして天地を動かし、目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ、男女のなかをもやはらげ、たけきもののふの心をもなぐさむるは、歌なり。

【現代語訳】

日本の歌(和歌)は、人の心を種(=根源)として、様々な言葉となって現れたものである。世の中に生きる人間は、関わらねばならない出来事が多いものなので、心に思うことを、見るものや聞くものに託して、言葉に表すのである。
花の間で鳴く鶯の声を、また水に棲む蛙の声を聞けば、(人間だけでなく)生きているものすべて、どれが歌を詠まないことがあるだろうか(いや、すべてのものが歌を詠むのだ)。力も入れないで天と地を動かし、目に見えない鬼や神をも感動させ、男と女の間柄をも和やかにし、勇猛な武士の心をも慰めるものは、歌なのである。

【覚えておきたい知識】

文学史・古文常識:

  • 作品:『古今和歌集』は醍醐天皇の勅命により編纂された、日本初の勅撰和歌集(天皇の命令で作られた和歌集)。平安時代前期の成立。
  • 仮名序(かなじょ):撰者の一人である紀貫之(『土佐日記』の作者)が、ひらがな(仮名)で執筆した序文。和歌の本質、歴史、六歌仙の批評などを述べた、日本初の本格的な和歌論・文学論として極めて重要。漢文で書かれた「真名序(まなじょ)」も存在する。

重要古語:

  • やまとうた(大和歌):日本の歌。漢詩(からうた)に対して言う。
  • 種(たね):根源、もとになるもの。
  • よろづ(万):様々な、あらゆる。
  • 言の葉(ことのは):言葉。
  • ことわざしげし:(世間の)用事が多い、出来事が多い。
  • 生きとし生けるもの:命あるものすべて。
  • あはれと思はす:感動させる、しみじみとした気持ちにさせる。
  • もののふ(武士):武士。

【設問】

【問1】筆者・紀貫之は、「やまとうた」が何から生まれると述べているか。本文中から二字で抜き出して答えよ。

  1. 天地
  2. 鬼神
  3. 人心
  4. 男女
  5. 言の葉
【問1 正解と解説】

正解:3

冒頭の一文「やまとうたは、人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける」に、和歌の根源が明確に示されています。「人の心」を種(たね)、つまり全ての元として、言葉(言の葉)という形になって現れるのが和歌である、と定義しています。したがって、本文中から抜き出すと「人心」となります。

【問2】筆者が「花に鳴く鶯、水にすむ蛙の声」を例として挙げた意図は何か。最も適当なものを次の中から一つ選べ。

  1. 人間だけでなく、自然界の生き物も美しい歌を詠むことができると主張するため。
  2. 人間は、鶯や蛙の鳴き声を聞くことで、歌を詠む着想を得るのだと説明するため。
  3. 歌を詠むという感情表現の衝動は、人間だけのものではなく、命あるもの全てに共通する本能的なものであると示すため。
  4. 鶯や蛙のような小さな生き物でさえ、歌の力によって天地を動かすことができるのだと証明するため。
  5. 和歌の題材としては、身近な自然の風物を詠むのが最もふさわしいと提言するため。
【問2 正解と解説】

正解:3

鶯や蛙の例を挙げた直後に、「生きとし生けるもの、いづれか歌をよまざりける(命あるものすべて、どれが歌を詠まないことがあるだろうか、いや皆詠むのだ)」と続いています。これは、人間が心に思ったことを言葉にするように、鳥や蛙も鳴き声で何かを表現している、という考え方です。つまり、歌(=感情表現)の衝動は、人間特有のものではなく、命あるものに普遍的に備わった本能なのだ、という主張を補強するために、これらの例が用いられています。

【問3】本文の結びで述べられている「歌」の力の説明として、最もふさわしいものはどれか。次の中から一つ選べ。

  1. 和歌は、人々の心を慰め、和ませるという、穏やかで内面的な力を持つ。
  2. 和歌は、男女の仲を取り持つことはできるが、武士の心を動かすほどの力はない。
  3. 和歌は、目に見える人間社会だけでなく、目に見えない神々の世界にまで影響を及ぼす超自然的な力を持つ。
  4. 和歌の力は、あくまで比喩的なものであり、実際に天地を動かすことはできない。
  5. 和歌の力は、人々を感動させるが、それを行使するには大変な努力が必要である。
【問3 正解と解説】

正解:3

筆者は歌の力として、「男女のなかをもやはらげ」「もののふの心をもなぐさむる」といった人間社会への影響と同時に、「力をも入れずして天地を動かし」「目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ」という、人知を超えた超自然的な領域への影響を挙げています。これは、和歌が単なる言葉遊びや芸術ではなく、宇宙の法則や神々の心さえも動かすほどの、絶大な力を持つと信じられていたことを示しています。したがって、その影響が人間界にとどまらないことを述べた選択肢3が最も的確です。

レベル:共通テスト〜難関私大|更新:2025-07-23|問題番号:012