第5章 いろいろな試行の確率
5-1: 独立な試行Independent Trials の確率
さあ、新しい章だよ!これまでは、1回や2回の試行について、確率がどうなるかを見てきたね。例えば、サイコロを2回投げたときの目の和とか、袋から玉を2回取り出すとか。
今回は、同じようなことを何度も繰り返す場合を考えてみよう。例えば、
- コインを5回投げる
- サイコロを10回振る
- 同じくじを(引いたら元に戻して)3回引く
といった状況だ。そして特に、それぞれの回の結果が他の回の結果に全く影響しない場合に注目するよ。このような繰り返しの試行を「独立な試行Independent Trials」と呼ぶんだ。
独立な試行Independent Trials とは?
いくつかの試行trialを繰り返し行うとき、それぞれの試行の結果が、他のどの試行の結果にも影響を与えない場合、これらの試行は「互いに独立independent」である、または「独立試行independent trials」であると言うんだ。
ポイントは、何回繰り返しても、各回の条件や確率が変わらないということだね。
例:
- 独立試行の例:
- コインを10回投げる:1回目の結果が2回目の確率を変えることはないね。
- サイコロを5回振る:毎回、各目が出る確率は $\frac{1}{6}$ で変わらない。
- 袋から玉を取り出し、色を見て元に戻してから、また引く操作を繰り返す(復元抽出):毎回、袋の中身は同じだから、確率は変わらない。
- 独立試行でない例:
- 袋から玉を取り出し、元に戻さずに、続けて引く操作を繰り返す(非復元抽出):引くたびに袋の中身が変わるので、次の玉を引く確率も変わってしまう。これは独立試行ではない(従属な試行だ)。
独立な試行の確率の計算
独立な試行を繰り返し行うとき、「1回目は〇〇、2回目は△△、3回目は□□、…」というように、特定の順番で特定の事象が起こる確率はどうやって計算できるだろうか?
これは、第2章で学んだ「独立事象の乗法定理」を応用すればいいんだ!つまり、
各回の試行でその事象が起こる確率を、すべて掛け合わせれば良い
ということになる。
$P(1回目A_1 \cap 2回目A_2 \cap \dots \cap n回目A_n) = P(A_1) \times P(A_2) \times \dots \times P(A_n)$
(ただし、各試行は互いに独立)
具体的な例で計算してみよう!
例題1:コインを3回投げる
1枚の公正なコインを3回投げます。(各回の試行は独立だね)
(a) 3回とも表が出る確率
1回目に表が出る確率 $P(H_1)=\frac{1}{2}$、2回目に表が出る確率 $P(H_2)=\frac{1}{2}$、3回目に表が出る確率 $P(H_3)=\frac{1}{2}$。
求める確率は、$P(H_1 \cap H_2 \cap H_3) = P(H_1) \times P(H_2) \times P(H_3)$ なので、
確率は $(\frac{1}{2}) \times (\frac{1}{2}) \times (\frac{1}{2}) = (\frac{1}{2})^3 = \frac{1}{8}$
(b) 表 (H)、裏 (T)、表 (H) の順に出る確率
$P(H_1)=\frac{1}{2}$, $P(T_2)=\frac{1}{2}$, $P(H_3)=\frac{1}{2}$。
求める確率は、$P(H_1 \cap T_2 \cap H_3) = P(H_1) \times P(T_2) \times P(H_3)$ なので、
確率は $\frac{1}{2} \times \frac{1}{2} \times \frac{1}{2} = \frac{1}{8}$
(c) 少なくとも1回は表が出る確率
「少なくとも1回は表が出る」事象は、「1回だけ表」「2回だけ表」「3回とも表」の場合を全部考える必要があって少し大変だ。
こういうときは、反対の事象(余事象 よじしょう)を考えると楽なことが多いよ!「少なくとも1回は表が出る」の反対は、「1回も表が出ない」つまり「3回とも裏が出る」ことだね。
3回とも裏が出る確率は、(a) と同じように考えて、$P(T_1 \cap T_2 \cap T_3) = (\frac{1}{2})^3 = \frac{1}{8}$。
求めたい確率(少なくとも1回は表)は、全体の確率(必ず起こる確率=1)から、余事象の確率(3回とも裏)を引けばいい。
$P(\text{少なくとも1回表}) = 1 - P(\text{3回とも裏}) = 1 - \frac{1}{8} = \frac{7}{8}$
例題2:サイコロを2回振る
1個の公正なサイコロを2回振ります。(各回の試行は独立)
(a) 1回目は1の目、2回目は6の目が出る確率
$P(1回目1) = \frac{1}{6}$, $P(2回目6) = \frac{1}{6}$。
確率は $\frac{1}{6} \times \frac{1}{6} = \frac{1}{36}$
(b) 2回とも偶数の目が出る確率
1回目に偶数が出る確率は $P(\text{偶数}) = \frac{3}{6} = \frac{1}{2}$。2回目も同じく $\frac{1}{2}$。
確率は $\frac{1}{2} \times \frac{1}{2} = \frac{1}{4}$
例題3:袋から玉を取り出して戻す(復元抽出)
袋の中に赤玉3個、白玉2個(計5個)が入っています。この袋から玉を1個取り出して色を確認し、元に戻します。この操作を3回繰り返します。(毎回、袋の状態は同じなので、独立な試行だね)
(a) 3回とも赤玉が出る確率
1回の試行で赤玉が出る確率は $P(\text{赤}) = \frac{3}{5}$。
確率は $P(\text{1回目赤} \cap \text{2回目赤} \cap \text{3回目赤}) = (\frac{3}{5}) \times (\frac{3}{5}) \times (\frac{3}{5}) = (\frac{3}{5})^3 = \frac{27}{125}$
(b) 赤、白、赤の順で出る確率
1回の試行で白玉が出る確率は $P(\text{白}) = \frac{2}{5}$。
確率は $P(\text{1回目赤}) \times P(\text{2回目白}) \times P(\text{3回目赤}) = \frac{3}{5} \times \frac{2}{5} \times \frac{3}{5} = \frac{18}{125}$
次のステップへ:「反復試行の確率」
今の例題では、「赤、白、赤の順で出る」確率を計算したね。
では、「3回中、ちょうど2回赤玉が出る」確率(順番は問わない)はどう計算するんだろう?
この場合、「赤赤白」「赤白赤」「白赤赤」の3つのパターンが考えられるよね。
- 赤赤白の確率: $\frac{3}{5} \times \frac{3}{5} \times \frac{2}{5} = \frac{18}{125}$
- 赤白赤の確率: $\frac{3}{5} \times \frac{2}{5} \times \frac{3}{5} = \frac{18}{125}$
- 白赤赤の確率: $\frac{2}{5} \times \frac{3}{5} \times \frac{3}{5} = \frac{18}{125}$
これらの3つのパターンは互いに排反だから、求める確率はこれらの和になる。
確率 = $\frac{18}{125} + \frac{18}{125} + \frac{18}{125} = 3 \times \frac{18}{125} = \frac{54}{125}$
この「3つのパターンがある」という部分、どこかで見覚えがないかな? そう、これは3回の試行の中から赤玉が出る2回を選ぶ「組み合わせ」${}_3C_2 = 3$ 通り、と計算できるんだ!
このように、独立な試行を繰り返して、「特定の事象がちょうど $k$ 回起こる確率」を考えるのが、次のテーマ「反復試行の確率Repeated Trials Probability / Binomial Probability」だよ。楽しみにしていてね!
このページで出てきたEnglish wordsとその仲間たち
英単語 (English) | 意味 (Meaning) | 例文 (Example Sentence) | 例文の読み上げ | 例文の日本語訳 |
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Independent Trials | 独立試行 | Flipping a coin multiple times consists of independent trials. | ▶ 再生 | コインを複数回投げることは、独立試行から成ります。 |
Repeated Trials | 反復試行 | We analyze the probability of outcomes in repeated trials. | ▶ 再生 | 私たちは反復試行における結果の確率を分析します。 |
Sequence of Events | 事象の列、一連の事象 | The probability of a specific sequence of events in independent trials is the product of their individual probabilities. | ▶ 再生 | 独立試行における特定の事象の列の確率は、個々の確率の積です。 |
Bernoulli Trial | ベルヌーイ試行 | Each coin flip can be considered a Bernoulli trial, having only two outcomes (e.g., success or failure). | ▶ 再生 | 各コイン投げは、2つの結果(例:成功か失敗)しか持たないベルヌーイ試行と見なすことができます。 |
Exactly k times | ちょうどk回 | We want the probability that heads occurs exactly k times in n flips. | ▶ 再生 | 私たちは、n回のコイン投げで表がちょうどk回起こる確率を知りたいです。 |
At least once | 少なくとも1回 | Calculate the probability of getting heads at least once. | ▶ 再生 | 少なくとも1回表が出る確率を計算してください。 |
Complementary Event / Complement | 余事象 | The probability of the complementary event (getting no heads) is easier to calculate. | ▶ 再生 | 余事象(表が出ない)の確率の方が計算しやすいです。 |