3.1 複数の物体が登場するとき ~どの物体に注目する?~
物体が1つじゃない!どう考えればいい?
さあ、第3章の最初の探検だ! これまでは基本的に、1つの物体に注目して、それに働く力や運動を考えてきたね。 でも、現実の世界や物理の問題では、複数の物体がくっついていたり、積み重なっていたり、糸でつながっていたりすることがよくある。
物体が2つ以上になると、難しく感じるかもしれない。なぜなら、物体同士が直接または間接的に力を及ぼし合う相互作用 (Interaction) が始まるからだ。 物体Aが物体Bを押したり引いたり、逆に物体Bが物体Aに力を及ぼしたり…。
でも、心配はいらないよ! 基本的な考え方はこれまでと全く同じ。攻略の最大のカギは…
注目物体を切り替えて、一つずつ丁寧に考える!
この原則をしっかり守れば、どんなに物体が増えても大丈夫だ!
複数の物体問題の攻略法!
複数の物体が絡む問題を解くときには、次のステップで考えるとスムーズだよ。
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【まず試す】全体を一つの系 (System) と見なせるか?
もし、複数の物体が一体となって同じ加速度で動く場合、それらをまとめて「一つの大きな物体(系)」と見なして全体の運動方程式を立てると、全体の加速度 $a$ を簡単に求められることがあるんだ。このとき、物体間でお互いに及ぼし合う力(内力 Internal force)は考えなくてよく、系の外から加わる力(外力 External force)だけを考えればいい。
ただし! この方法では、物体間の力(張力や接触力など)は求められないことが多いから注意が必要だよ。 -
【これが基本】それぞれの物体に個別に注目する!
これが一番確実で基本的な方法だ。面倒くさがらずに、各物体について、一つずつ順番に注目しよう。そして、その注目物体に働く力をすべて図示し、それぞれの物体について運動方程式(または力のつり合いの式)を立てるんだ。
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物体間の相互作用力に注意!
物体ごとに式を立てるとき、物体間でお互いに及ぼし合う力が登場する。ここでニュートンの第3法則(作用・反作用)や、軽い糸の性質(張力が等しい)が役立つ!
- 物体Aが物体Bを押す力 $f$ があれば、物体Bは物体Aを同じ大きさ $f$ で逆向きに押し返す。
- 物体AとBが軽い糸でつながれていれば、Aを引く張力 $T$ とBを引く張力 $T$ は同じ大きさになる。
これらの関係を使って、式の中の未知数を減らしていくんだ。
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連立方程式を解く!
物体ごとに立てた複数の方程式を、連立方程式として解けば、求めたい加速度や力が見つかるはずだ!
具体例で見てみよう!
例1:重ねて置かれた物体(静止)
床の上に質量 $M$ の台があり、その上に質量 $m$ の物体が乗って静止している。それぞれの物体に働く力を考えてみよう。
(a) 上の物体 $m$ に注目
- 働く力:重力 $mg$(下), 台からの垂直抗力 $N_{上}$(上)
- 力のつりあい(鉛直):$N_{上} - mg = 0 \implies N_{上} = mg$
(b) 下の台 $M$ に注目
- 働く力:重力 $Mg$(下), 床からの垂直抗力 $N_{下}$(上), 上の物体 $m$ から押される力 $N'_{上}$(下)
- $N'_{上}$ は、$N_{上}$ (台が物体 $m$ を押す力) の反作用なので、大きさは $N_{上}$ と同じで $mg$。
- 力のつりあい(鉛直):$N_{下} - Mg - N'_{上} = 0$
- $N_{下} - Mg - mg = 0 \implies N_{下} = (M+m)g$ (床は台と物体の合計の重さを支えている)
作用・反作用のペア確認:
- $N_{上}$ (台→m) と $N'_{上}$ (m→台)
- $N_{下}$ (床→台) と 台が床を押す力
- $mg$ (地球→m) と mが地球を引く力
- $Mg$ (地球→台) と 台が地球を引く力
例2:接触した2物体を水平に押す(運動)
なめらかな水平面上に質量 $m_1, m_2$ の物体が接して置かれ、$m_1$ を右向きに力 $F_0$ で押す。加速度 $a$ と、物体間でおよぼしあう力(垂直抗力)の大きさ $f$ は?
床はなめらかなので摩擦は考えない。鉛直方向はつり合っている。
考え方1:全体 ($m_1+m_2$) を一つの物体と見る
- 働く外力(水平):$F_0$ (右向き)
- 運動方程式(右向き正):$(m_1 + m_2)a = F_0$
- $a = \frac{F_0}{m_1 + m_2}$ (加速度が求まった!)
考え方2:物体ごとに見る(物体間の力 $f$ も求める場合)
- 物体 $m_1$ に注目:
- 働く力(水平):押す力 $F_0$(右), $m_2$から押し返される力 $f$(左)
- 運動方程式(右向き正):$m_1 a = F_0 - f$ ...(式1)
- 物体 $m_2$ に注目:
- 働く力(水平):$m_1$から押される力 $f$(右)
- 運動方程式(右向き正):$m_2 a = f$ ...(式2)
- 連立して解く:(式2)を(式1)に代入すると $m_1 a = F_0 - m_2 a \implies (m_1+m_2)a = F_0 \implies a = \frac{F_0}{m_1+m_2}$。これを(式2)に代入すると $f = m_2 a = \frac{m_2 F_0}{m_1+m_2}$。
どちらの考え方でも加速度 $a$ は同じ結果になるね!物体間の力 $f$ を求めたいときは、物体ごとに考える必要がある。
※例3:糸でつながれた2物体を引く例は、前のセクション(2.3 例2)で詳しく見たので、ここでは図と結果の確認だけにしておくね!考え方は接触している場合と同じで、物体間の力が「押し合う力 $f$」から「引き合う張力 $T$」に変わるだけだ。
複数の物体問題を解くコツまとめ
- 注目物体を一つずつ明確にする!
- 各物体について、接触力(垂直抗力、摩擦力、張力、弾性力、押し合う力)と非接触力(重力)を丁寧に図示する。
- 物体間でおよぼしあう力(内力)は、作用・反作用の関係にあることに注意(大きさが等しく向きが反対)。
- 軽い糸でつながれていれば、張力 $T$ の大きさはどこでも同じ。
- 一体となって動くなら、加速度 $a$ は共通。
- 各物体について運動方程式(またはつり合いの式)を立て、連立して解く。
【練習】複数の物体の運動を分析しよう! (準備中)
ここでは、上で見たような複数の物体が絡む問題で、パラメータ(質量、力、摩擦係数など)を変えると加速度や物体間の力がどのように変化するかをシミュレーションできるアプリなどを準備する予定だよ。お楽しみに!
(ここに複数物体問題練習用JSアプリが入る予定です)