現代文対策問題 99

本文

私たちは写真を、現実をありのままに写し取る客観的な記録だと信じています。「百聞は一見に如かず」という言葉があるように、写真はしばしば議論の余地のない事実の証拠として扱われます。報道写真や証明写真が持つ力も、この写真の「客観性」への信頼に支えられています。

しかし、一枚の写真ができるまでには、実は無数の主観的な選択が関わっています。撮影者は何を被写体として選ぶか、どの角度から、どの瞬間にシャッターを切るか、そして撮影された多くのカットの中からどの一枚を選び出すか。これらの選択はすべて、撮影者の意図や関心、価値観に深く根ざしています。写真は現実の透明な窓ではなく、特定の視点を切り取るフレームなのです

さらに、写真の意味は、それが置かれる文脈によって大きく変わります。同じ一枚の子どもの笑顔の写真でも、家族アルバムの中にあれば幸福の象徴となり、人権団体のパンフレットに使われれば、貧困や紛争からの救済を訴えるメッセージになります。キャプションや記事の一文が写真の解釈を決定的に左右することも珍しくありません。写真はそれ自体で完結した意味を持つのではなく、常に周囲の言葉との関係の中で意味を生み出しているのです。

写真の持つこうした構築性を理解することは、私たちがメディアと向き合ううえでとても重要です。写真が提示する「事実」を無批判に受け入れるのではなく、その背後にある撮影者の意図や使われている文脈を読み取る力——つまりリテラシー——を持つことで、初めて私たちは写真という強力なメディアの力をコントロールし、その豊かな可能性を活かすことができるでしょう。


【設問1】傍線部「写真は現実の透明な窓ではなく、特定の視点を切り取るフレームなのです」とは、写真のどんな特徴を指していますか。

  1. 写真は現実を美化したり歪めたりすることができる芸術表現の一つだということ。
  2. 写真は現実のすべてを写しているわけではなく、撮影者の主観的な選択によって切り取られた一部分だということ。
  3. 写真は撮影された瞬間の時間を止めて、過去の出来事を現在に伝える記録だということ。
  4. 写真は見る人の感情や経験によって、その解釈が大きく変わる曖昧なメディアだということ。
【正解と解説】

正解:2

  • 写真は現実をそのまま映し出す「透明な窓」ではなく、撮影者の選択や意図によって特定の部分が切り取られている、という意味です。
  • フレームとは、ある部分を枠で「切り取り」、それ以外を省くことを意味します。本文でも被写体やアングル、タイミングなど主観的な選択が関わると説明しています。

【設問2】傍線部「写真の持つこうした構築性を理解すること」とは、どのような意味ですか。

  1. 写真が高性能な機材や専門的な技術によって作られていること。
  2. 写真の意味や見え方は、撮影者の意図や使われる文脈によって積極的に作り上げられるということ。
  3. 写真は社会の人々の価値観やイデオロギーを作り変える力があるということ。
  4. 写真は光と影の組み合わせで被写体の立体感や質感を再現する芸術だということ。
【正解と解説】

正解:2

  • 写真の意味は撮影者がどんな場面をどう切り取るか、どんな文脈で使われるかによって「作り上げられる」ものです。
  • 写真は自動的に意味が決まるわけではなく、人の意図や使われ方で大きく変わるということを表しています。

【設問3】筆者がここで言う「リテラシー」とは、どのような力のことですか。

  1. 写真の構図や色彩の美しさを正確に評価できる力。
  2. 写真に写っている情報から、背後にある社会問題を読み取る力。
  3. 写真をそのまま信じるのではなく、撮影者の意図や文脈を批判的に考えながら読み解く力。
  4. デジタル技術を使い、写真を自由に加工・編集して新たな表現を生み出す力。
【正解と解説】

正解:3

  • 本文では「リテラシー」は、写真の表面だけをそのまま受け取るのではなく、背後にある意図や文脈を考えて読み取る力を指しています。
  • 写真がどのような目的や意図で切り取られ、どんな場面で使われているかを自分で考え、疑うことができる力です。

語句説明:
介在(かいざい):二つのものの間に入り込んで存在すること。
フレーム:枠組み。ここでは視点を限定する枠の比喩。
キャプション:写真やイラストに添える短い説明文。
リテラシー:もともとは読み書きの力のこと。転じて、情報を正しく理解し活用する力。

レベル:大学入学共通テスト対策|問題番号:99