第5章 いろいろな試行の確率
5-3: 二項分布Binomial Distribution へのイントロダクション
前のページでは、独立な試行を $n$ 回繰り返したときに、ある事象A(成功)がちょうど $k$ 回起こる確率 $P_k$ を計算する公式
$P_k = {}_n C_k \, p^k (1-p)^{n-k}$
を学んだね($p$ は1回の試行で事象Aが起こる確率)。
この公式を使うと、$k$ の値、つまり成功する回数が $0, 1, 2, \dots, n$ のそれぞれについて、その確率を求めることができるんだった。
例えば、コインを3回投げる場合($n=3, p=1/2$)では、表が出る回数 $k$ とその確率 $P_k$ は下のようになったね。
- $k=0$: $P_0 = 1/8$
- $k=1$: $P_1 = 3/8$
- $k=2$: $P_2 = 3/8$
- $k=3$: $P_3 = 1/8$
このように、起こりうる結果(ここでは成功回数 $k$)と、それぞれの結果が起こる確率 $P_k$ の対応関係をひとまとめにしたものを「確率分布probability distribution」と呼ぶんだ。
そして、反復試行の成功回数に関するこの確率分布には、特別な名前が付いている。それが「二項分布Binomial Distribution」だよ!
二項分布Binomial Distribution とは?
二項分布とは、
- 互いに独立な試行を、
- 決まった回数 $n$ 回繰り返し、
- 各回の試行では「成功」か「失敗」の2つの結果しかなく、
- 成功確率 $p$ が毎回同じである
という条件(独立なベルヌーイ試行の繰り返し)のもとで、成功する回数 $k$ ($k=0, 1, 2, \dots, n$) が従う確率分布のことだよ。
二項分布は、試行回数 $n$ と成功確率 $p$ という2つのパラメータparameterによって、その形が決まるんだ。よく $B(n, p)$ という記号で表されるよ。
成功回数が $k$ になる確率は、反復試行の確率の公式で計算できるんだったね。
$P(X=k) = {}_n C_k \, p^k (1-p)^{n-k}$
(ここで $X$ は成功回数を表す「確率変数random variable」というものだけど、これは第3部で詳しく学ぶから、今は「成功回数」のことだと思っておけば大丈夫だよ。)
二項分布の形をグラフで見てみよう!
二項分布がどんな形をしているか、いくつか例を見てみよう。成功回数 $k$ を横軸、その確率 $P_k$ を縦軸にした棒グラフで表してみるよ。
例1:コイン5回投げ ($n=5, p=0.5$) の二項分布
表が出る回数 $k$ とその確率 $P_k$
$p=0.5$ なので、グラフは $k=2.5$ を中心に左右対称だね。
例2:サイコロ5回投げで「1の目」が出る回数 ($n=5, p=1/6$) の二項分布
1の目が出る回数 $k$ とその確率 $P_k$
$p=1/6$ と小さいので、グラフは $k=0$ や $k=1$ の確率が高く、右に裾が長い非対称な形(右に歪んでいる)になるね。
これらのグラフからわかるように、二項分布 $B(n, p)$ の形は、
- 試行回数 $n$
- 成功確率 $p$
の2つのパラメータによって決まるんだ。
- $p=0.5$ のときは、グラフは左右対称な山形になる。
- $p$ が 0.5 から離れると(0や1に近づくと)、グラフは非対称に歪んでいく。
- $n$ が大きくなると、たとえ $p$ が0.5でなくても、グラフはある特定の形(釣鐘型、これは「正規分布」というものに似てくるんだ)に近づいていくという面白い性質もあるよ(これはまたずっと後で学ぶよ!)。
なぜ「二項」分布って言うの?
これはちょっと難しい話だけど、「二項定理」という数学の公式 $(a+b)^n = \sum_{k=0}^{n} {}_n C_k a^k b^{n-k}$ と深い関係があるからなんだ。 $a$ を成功確率 $p$、$b$ を失敗確率 $1-p$ と置き換えると、$a+b=1$ だから $(p + (1-p))^n = 1^n = 1$ となるね。一方、二項定理の右辺は $\sum_{k=0}^{n} {}_n C_k p^k (1-p)^{n-k}$ となって、これはまさに成功回数 $k=0$ から $k=n$ までの確率 $P_k$ を全部足したものになっている!つまり、二項定理の各項が二項分布の各確率に対応している、というわけなんだ。「二項」展開に関係する分布だから「二項分布」と呼ばれているんだね。
まとめと次のステップ
- 同じ条件で独立な試行を $n$ 回繰り返し、成功確率 $p$ が一定のとき、成功回数 $k$ が従う確率の対応関係(分布)を二項分布 $B(n, p)$ という。
- 各成功回数 $k$ の確率は $P_k = {}_n C_k \, p^k (1-p)^{n-k}$ で計算できる。
- 二項分布は、確率や統計の世界で非常によく使われる重要な確率分布の一つ。
今回は、確率分布の中でも代表的な二項分布について紹介したよ。次の第3部(第6章以降)では、「確率変数random variable」や「確率分布probability distribution」という考え方を、もっと一般的、体系的に学んでいくことになる。二項分布以外にも、ポアソン分布や正規分布といった、面白い性質を持つたくさんの確率分布が登場するから、楽しみにしていてね!
このページで出てきたEnglish wordsとその仲間たち
英単語 (English) | 意味 (Meaning) | 例文 (Example Sentence) | 例文の読み上げ | 例文の日本語訳 |
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Binomial Distribution | 二項分布 | The binomial distribution gives the probability of getting k successes in n Bernoulli trials. | ▶ 再生 | 二項分布は、n回のベルヌーイ試行でk回の成功を得る確率を与えます。 |
Parameter | パラメータ、母数 | The binomial distribution is characterized by two parameters: n (number of trials) and p (probability of success). | ▶ 再生 | 二項分布は、n(試行回数)とp(成功確率)という2つのパラメータによって特徴づけられます。 |
Probability Distribution | 確率分布 | A probability distribution describes how probabilities are distributed over the possible outcomes. | ▶ 再生 | 確率分布は、確率がどのように可能な結果にわたって分布しているかを記述します。 |
Random Variable | 確率変数 | The number of successes (k) in n trials is a discrete random variable. | ▶ 再生 | n回の試行における成功回数(k)は離散確率変数です。 |
Symmetric (Distribution) | 対称な(分布) | When p=0.5, the binomial distribution is symmetric. | ▶ 再生 | p=0.5のとき、二項分布は対称です。 |
Skewed (Distribution) | 歪んだ(分布)、非対称な | If p is close to 0 or 1, the binomial distribution becomes skewed. | ▶ 再生 | もしpが0か1に近い場合、二項分布は歪みます。 |
Binomial Theorem | 二項定理 | The sum of binomial probabilities is related to the binomial theorem. | ▶ 再生 | 二項確率の合計は二項定理に関連しています。 |