現代文対策問題 93
本文
現代は「つながり」の時代であると言われます。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)は、時間と空間の制約を超えて、私たちを無数の人々と結びつけました。私たちは、かつてのどの時代よりも多くの「友人」や「フォロワー」を持ち、彼らの日常をリアルタイムで知ることができます。この常時接続の状態は、私たちに大きな利便性と安心感を与えてくれました。
しかし、この絶え間ない「つながり」は、私たちを本当に豊かにしているのでしょうか。むしろ、それは私たちから、ある決定的に重要な時間を奪っているのではないでしょうか。すなわち「孤独」である時間です。ここで言う「孤独」とは、寂しさや孤立といったネガティブな状態ではありません。むしろ、他者の喧騒から離れ、一人静かに自分自身の内面と向き合うための創造的な時間を指します。
深い思索や新たな発想、あるいは自己との対話は、このような積極的な「孤独」の中でしか生まれ得ません。常に他者の視線や評価にさらされ、「いいね」の通知に一喜一憂する生活の中では、私たちの思考は断片化し、表層を滑るばかりです。他者とつながることは、もちろん重要です。しかし、その前に、まず自分自身と深くつながっていなければ、その関係性は空虚なものになりかねません。
皮肉なことに、私たちは孤独を恐れるあまり、SNSの中で、かえって深い孤独感を味わっているのかもしれません。何百人の「友人」と繋がっていても、そこには真の対話も深い共感もありません。真のつながりとは数の問題ではありません。それは質の問題です。そして、その質を担保するのは、他ならぬ「孤独」の時間なのです。一人でいられる強さを持つ者だけが、真に他者と共にいることができるのです。
【設問1】傍線部①「他者の喧騒から離れ、一人静かに自分自身の内面と向き合うための創造的な時間」とあるが、筆者はなぜこの時間を「創造的」だと考えているか。
- 一人でいる時間に集中して作業することで、仕事や勉強の生産性が向上するから。
- 他者の影響から自由になり、自分独自の考えや新しいアイデアを生み出すことができるから。
- 誰にも邪魔されずに趣味や娯楽に没頭することで、精神的な満足感を得られるから。
- 社会のしがらみから解放され、普段は抑圧している本当の感情を表に出せるから。
【正解と解説】
正解 → 2
- 1. 「生産性」という実用的な観点ではなく、より内面的な精神活動について論じています。
- 2. 筆者は続く第三段落で、「深い思索や新たな発想、あるいは自己との対話は、このような積極的な『孤独』の中でしか生まれ得ない」と述べています。他者の意見や評価といった「喧騒」から離れることで、初めて自分の中から湧き上がる独自の思考や発想(=創造)が可能になる。この選択肢は筆者の主張を的確に捉えています。
- 3. 「趣味や娯楽」も孤独な時間ですが、筆者がここで強調しているのは思索や発想といった、より知的な「創造」です。
- 4. 「感情の解放」も含まれるかもしれませんが、より中心的な論点は、新しい「考え」や「発想」が生まれることです。
【設問2】傍線部②「皮肉なことに、私たちは孤独を恐れるあまり、SNSの中で、かえって深い孤独感を味わっている」とあるが、これはどういうことか。
- SNS上での華やかな友人たちの投稿を見ることで、自分の現実とのギャップに劣等感を感じてしまうこと。
- 常に他者と繋がっているようでいて、その関係が表層的であり、真の心の触れ合いがないことに気づいてしまうこと。
- SNSでの発言が思わぬ誤解を招き、炎上することで、社会的に孤立してしまう危険性があること。
- SNSに夢中になるあまり、目の前の家族や友人との時間をおろそかにして、関係が悪化してしまうこと。
【正解と解説】
正解 → 2
- 1. 「劣等感」もSNSがもたらす感情ですが、筆者がここで指摘している「皮肉」は、つながりを求めた結果、孤独になるという逆説です。
- 2. 筆者はSNSでの「つながり」を数の問題として捉え、その「質」の低さを問題にしています。「何百人の『友人』と繋がっていても、そこには真の対話も深い共感もない」と述べているように、表面的なつながりの中で、かえって本質的な人間的接触の欠如を感じてしまう。これが、つながりを求めた結果としての「深い孤独感」の正体です。
- 3. 「炎上」という特殊なケースではなく、より日常的な感覚について述べています。
- 4. 「目の前の関係」との比較ではなく、SNS内の関係の質そのものを問題にしています。
【設問3】本文の趣旨を踏まえて、筆者が最も重要だと考えていることを、次の中から一つ選べ。
- 現代人はSNSへの過剰な依存をやめ、もっと現実世界での対面での交流を大切にすべきである。
- 豊かな人間関係を築くためには、多くの人と広く浅く付き合うよりも、少数の親友と深く関わることが重要である。
- 他者との真のつながりを持つためには、その前提として、一人で自分自身と向き合う孤独の時間を確保することが不可欠である。
- コミュニケーション能力を高めるためには、他者の意見に耳を傾けるだけでなく、自分の考えを明確に主張する訓練も必要である。
【正解と解説】
正解 → 3
- 1. 「対面での交流」も重要ですが、筆者の論点の核心は、そのさらに手前にある「孤独」の重要性です。
- 2. 「少数の親友」という具体的な関係に限定していません。より根本的な自己と他者の関係のあり方を論じています。
- 3. 筆者は一貫して「つながり」と「孤独」の関係を論じています。第三段落で「他者とつながることは、もちろん重要だ。しかし、その前に、まず自分自身と深くつながっていなければ」と述べ、最終段落では「一人でいられる強さを持つ者だけが、真に他者と共にいることができる」と結論づけています。これは、質の高い他者との関係の基盤として「孤独」(=自己との対話)が不可欠であるという筆者の中心的な主張を的確に表しています。
- 4. 「自分の考えを主張する」という話す力の問題はここでは論じられていません。
語句説明:
常時接続(じょうじせつぞく):常にインターネットなどのネットワークに接続されている状態。
喧騒(けんそう):多くの人々が騒がしくがやがやしていること。
担保(たんぽ):確実性を保証すること。
空虚(くうきょ):中身がなく、むなしいこと。