古文対策問題 005(源氏物語「桐壺」)

【本文】

いづれの御時にか、女御・更衣あまたさぶらひ給ひけるなかに、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めき給ふありけり。
はじめより我はと思ひあがり給へる御かたがた、めざましきものにおとしめそねみ給ふ。同じほど、それより下臈の更衣たちは、ましてやすからず。
朝夕の宮仕へにつけても、人の心は、なかなかにそねみ深く、かの御かたは、御心地ことに悩ましう、もの心細げにまもられ給ひけり。

【現代語訳】

いつの天皇の御代であったか、女御や更衣が大勢お仕えなさっている中で、それほど高い身分ではないが、とても帝の寵愛を受けている方がいた。
初めから自分こそはと自負していた女御たちは、その方を目障りなものとして軽んじ、嫉妬した。同じ身分やそれ以下の更衣たちは、なおさら穏やかではいられなかった。
朝夕の宮仕えのたびごとに、人の心はかえって嫉妬が深くなり、その方(桐壺更衣)は、特にお身体の具合も悪く、不安げにお過ごしになっていた。

【覚えておきたい知識】

文学史・古文常識:

  • 作者:紫式部。平安時代中期の女流作家・歌人。
  • 作品:『源氏物語』は全54帖、光源氏の生涯と宮廷社会の人間模様を描く世界最古の長編小説。
  • 桐壺更衣:光源氏の母。高貴な身分ではないが、帝の寵愛を一身に受けた女性。
  • 女御・更衣:いずれも天皇の妃。女御が高位、更衣はそれよりやや下。

重要古語・語句:

  • やむごとなき:高貴な、重んずべき。
  • 際(きわ):身分、家柄。
  • 時めく:寵愛を受ける、栄える。
  • めざましきもの:気に食わないもの、目障りな存在。
  • おとしめそねみ給ふ:見下して嫉妬なさる。
  • 下臈(げろう):身分の低い者。
  • 心細げに:心細そうに。

【設問】

【問1】本文の「いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めき給ふありけり」とはどのような意味か、最も適切なものを一つ選べ。

  1. とても高貴な生まれの女性が、帝に全く好かれなかった。
  2. あまり高い身分ではないが、特別に帝の寵愛を受ける女性がいた。
  3. 身分の高い女性たちが競い合って帝の寵愛を得ていた。
  4. 身分に関わらず、誰もが平等に扱われていた。
  5. 帝は特定の女性を選ばなかった。
【問1 正解と解説】

正解:2

「いとやむごとなき際にはあらぬが」は「それほど高い身分ではないが」。「すぐれて時めき給ふありけり」は「特別に寵愛されていた人がいた」という意味。正しい解釈は2である。

【問2】「めざましきものにおとしめそねみ給ふ」とあるが、他の女御たちの気持ちとして最も適切なものを一つ選べ。

  1. 特に関心がなく、無関心でいた。
  2. 同情し、優しく接した。
  3. 自分こそが帝にふさわしいと考え、桐壺更衣を妬み軽んじた。
  4. 桐壺更衣に助言を与えた。
  5. みな一丸となって支え合った。
【問2 正解と解説】

正解:3

女御たちは「自分こそが」と思っていたため、帝に特別に寵愛された桐壺更衣を妬み、軽んじる(おとしめそねむ)気持ちが強かった。

【問3】「御心地ことに悩ましう、もの心細げにまもられ給ひけり」とあるが、この時の桐壺更衣の心境として最もふさわしいものを選べ。

  1. 周囲の優しさに支えられ、安心していた。
  2. 帝の寵愛に満足していた。
  3. 病気がちで、寂しく不安な気持ちでいた。
  4. 他の妃たちと協力して励まし合っていた。
  5. 何も悩みはなかった。
【問3 正解と解説】

正解:3

「御心地ことに悩ましう」(特に体調が悪く)、「もの心細げに」(寂しそうに)とあるので、桐壺更衣は病気がちで孤独・不安な心境であった。

レベル:標準〜やや難|更新:2025-07-25|問題番号:005