古文対策問題 006(徒然草「高名の木登り」)
【本文】
高名の木登り、木の上にて、師の、「木の枝をば、折るな。足を踏みはずすな。」と教ふるを、人々笑ふ。
いと高き木の梢に登りて、枝を伝ひ降りけるに、弟子に向かひて、「下枝は用心して降りよ。さのみ危ふき所には、心地もつかず、恐ろしきことにて足もすくみ、落つることはあるまじ。心安き枝にて、油断することぞ多き。」と言ふ。
されば、何事も、危うき所をば慎みて、心安き所を用心すべしとぞ。
【現代語訳】
有名な木登りの名人が木の上で、師匠が「木の枝を折るな。足を踏み外すな」と注意するのを、周りの人々はおかしがって笑った。
名人はとても高い木のてっぺんまで登り、枝を伝って下りてくるとき、弟子に「下のほうの枝は特に注意して降りなさい。とても危険なところでは誰でも緊張して注意を怠らず、恐ろしくて足もすくみ、そう簡単には落ちることはない。むしろ安心できる枝で油断して落ちることが多いのだ」と言った。
だから、どんなことでも、危ない場所では慎重にし、安心できる場所こそ気をつけなければならない、というのである。
【覚えておきたい知識】
文学史・古文常識:
- 作者:兼好法師(吉田兼好)。鎌倉時代の随筆家・歌人。代表作『徒然草』。
- 作品:『徒然草』は鎌倉時代の代表的随筆。人生訓や日常の観察がユーモラスかつ鋭く語られる。
- 木登り:当時は木を伐採したり枝を落とす職人がいた。
重要古語・語句:
- 高名:名高い、評判の。
- 梢(こずえ):木のてっぺん、枝先。
- 心地もつかず:落ち着かず、気が気でなく。
- 心安き:安心できる。
- 油断:注意を怠ること。
- 用心:注意すること、警戒。
【設問】
【問1】木登り名人が「下枝は用心して降りよ」と弟子に言った理由として最も適切なものを一つ選べ。
- 下枝は細くて折れやすいから。
- 弟子は下枝が苦手だから。
- 安心して油断しがちな場所こそ、事故が多いから。
- 師匠が下で見ていたから。
- 木登りの基本は下枝にあるから。
【問1 正解と解説】
正解:3
危険な場所では誰もが慎重になるが、安心できる場所(下枝)でこそ油断して落ちることが多い、と名人は言っている。したがって答えは3。
【問2】このエピソードが伝えようとしている人生訓として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 危険な場所ほど油断してしまうものだ。
- 安心できる時ほど注意が必要である。
- 木登りには慎重さが何より大切だ。
- 弟子にはまだ木登りの才能がない。
- 名人は下枝が苦手だった。
【問2 正解と解説】
正解:2
本文の最後に「心安き所を用心すべし」とあり、安心できる時・場所こそ油断せず注意を怠るな、という人生訓が示されている。
【問3】「人々笑ふ」とあるが、その理由として最も適切なものを一つ選べ。
- 師匠の注意が当たり前すぎて、つまらなく感じたから。
- 名人が弟子より木登りが下手だったから。
- 木がとても低かったから。
- 師匠が木から落ちそうになったから。
- 弟子が失敗したから。
【問3 正解と解説】
正解:1
「木の枝を折るな。足を踏みはずすな。」という教えは当たり前すぎて、周囲は「そんなこと言わなくても分かっている」とおかしがって笑ったのだ。