古文対策問題 012(土佐日記「男もすなる日記といふものを」)

【本文】

男もすなる日記といふものを、女もしてみむとて、するなり。
それの年の十二月の二十日あまり一日の日の戌の時に門出して、皆人ある限りいでて見送り、干する間近くなりぬれば、はや舟に乗るべしとて、急がせければ、ある人々は舟に乗り、ある人々は岸に残りて涙を落としけり。

【現代語訳】

男が書くという日記というものを、女である私も書いてみようと思って書くことにした。
その年の十二月二十一日の夕方に出発し、家の人はみんな出て見送ってくれた。潮が満ちてきたので、早く舟に乗るようにと急かされ、ある人は舟に乗り、ある人は岸に残って涙を流した。

【覚えておきたい知識】

文学史・古文常識:

  • 作者:紀貫之(きのつらゆき)。平安時代前期の歌人・国司。
  • 作品:『土佐日記』は、土佐国から京への帰路を女性のふりをして書いた仮名日記文学の先駆的作品。
  • 門出:出発、旅立ち。
  • 戌の時:午後8時ごろ(十二支で時刻を表す)。

重要古語・語句:

  • すなる:~すると聞いている。
  • してみむとて:してみようと思って。
  • ある限り:家族・家にいる人々すべて。
  • 干する間:潮が満ちてくるころ。
  • けり:詠嘆・過去の助動詞。

【設問】

【問1】冒頭「男もすなる日記といふものを、女もしてみむとて、するなり」の表現意図として最も適切なものを一つ選べ。

  1. 女性の日記が流行していたので自分も書きたかった。
  2. 男性が書く日記文学を、女性の立場から試みてみようとした。
  3. 男性に頼まれて日記を書いた。
  4. 他人に勧められてしぶしぶ書いた。
  5. 当時の日記は匿名で書くのが普通だった。
【問1 正解と解説】

正解:2

「男が書くと聞く日記を、女である私も書いてみよう」と、男性中心だった日記文学を女性仮託で書く試みが示されている。仮名日記文学の独創性である。

【問2】門出の場面で、見送りに来た人々の様子として最もふさわしいものを一つ選べ。

  1. みな無関心であった。
  2. 別れを惜しみ、涙を流していた。
  3. 早く帰るように急かしていた。
  4. 誰も見送りに来なかった。
  5. 皆で宴会を開いていた。
【問2 正解と解説】

正解:2

「ある人々は岸に残りて涙を落としけり」とある通り、家族や人々が涙を流しながら見送る感動的な場面が描かれている。

【問3】「干する間近くなりぬれば、はや舟に乗るべしとて、急がせければ」の「干する間」の意味として最も正しいものを一つ選べ。

  1. 干潮の時刻
  2. 潮が満ちてくるころ
  3. 日の出のころ
  4. 雨が降るころ
  5. 風が強くなるころ
【問3 正解と解説】

正解:2

「干する間」とは、潮が満ちてきて舟が出やすくなるころを指す。ここでは出発を急がされる理由となっている。

レベル:標準|更新:2025-07-25|問題番号:012