現代文対策問題 97
本文
我々は日々、膨大な「情報」の洪水にさらされています。インターネットを開けば、世界中のニュースや専門家の知識、友人たちの近況が瞬時に手に入ります。この情報への容易なアクセスは、我々を賢くしたでしょうか。むしろ私は、現代人を特徴づけるのが知識の深化ではなく、「知ったかぶり」の蔓延であるように思えてなりません。
情報と知識は、似て非なるものです。情報とは、断片的で文脈を欠いたデータの集合体にすぎません。一方、知識とは、それらの情報が個人の中で有機的に結びつけられ、体系化され、血肉となったものを指します。検索すればすぐに手に入る借り物の「情報」を、自分が消化し、理解した「知識」であると錯覚するとき、「知ったかぶり」が生まれます。
「知ったかぶり」の厄介な点は、それが本物の知への探求心を麻痺させてしまうことです。スマートフォンで数秒検索して得たウィキペディアの数行を読んだだけで、その事柄についてすべてを理解したかのような錯覚に陥る。その浅い理解で満足してしまうため、一冊の本をじっくりと読み通したり、専門家と粘り強く対話したりという、時間のかかる知的な営みを避けるようになる。結果として私たちの思考は深みを失い、あらゆる物事を薄っぺらなキーワードだけで理解した気になってしまうのです。
真の「知」の出発点は、むしろ「自分は何も知らない」という無知の自覚にある。知らない、という謙虚な認識こそが、私たちを安易な「知ったかぶり」の罠から救い出し、本物の知識へと向かわせる唯一の原動力となる。情報が氾濫する時代だからこそ、私たちは情報のサーファーであることに安住せず、知のダイバーとなる覚悟を持たなければならないのではないでしょうか。
【設問1】傍線部①「検索すればすぐに手に入る借り物の『情報』を、自分が消化し、理解した『知識』であると錯覚する」とあるが、筆者は「情報」と「知識」をどのように区別しているか。
- 「情報」は客観的な事実であり、「知識」は主観的な意見である。
- 「情報」は断片的で外部にあるデータであり、「知識」は個人の中で体系化された内面的な理解である。
- 「情報」は新しく現代的なものであり、「知識」は古くから伝わる伝統的な知恵である。
- 「情報」は誰もがアクセスできる公開されたものであり、「知識」は一部の専門家だけが持つ秘伝のものである。
【正解と解説】
正解 → 2
- 1. 「主観的な意見」というより、むしろ情報が体系化されたものが知識であると述べています。
- 2. 第二段落で、筆者は「情報とは、断片的で文脈を欠いたデータの集合体」「知識とは、それらの情報が個人の中で有機的に結びつけられ、体系化され、血肉となったもの」と明確に両者を定義し区別しています。この選択肢は、その定義を的確に言い換えています。
- 3. 「新旧」の区別はしていません。
- 4. 「専門家だけが持つ」という限定はしていません。誰でも情報を知識に変えることができる、と示唆しています。
【設問2】傍線部②「真の『知』の出発点は、むしろ『自分は何も知らない』という無知の自覚にある」とあるが、なぜ筆者はそのように考えるのか。
- 自分の無知を他者に正直に告白することで、周囲からの助けを得やすくなるから。
- 知らないと認めることで、知ったかぶりをする精神的なプレッシャーから解放されるから。
- 自分には知識が足りないと認識することが、本物の知識を得ようとする学習意欲の源泉となるから。
- 自分は何も知らないと開き直ることで、かえって常識に囚われない自由な発想が生まれるから。
【正解と解説】
正解 → 3
- 1. 「他者からの助け」という他力本願な話ではありません。
- 2. 「プレッシャーからの解放」もあるかもしれませんが、より本質的なのは、その後の知的な探求です。
- 3. 傍線部の直後で、筆者は「知らないという謙虚な認識こそが、…本物の知識へと向かわせる唯一の原動力となる」と述べています。つまり、自分の無知を自覚して初めて「知りたい」という欲求が生まれ、それが真の知識探求への出発点になるということです。この選択肢は、その因果関係を的確に説明しています。
- 4. 「開き直る」という投げやりな態度ではなく、「謙虚な認識」と述べているので、不適当です。
【設問3】本文で筆者が用いている「情報のサーファー」と「知のダイバー」の比喩の説明として、最も適当なものを次の中から一つ選べ。
- 「サーファー」は危険を冒して新しい情報を求める人を、「ダイバー」は安全な場所で既存の知識を守る人を指す。
- 「サーファー」は情報の表面を次々と渡り歩く人を、「ダイバー」は一つのテーマを深く掘り下げて探求する人を指す。
- 「サーファー」は一人で情報収集を行う人を、「ダイバー」は仲間と協力して知識を共有する人を指す。
- 「サーファー」は娯楽として情報を楽しむ人を、「ダイバー」は仕事のために専門知識を学ぶ人を指す。
【正解と解説】
正解 → 2
- 1. 「危険」や「安全」という対比はしていません。
- 2. サーフィンが波の「表面」を滑るスポーツであるのに対し、ダイビングは海の「深み」へと潜っていく活動です。この比喩は、筆者が問題にする情報の表面だけをなぞる「浅い理解」(=サーファー)と、筆者が推奨する本質へと向かう「深い探求」(=ダイバー)の違いを鮮やかに表現しています。
- 3. 「一人」か「仲間と」かという人数は問題にしていません。
- 4. 「娯楽」か「仕事」かという目的の違いも論点ではありません。
語句説明:
蔓延(まんえん):好ましくないものが止めどなく広がること。
似て非なるもの(にてひなるもの):外見は似ているが性質は全く違うもの。
有機的に(ゆうきてきに):多くの部分が集まって一つの全体を作り、各部分が密接に関連し合って機能しているさま。
血肉となる(ちにくとなる):知識や経験などが完全に自分のものとなり、人格や能力の一部となること。