古文対策問題 015(宇治拾遺物語「袴垂、保昌に会ふ事」)
【本文】
袴垂といふ盗人、都にて名を知られけるが、ある夜、保昌といふ侍のもとに忍び入らんとしけるを、保昌、「汝、何者ぞ」と問ひければ、「名を知れりといへども、名乗らんことは恥づかし」と答へて、立ち去りぬ。
保昌、後日、その男を召して、「あのときの者に相違あるまじ」と問いただすに、袴垂、恥じてうつむきたるを、保昌は笑ひて許し給ふ。
【現代語訳】
袴垂(はかまだれ)という名高い盗人が、都でその名を知られていたが、ある夜、保昌(やすまさ)という武士の家に忍び込もうとした。保昌が「お前は何者だ」と問いかけると、「私の名は知れているでしょうが、名乗るのは恥ずかしい」と答えて立ち去った。
後日、保昌がその男を呼び出し、「あのときの者に違いないな」と問い詰めると、袴垂は恥ずかしそうにうつむいた。保昌はそれを見て笑い、許してやった。
【覚えておきたい知識】
文学史・古文常識:
- 作者:未詳。鎌倉時代の説話集『宇治拾遺物語』の一話。
- 作品:『宇治拾遺物語』は仏教説話・奇談を多く含み、人情や風刺にも富む。
- 袴垂:名高い盗賊として知られる伝説的人物。
- 保昌:平安中期の武士・和歌にも優れた実在の人物(平井保昌)。
重要古語・語句:
- 忍び入る:こっそり入り込む。
- 名を知れり:名前は知られている。
- 恥づかし:恥ずかしい、面目ない。
- 相違あるまじ:違いないだろう。
- 許し給ふ:許してやる、寛大に扱う。
【設問】
【問1】袴垂が「名を知れりといへども、名乗らんことは恥づかし」と答えた理由として最も適切なものを一つ選べ。
- 本名を知らなかったから。
- 盗人であることを自ら認めるのが恥ずかしかったから。
- 保昌をだまそうとしたから。
- 夜で声が届かなかったから。
- 実は他人のふりをしていたから。
【問1 正解と解説】
正解:2
「名乗らんことは恥づかし」とは、盗人である自分の正体をさらけ出すのが恥ずかしい、という心情である。
【問2】後日、保昌が袴垂を許した理由として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 盗みに失敗したから。
- 袴垂が武士だったから。
- 袴垂の素直な態度を見て、哀れみを感じたから。
- 自分も昔は盗人だったから。
- 袴垂が金品を返したから。
【問2 正解と解説】
正解:3
袴垂は問い詰められて恥じ入り、素直にうつむいた。その姿に保昌は哀れみを感じ、寛大に許したのである。
【問3】本文を通じて描かれる保昌の人物像として最もふさわしいものを一つ選べ。
- 情け深く寛大な人。
- 冷酷で厳しい人。
- 策略に長けた人。
- 物を惜しむ人。
- 気が弱い人。
【問3 正解と解説】
正解:1
盗人に問い詰めても、素直な様子を見て笑って許す保昌は、情け深く寛大な人物として描かれている。