149(『論語』子路 より 和して同ぜず)

本文

子曰、「(1)君子和而不同。小人同而不和。」
子貢問曰、「郷人皆好之、何如。」子曰、「未可也。」「郷人皆悪之、何如。」子曰、「未可也。(2)不如郷人之善者好之、其不善者悪之也。」

【書き下し文】
子(し)曰(のたま)はく、「(1)君子(くんし)は和(わ)して同(どう)ぜず。小人(しょうじん)は同じて和せず。」と。
子貢(しこう)問ひて曰く、「郷人(きょうじん)、皆(みな)之を好まば、何如(いかん)。」と。子曰はく、「未(いま)だ可ならざるなり。」と。「郷人、皆之を悪(にく)まば、何如。」と。子曰はく、「未だ可ならざるなり。(2)郷人の善(よ)き者、之を好み、其の不善(ふぜん)なる者、之を悪むには如(し)かざるなり。」と。

【現代語訳】
先生(孔子)が言われた、「(1)君子は、他人と協調はするが、安易に同調はしない。つまらない人間は、安易に同調はするが、本当に協調することはない。」と。
(弟子の)子貢が尋ねて言った、「村中の人がみな、ある人物を好きだとしたら、どうでしょうか。」と。先生は言われた、「まだ(良いとは)言えないな。」と。「では、村中の人がみな、ある人物を嫌いだとしたら、どうでしょうか。」と。先生は言われた、「それもまだ(悪いとは)言えないな。(2)村の中の良い人が彼を好み、良くない人が彼を嫌う、という状態に及ぶものはない(それが一番良い)。」と。

【設問】

問1 傍線部(1)の「和して同ぜず」という君子のあり方について、最も適当な説明を次から選べ。

  1. 自分の意見をしっかりと持ちつつ、他人の意見にも耳を傾け、全体の調和を重んじるあり方。
  2. 内心では反対していても、表面上は周りの人々に同調し、波風を立てないようにするあり方。
  3. 周りの意見に流されず、常に自分の信じる道を突き進む、孤高のあり方。
  4. どのような意見を持つ人とも、分け隔てなく付き合うことができる、社交的なあり方。
【解答・解説】

正解:1

「和」とは、多様性を認め、それぞれが持つ異なる意見や立場を尊重しながら、全体として調和のとれた状態を作り出すことである。一方、「同」とは、多様性を認めず、ただ同じ意見や行動に画一化することである。君子は、自分自身のしっかりとした判断基準(=同ぜず)を持ちながらも、他者と協調し、より良い結論を目指す(=和す)ことができる。主体性と協調性の両立を説いた言葉である。

問2 傍線部(1)の「同じて和せず」という小人のあり方について、最も適当な説明を次から選べ。

  1. 自分の意見がないため、ただ周りの意見に流されて同調するだけで、真の協調関係を築くことができない。
  2. 他人と同じであることが嫌いで、わざと反対意見を述べるため、周りと協調することができない。
  3. 自分の仲間とだけは同調するが、それ以外の人々とは協調しようとしない。
  4. 表面上は同調しているように見せかけて、裏では相手を陥れようとしているため、真の協調は生まれない。
【解答・解説】

正解:1

小人は、自分自身のしっかりとした判断基準を持っていない。そのため、ただ付和雷同し、多数派や権力者に安易に「同調」する。しかし、それは主体性のない迎合にすぎず、異なる意見を調整してより良いものを生み出すという、本当の意味での「協調(和)」ではない。表面的な一致の裏には、何の創造性もない、空虚な関係しかない。

問3 傍線部(2)の子貢との対話は、「君子和而不同」の教えとどのように関連しているか。最も適当なものを次から選べ。

  1. 君子は、誰からも好かれる八方美人(=皆に同ずる)ではなく、善悪の基準が明確であるため、善人からは好かれ、悪人からは嫌われる、ということを示している。
  2. 君子は、村人全員と真に和することができるが、小人は村人全員から嫌われる、ということを示している。
  3. 君子は、善人とも悪人とも分け隔てなく付き合うが、決して悪に同調することはない、ということを示している。
  4. 君子は、村人からの評判を気にせず、自分の信じる道をただひたすら歩むべきである、ということを示している。
【解答・解説】

正解:1

孔子は、「村中の皆に好かれる」こと(=同)も、「村中の皆に嫌われる」こと(=不和)も、どちらも良い状態ではないと言う。理想は、「善者には好かれ、不善者には嫌われる」ことである。これは、その人物が、安易に同調せず、しっかりとした善悪の判断基準(=同ぜず)を持っていることの証である。そのような人物は、同じく善を好む者とは真に「和」することができるが、不善をなす者とは相容れない。この対話は、「和して同ぜず」の具体的な人物評価への応用を示している。

【覚えておきたい知識】

重要単語

背景知識:和して同ぜず(わしてどうぜず)

出典は『論語』子路篇。儒教における人間関係の理想を示す、非常に重要な言葉である。孔子は、主体性なく周りに流される「同」を、見せかけだけの関係として批判し、各々が自らの見識や個性を保ちながら、互いを尊重し、より高い次元で調和する「和」を理想とした。これは、オーケストラにおいて、各楽器がそれぞれの音を出しながら、全体として美しいハーモニーを奏でるのに似ている。友人関係や組織のあり方、さらには国際関係に至るまで、多様な人間関係に適用できる普遍的な理念として、現代でも高く評価されている。

レベル:共通テスト発展|更新:2025-07-26|問題番号:149