古文対策問題 007(更級日記「物語のことばかり」)
【本文】
あづま路の道の果てよりも、なほ奥つ方に生ひ出でたる人、いかばかり心細く、荒れたる所を思ひやらるるに、京にあこがれたる心、いとまさりて、物語のことばかりぞ、まくらにうち書きつつ、夜も昼も、すずろに物思ひに沈みたりける。
この世に生まれて後、ことわりあることの中に、物語の多く候ふこそ、いみじくあはれに心あくがれ、書き集めたることも見れば、いかで見ばやと思ふ心も、消えずなむありける。
【現代語訳】
東国の道の果て、さらにその奥深い田舎で育った私が、どれほど心細く、荒れ果てた土地で暮らしているかと想像すると、都(京)への憧れがますます募る。そのため、物語の言葉ばかりを枕元に書きつけては、昼も夜も、ただ物思いに沈んでいた。
この世に生まれてからというもの、物語がたくさん存在することは本当に心を惹きつけ、集めて書かれている物語を見ては、「どうにかして全部読んでみたい」という思いが消えなかった。
【覚えておきたい知識】
文学史・古文常識:
- 作者:菅原孝標女(すがわらのたかすえのむすめ)。平安時代中期の女流日記文学の代表的作家。
- 作品:『更級日記』は作者の少女時代からの回想を中心とした自伝的日記文学。物語への憧れ、京への思いが強く描かれる。
- 物語:当時の「物語」とは、『源氏物語』など長編の物語文学のこと。
重要古語・語句:
- あづま路:東国(関東地方)への道。
- なほ奥つ方:さらに奥深いところ。
- 生ひ出でたる:生まれ育った。
- すずろに:なんとなく、わけもなく。
- 心あくがる:心がひかれる、憧れる。
- いかで見ばや:どうにかして見たい。
【設問】
【問1】作者が「物語のことばかりぞ、まくらにうち書きつつ」とした理由として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 京の都に住んでいたから。
- 物語の登場人物に手紙を書くため。
- 都や物語の世界への強い憧れがあったから。
- 学校の宿題だったから。
- 物語を家族と共有するため。
【問1 正解と解説】
正解:3
作者は「京への憧れ」や「物語の世界に心が惹かれて」いたため、物語の言葉を枕元に書きつけていた。憧れが強いからこその行動である。
【問2】「すずろに物思ひに沈みたりける」の「すずろに」の意味として最も適切なものを一つ選べ。
- なんとなく
- 急に
- しっかりと
- 静かに
- うれしく
【問2 正解と解説】
正解:1
「すずろに」は「なんとなく」「理由もなく」という意味で使われている。理由のはっきりしない物思いに沈んでいた様子を表す。
【問3】本文の内容から、作者の少女時代の気持ちとして最もふさわしいものを一つ選べ。
- 都会の生活に満足していた。
- 物語の世界や都への憧れに心を奪われていた。
- 家族との日々に幸せを感じていた。
- 勉強に熱心だった。
- 田舎暮らしに何の不満もなかった。
【問3 正解と解説】
正解:2
本文では「物語への憧れ」「都への思い」に心がいっぱいで、物思いに沈んでいたと書かれている。答えは2である。