古文対策問題 010(竹取物語「五つの難題」)

【本文】

(求婚者たちが)帰り帰りて、おのおの家につき、思ひわづらふ。されど、かぐや姫を、いかで得てしがなと思ふ心、やまむ時なし。「さりとて、しひて夜歩きせんも、わが身からしては、いとほしければ、」と思ひて、文を作り、返り事を見て、心を慰めけり。
かぐや姫は、かかる人々のアプローチにも、「なほ、この人々の、心ざしのほどを見て、あひがたきものを、と言はむ。」と思ふ。
翁、かぐや姫に言ふ、「御かたち、人に似ず、たぐひなくめでたき事を、人々、めで奉り聞きて、かく惑ひたまふなり。いかでか、一人二人にも、あひ奉らざらむ。」と言へば、かぐや姫、答へて言はく、「人の、まことの心を知らでは、あひがたく、人の親の申したまふ事を、必ず、と思ひて、背くものならねば、人の心ざしの深さ浅さを見て、その後に、こそ、あはめ。五人の中に、心ざし、人にまさりて、情けありと見ゆる人に、あひなむ。かの人々の申す事、様々なり。誰の心ざし、深く、誰の心ざし、浅き事を知らじ。」
翁、「この五人の中に、誰に、あひ奉らむ。」と言ふ。かぐや姫の言はく、「あひがたきものを持て来たる人に、仕うまつらむ。」と言ふ。翁、「何々ぞ。」と言ふ。かぐや姫、「石作の皇子には、仏の御石の鉢。庫持の皇子には、蓬莱の玉の枝。右大臣阿倍御主人には、火鼠の裘。大納言大伴御行には、竜の首の玉。中納言石上麻呂には、燕の持つ子安貝。」と言ふ。

【現代語訳】

(求婚者たちは)それぞれ家に帰っては、思い悩んでいる。それでも、かぐや姫を、何とかして自分のものにしたいと思う気持ちが、やむ時はない。(かといって)「無理強いに夜這いをするのも、自分の身分としては、みっともないことなので」と思って、手紙を書き、その返事を見ては、心を慰めていた。
かぐや姫は、このような人々の求愛にも、「やはり、この人たちの、愛情のほどを見て、手に入りにくいものを(持ってこい)、と言おう」と思う。
翁が、かぐや姫に言う、「あなた様のご容貌が、人間とは思えず、比類なく素晴らしいことを、人々が、お褒め申し上げて聞いて、このように思い悩んでいらっしゃるのです。どうして、一人か二人にでも、お会い申し上げないことがありましょうか(お会いなさい)」と言うと、かぐや姫が、答えて言うには、「人の、本当の心を知らないうちは、結婚しがたく、(しかし)人の親がおっしゃることを、絶対だと思って、背くものではないので、人々の愛情の深さ浅さを見て、その後に、こそ、結婚しましょう。五人の中で、愛情が、人より優れて、誠実だと見える人に、結婚しましょう。あの人々の申すことは、様々です。誰の愛情が深く、誰の愛情が浅いことか、わかりません。」
翁が、「この五人の中で、誰に、お会い申し上げましょうか」と言う。かぐや姫が言うには、「手に入りにくい物を持ってきた人に、お仕えしましょう」と言う。翁が、「それぞれ何ですかな」と言う。かぐや姫は、「石作の皇子には、仏の御石の鉢。庫持の皇子には、蓬莱の玉の枝。右大臣阿倍御主人には、火鼠の裘。大納言大伴御行には、竜の首の玉。中納言石上麻呂には、燕が持っているという子安貝です」と言う。

【覚えておきたい知識】

文学史・古文常識:

  • 作品:『竹取物語』は平安時代初期に成立した、現存する日本最古の物語。作者不詳。「物語の出で来はじめの祖(おや)」とも評される。
  • ジャンル:かぐや姫が月から来たという設定など、幻想的な要素が強いため、伝奇物語に分類される。
  • 五つの難題:かぐや姫が求婚者たちに要求した五つの宝物は、インドや中国の伝説・神仙思想に由来する、現実には存在しないものばかりである。

重要古語:

  • いかで~しがな:「何とかして~したいものだ」という強い願望を表す。
  • 心ざし(志):愛情、誠意。
  • あふ(会ふ・合ふ):男女が結ばれる、結婚する。
  • たぐひなし(類無し):比べるものがないほど素晴らしい。
  • 仕うまつる(仕うまつる):「仕ふ」の謙譲語。お仕え申し上げる。ここでは「妻としてお仕えする」の意。

【設問】

【問1】かぐや姫が「人の心ざしの深さ浅さを見て、その後に、こそ、あはめ」と述べ、求婚者たちに五つの難題を課した真の目的は何か。最も適当なものを次の中から一つ選べ。

  1. 彼らの財力や権力が、自分と結婚するのにふさわしいか試すため。
  2. 彼らがどれほど自分を愛しているか、その愛情の深さを具体的に証明させるため。
  3. 彼らに到底不可能な課題を与えることで、結婚を諦めさせるため。
  4. 彼らが世界中を旅して見聞を広め、人間的に成長する機会を与えるため。
  5. 彼らが宝物を手に入れるまでの面白い冒険譚を聞いて楽しむため。
【問1 正解と解説】

正解:3

かぐや姫は表向きには「心ざしの深さ」を試すと言っていますが、要求した品々は、仏の遺物や神仙の国の宝物など、現実には手に入らないものばかりです。このことから、彼女の真の目的は、求婚者たちの愛情を試すことではなく、誰も達成できない課題を出すことで、誰とも結婚せずに済む口実を作ることにあるとわかります。求婚を断るための、巧妙な策略なのです。

【問2】かぐや姫の要求に対する翁(おきな)の態度から、どのようなことが読み取れるか。最も適当なものを次の中から一つ選べ。

  1. かぐや姫のわがままに腹を立て、求婚者たちの肩を持っている。
  2. 宝物の価値を理解し、手に入れば裕福になれると喜んでいる。
  3. かぐや姫の気持ちを尊重しつつも、高貴な求婚者たちとの間で板挟みになっている。
  4. かぐや姫の知恵に感心し、求婚者たちが失敗するのを楽しみにしている。
  5. 宝物が手に入らないことを知っており、かぐや姫の策に積極的に協力している。
【問2 正解と解説】

正解:3

翁は、かぐや姫に「いかでか、一人二人にも、あひ奉らざらむ(どうして結婚なさらないことがありましょうか)」と、世間体を考えて結婚を促します。これは、相手が皇子や大臣といった高貴な身分であるため、無下に断れないという翁の立場を示しています。一方で、かぐや姫が難題を出すと、その内容を「何々ぞ」と問い、言われた通りに求婚者たちに伝えています。このことから、娘の意向も汲んでやりたいが、求婚者たちの社会的圧力も感じているという、苦しい板挟みの状況にあることが読み取れます。

【問3】この物語でかぐや姫が要求する宝物の性質は、この作品のジャンル的特徴をどのように示しているか。最も適当なものを次の中から一つ選べ。

  1. 貴族の財力や教養が試される点で、平安朝の宮廷社会をリアルに描いた王朝物語の特徴を示している。
  2. 宝物の由来が海外にあることから、当時の国際交流の様子を描いた歴史物語の特徴を示している。
  3. 現実には存在しない伝説上の宝物が登場する点で、現実離れした設定を持つ伝奇物語の特徴を示している。
  4. 宝物をめぐる人々の滑稽な失敗が描かれる点で、教訓や笑いを主とした説話物語の特徴を示している。
  5. 宝物の美しさが和歌に詠まれることから、和歌を中心に展開する歌物語の特徴を示している。
【問3 正解と解説】

正解:3

『源氏物語』のような写実的な王朝物語では、登場人物のやり取りは現実的な範囲で行われます。しかし、『竹取物語』で要求される宝物は、仏の鉢、蓬莱の枝、竜の玉など、明らかに神話・伝説の世界のものです。このように、人間の力を超えた、幻想的・超自然的な要素が物語の中核をなしている点こそが、この物語を「伝奇物語」たらしめている最大の特徴です。

レベル:共通テスト標準|更新:2025-07-23|問題番号:010