第5章 いろいろな試行の確率
5-2: 反復試行の確率Repeated Trials Probability(ベルヌーイ試行Bernoulli Trials)
前のページでは、独立な試行を繰り返すときに、「1回目は表、2回目は裏、3回目は表」のように、特定の順番で結果が出る確率を計算したね。各回の確率を単純に掛け合わせればよかった。
でも、こういう場合はどうだろう?
「コインを5回投げて、ちょうど3回表が出る確率は?」
この場合、「表表表裏裏」でも「表裏表裏表」でも、順番は問わず、とにかく表が3回、裏が2回出ればいいわけだ。このように、順番は関係なく、特定の事象が特定の回数起こる確率を考えるのが、今回のテーマ「反復試行の確率」だよ。
反復試行とその確率
同じ条件の下で、ある試行を何回か繰り返し行うとき、各回の試行が互いに独立である場合、これを反復試行repeated trialsと呼ぶんだったね。
特に、各回の試行結果が「成功(事象Aが起こる)」か「失敗(事象Aが起こらない)」のどちらかしかないような試行を繰り返す場合をよく考えるんだ。このような試行を、数学者の名前をとって「ベルヌーイ試行Bernoulli trial」と呼ぶこともあるよ。(例:コイン投げで表が出るか裏が出るか、サイコロを振って1が出るか出ないか、など)
反復試行の確率の問題設定はこうだ。
「1回の試行で事象Aが起こる確率が $p$ である試行を、$n$ 回繰り返す。このとき、事象Aがちょうど $k$ 回起こる確率はいくらか?」
(もちろん、Aが起こらない確率は $1-p$ となるね。)
反復試行の確率の考え方
まず、簡単な例で考え方を掴もう。
例:コインを3回投げて、表(H)がちょうど2回出る確率 ($n=3, k=2$)
1回の試行で表が出る確率 $p = \frac{1}{2}$。表が出ない(裏(T)が出る)確率は $1-p = \frac{1}{2}$。
表がちょうど2回出るパターンには、どんな順番があるかな? 書き出してみると…
- (表, 表, 裏) - HHT
- (表, 裏, 表) - HTH
- (裏, 表, 表) - THH
の3パターンがあるね。
それぞれのパターンが起こる確率を計算してみよう。各回の試行は独立だから、確率を掛け合わせればいいんだったね。
- HHT の確率: $P(H) \times P(H) \times P(T) = \frac{1}{2} \times \frac{1}{2} \times \frac{1}{2} = (\frac{1}{2})^3 = \frac{1}{8}$
- HTH の確率: $P(H) \times P(T) \times P(H) = \frac{1}{2} \times \frac{1}{2} \times \frac{1}{2} = (\frac{1}{2})^3 = \frac{1}{8}$
- THH の確率: $P(T) \times P(H) \times P(H) = \frac{1}{2} \times \frac{1}{2} \times \frac{1}{2} = (\frac{1}{2})^3 = \frac{1}{8}$
どのパターンも、起こる確率は同じ $\frac{1}{8}$ になった! 一般的に、成功確率 $p$ の試行を $n$ 回繰り返して、成功が $k$ 回、失敗が $n-k$ 回起こる特定の1つのパターンの確率は、$p^k (1-p)^{n-k}$ となるんだ。
そして、これらのパターン(HHT, HTH, THH)は同時には起こらない(互いに排反)ので、「表がちょうど2回出る」という事象の確率は、これらの確率を足し合わせればいい(加法定理)。
求める確率 = (HHTの確率) + (HTHの確率) + (THHの確率)
$= \frac{1}{8} + \frac{1}{8} + \frac{1}{8} = 3 \times \frac{1}{8} = \frac{3}{8}$
ここで重要なのは、「何パターンあるか?」という数だ。この例では3パターンだったけど、これは「3回の試行の中から、表が出る2回を選ぶ組み合わせ」の数と同じになっているんだ! ${}_3C_2 = \frac{3 \times 2}{2 \times 1} = 3$ 通り、だね。
つまり、反復試行の確率は、
(そのようなパターンが何通りあるか:組み合わせ ${}_n C_k$)$\times$(その1つのパターンが起こる確率:$p^k (1-p)^{n-k}$)
で計算できることがわかるんだ!
反復試行の確率の公式
1回の試行で事象Aが起こる確率を $p$ とする。この試行を $n$ 回繰り返すとき、事象Aがちょうど $k$ 回起こる確率 $P_k$ は、次の式で計算される。
$P_k = {}_n C_k \, p^k (1-p)^{n-k}$
ここで、
- ${}_n C_k = \frac{n!}{k!(n-k)!}$ : $n$ 回の試行の中から、事象Aが起こる $k$ 回を選ぶ組み合わせの数(何パターンあるか)。
- $p^k$ : 事象Aが $k$ 回起こる確率の掛け算。
- $(1-p)^{n-k}$ : 事象Aが起こらない事象(余事象)が $n-k$ 回起こる確率の掛け算。
具体的な例で計算してみよう!
例題1:サイコロで1の目がちょうど2回出る確率
1個の公正なサイコロを4回投げるとき、1の目がちょうど2回出る確率を求めよ。
これは反復試行の問題だね。
$n=4$ (試行回数)
$k=2$ (求める回数)
$p = P(\text{1の目が出る}) = \frac{1}{6}$ (1回の成功確率)
$1-p = P(\text{1以外の目が出る}) = \frac{5}{6}$ (1回の失敗確率)
公式 $P_k = {}_n C_k \, p^k (1-p)^{n-k}$ に当てはめると、
$P_2 = {}_4 C_2 \, (\frac{1}{6})^2 (\frac{5}{6})^{4-2}$
${}_4 C_2 = \frac{4 \times 3}{2 \times 1} = 6$
$P_2 = 6 \times (\frac{1}{36}) \times (\frac{25}{36})$
$P_2 = \frac{6 \times 25}{36 \times 36} = \frac{25}{6 \times 36} = \frac{25}{216}$
確率は $\frac{25}{216}$
例題2:復元抽出で赤玉がちょうど3回出る確率
袋の中に赤玉3個、白玉2個(計5個)が入っている。この袋から玉を1個取り出して色を確認し元に戻す。これを5回繰り返すとき、赤玉がちょうど3回出る確率を求めよ。
$n=5$
$k=3$
$p = P(\text{赤玉が出る}) = \frac{3}{5}$
$1-p = P(\text{白玉が出る}) = \frac{2}{5}$
求める確率は $P_3 = {}_5 C_3 \, (\frac{3}{5})^3 (\frac{2}{5})^{5-3}$
${}_5 C_3 = {}_5 C_2 = \frac{5 \times 4}{2 \times 1} = 10$
$P_3 = 10 \times (\frac{27}{125}) \times (\frac{4}{25})$
$P_3 = 10 \times \frac{108}{3125} = \frac{1080}{3125} = \frac{216}{625}$
確率は $\frac{216}{625}$
例題3:射撃でちょうど4回当てる確率
ある射撃選手が的に当てる確率は $\frac{2}{3}$ である。この選手が5回射撃を行うとき、ちょうど4回的に当てる確率を求めよ。
$n=5$
$k=4$
$p = P(\text{当てる}) = \frac{2}{3}$
$1-p = P(\text{外す}) = 1 - \frac{2}{3} = \frac{1}{3}$
求める確率は $P_4 = {}_5 C_4 \, (\frac{2}{3})^4 (\frac{1}{3})^{5-4}$
${}_5 C_4 = {}_5 C_1 = 5$
$P_4 = 5 \times (\frac{16}{81}) \times (\frac{1}{3})^1$
$P_4 = 5 \times \frac{16}{81 \times 3} = \frac{80}{243}$
確率は $\frac{80}{243}$
二項分布Binomial Distribution ってなんだろう?
反復試行の確率の公式 $P_k = {}_n C_k \, p^k (1-p)^{n-k}$ を使うと、$n$ 回の試行の中で、事象Aが起こる回数 $k$ が $0, 1, 2, \dots, n$ それぞれについて、その確率を計算できるね。
例えば、コインを3回投げる例 ($n=3, p=1/2$) だと、表が出る回数 $k$ とその確率 $P_k$ の関係は下の表のようになるよ。
表が出る回数 (k) | 確率 $P_k$ |
---|---|
0回 | ${}_3C_0 (\frac{1}{2})^0 (\frac{1}{2})^3 = 1 \times 1 \times \frac{1}{8} = \frac{1}{8}$ |
1回 | ${}_3C_1 (\frac{1}{2})^1 (\frac{1}{2})^2 = 3 \times \frac{1}{2} \times \frac{1}{4} = \frac{3}{8}$ |
2回 | ${}_3C_2 (\frac{1}{2})^2 (\frac{1}{2})^1 = 3 \times \frac{1}{4} \times \frac{1}{2} = \frac{3}{8}$ |
3回 | ${}_3C_3 (\frac{1}{2})^3 (\frac{1}{2})^0 = 1 \times \frac{1}{8} \times 1 = \frac{1}{8}$ |
合計 | $\frac{1}{8}+\frac{3}{8}+\frac{3}{8}+\frac{1}{8}=1$ |
このように、反復試行における成功回数 $k$ と、その確率 $P_k$ の対応関係(分布)のことを「二項分布Binomial Distribution」と呼ぶんだ。
下のグラフは、このコイン投げの例の二項分布を棒グラフで表したものだよ。成功回数(表が出る回数)が1回や2回の確率が一番高くなっているのがわかるね。
この二項分布は、確率の世界でとても重要で、後の第3部「確率分布」でもっと詳しく学ぶことになるよ!
このページで出てきたEnglish wordsとその仲間たち
英単語 (English) | 意味 (Meaning) | 例文 (Example Sentence) | 例文の読み上げ | 例文の日本語訳 |
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Repeated Trials Probability | 反復試行の確率 | We use a specific formula to calculate repeated trials probability. | ▶ 再生 | 反復試行の確率を計算するために特定の公式を使います。 |
Bernoulli Trials | ベルヌーイ試行 | A sequence of independent Bernoulli trials leads to the binomial distribution. | ▶ 再生 | 一連の独立なベルヌーイ試行は二項分布につながります。 |
Binomial Probability Formula | 二項確率の公式(反復試行の確率の公式) | The binomial probability formula is $P(X=k) = {}_n C_k p^k (1-p)^{n-k}$. | ▶ 再生 | 二項確率の公式は $P(X=k) = {}_n C_k p^k (1-p)^{n-k}$ です。 |
Number of Successes | 成功回数 (k) | We are interested in the probability of getting exactly k successes in n trials. | ▶ 再生 | 私たちはn回の試行でちょうどk回の成功を得る確率に関心があります。 |
Number of Trials | 試行回数 (n) | Let n be the total number of trials. | ▶ 再生 | nを総試行回数とします。 |
Probability of Success | 成功確率 (p) | Let p be the probability of success on a single trial. | ▶ 再生 | pを1回の試行での成功確率とします。 |
Binomial Distribution | 二項分布 | The binomial distribution describes the number of successes in a fixed number of Bernoulli trials. | ▶ 再生 | 二項分布は、固定された回数のベルヌーイ試行における成功数を記述します。 |