古文対策問題 029(土佐日記「船出」)
【本文】
男もすなる日記といふものを、女もしてみむとて、ある人のもとより船出す。暮れ方の空に、遠く波立ちて、心細きに、いとど涙ぞ落ちける。
みな人々、国の方を見やりて、行く末のことなど言ひ交はす。旅のはじめに、かくあはれなること多かり。
【現代語訳】
男が書くという「日記」というものを、女である私も書いてみようと思い、ある人のもとから船出した。夕暮れの空に、遠く波が立ち、心細さが増して、いっそう涙がこぼれた。
みんな国元の方を見やりながら、これから先のことなどを語り合う。旅の始まりには、このようにしみじみと感じることが多いのである。
【覚えておきたい知識】
文学史・古文常識:
- 作者:紀貫之(きのつらゆき)。平安時代前期の歌人。
- 作品:『土佐日記』は、作者が女性に仮託して書いた最初の仮名日記。任地・土佐から都への帰路を記す。
- 日記:当時は男が漢文で書くのが普通で、仮名の日記は斬新だった。
重要古語・語句:
- すなる:~すると言う、~するそうだ。
- してみむとて:してみようと思って。
- もとより:~から。
- 心細きに:心細いので。
- いとど:いっそう。
- あはれなる:しみじみとした、感慨深い。
【設問】
【問1】作者が「女もしてみむとて」と述べている理由として最も適切なものを一つ選べ。
- 男のふりをしたかったから。
- 男が書くものとされていた日記を、自分も書いてみようと思ったから。
- 都に帰りたくなかったから。
- 船旅が初めてだったから。
- 日記が流行していたから。
【問1 正解と解説】
正解:2
「男もすなる日記といふものを、女もしてみむとて」とは、男が書くとされていた日記を自分も書いてみよう、という新しい試みの表明である。
【問2】船出の場面で、作者が「いとど涙ぞ落ちける」と感じた理由として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 別れや旅立ちの不安と寂しさが募ったから。
- 船がとても速く進んだから。
- 夕暮れの空が美しかったから。
- 旅仲間が多かったから。
- 船が沈みそうだったから。
【問2 正解と解説】
正解:1
暮れ方の空や波、旅立ちの情景に「心細きに、いとど涙ぞ落ちける」とあり、別れや旅の不安・寂しさが募ったためである。
【問3】本文から読み取れる『土佐日記』の特色として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 女性になりすまして仮名で日記を記した。
- 武士の戦いを記録した。
- 漢文で物語を書いた。
- 恋愛談のみを集めた。
- 家族の歴史を記した。
【問3 正解と解説】
正解:1
『土佐日記』は男である紀貫之が女性を仮託し、仮名(ひらがな)で書いた点が特色である。