古文対策問題 023(伊勢物語「芥川」)
【本文】
昔、男ありけり。女を率(ゐ)て、夜深く、芥川といふ川を渡りけるに、草の上の露、いと白し。鬼ある所と聞きて、女、恐ろしと思ひけり。
「行くさき見えぬほどに、鬼やはべらん」と言ふに、男、「われは鬼にもあらず。君を思ふ心によりてなむ、かく夜深く来にける」と語る。
しかるに、女はついに鬼にさらわれてしまいけり。
【現代語訳】
昔、ある男がいた。女を連れて、夜遅くに芥川という川を渡った。草の上の露がとても白く光り、女はこの地が「鬼のいる所」と聞いていたので、怖がっていた。
「これから先が見えないけれど、鬼がいるのではないか」と女が言うと、男は「私は鬼ではない。君を思う気持ちがあるから、こんな夜遅くに来たのだ」と語った。
しかし、結局女は鬼にさらわれてしまった。
【覚えておきたい知識】
文学史・古文常識:
- 作者:未詳。平安時代前期の歌物語『伊勢物語』の一話。
- 芥川:大阪府茨木市付近の実在の川。鬼の伝説がある。
- 鬼:この世ならぬもの・災厄の象徴。
重要古語・語句:
- 率(ゐ)て:連れて。
- けり:過去・詠嘆の助動詞。
- 鬼やはべらん:鬼がいるのではないか。
- なむ:…したのだ、の強調。
- さらわれてしまいけり:連れ去られてしまった。
【設問】
【問1】女が芥川のほとりで恐れていた理由として最も適切なものを一つ選べ。
- 川がとても深かったから。
- 鬼がいる場所だと聞いていたから。
- 男が鬼だったから。
- 橋がなかったから。
- 夜が明けてしまいそうだったから。
【問1 正解と解説】
正解:2
女は「鬼ある所と聞きて、恐ろしと思ひけり」とあり、鬼のいる場所という伝承を怖れていた。
【問2】男が「われは鬼にもあらず。君を思ふ心によりてなむ…」と言った気持ちとして最もふさわしいものを一つ選べ。
- 自分が鬼であることを隠していた。
- 女を思う気持ちを強調していた。
- 旅に出るのが嫌だった。
- 夜道を怖がっていた。
- 鬼を退治する覚悟だった。
【問2 正解と解説】
正解:2
男は「君を思ふ心」によって夜遅くに来た、と女への愛情を強調している。
【問3】この物語の結末として正しいものを一つ選べ。
- 女は無事に家に帰った。
- 男と女は結婚した。
- 女は鬼にさらわれてしまった。
- 鬼が現れなかったので安心した。
- 男は鬼と戦った。
【問3 正解と解説】
正解:3
「女はついに鬼にさらわれてしまいけり」と、女は鬼に連れ去られる悲劇的な結末である。