現代文対策問題 79

本文

私たちは幼い頃から「個性」を尊重され、一人ひとりが唯一無二の存在として自分らしさを伸ばすべきだと教えられてきた。たとえば「ナンバーワンにならなくてもいい もともと特別なオンリーワン」という歌詞が広く愛されるように、現代はまさに個性の価値が称賛される時代である。

ところがその一方で、私たちは本当に他者と違うことを恐れてはいないだろうか。学校や職場では「周囲と浮くこと」を極度に嫌い、無意識のうちに同じような服装や考え方に自分を合わせようとする。SNSで「いいね」の数を気にする心理も根は同じであろう。私たちは口では個性を礼賛しながら、行動では他者からの承認を求め、同質性の中に埋没しようとしている。このねじれた状況こそが、現代の生きづらさの根源の一つではないだろうか。

真の「個性」は、奇抜なファッションや人目を引く言動ではない。そうした外面的な差異化は、多くの場合、他者の視線を意識した承認欲求の裏返しにすぎない。むしろ、真の個性とは他者との比較から生まれるものではなく、自らの内面と深く向き合い、自分が本当に何を大切にし、何を美しいと感じるかを静かに見つめる誠実な眼差しの中に宿るものである。

大切なのは他者にどう見られるかではなく、自分がどうあるか。評価の軸を外部から自分の内へ取り戻すこと──それは他者からの承認が得られないかもしれないという孤独と不安を引き受ける勇気を要する。しかし、その静かな自負心こそが、流行や他人の評価に振り回されない確固たる自己を築く唯一の土台となるのである。


【設問1】傍線部①「…口では個性を礼賛しながら、行動では他者からの承認を求め、同質性の中に埋没しようとしている」とあるが、これはどのような矛盾を指摘しているか。最も適当なものを次の中から一つ選べ。

  1. 個性を伸ばすべきと主張する教育者自身が没個性的な生活を送っているという矛盾。
  2. 他者と違う存在でありたいと願いながら、実際には孤立を恐れて周囲と同じように振る舞っているという矛盾。
  3. 個性を発揮すると成功し多くの模倣者が現れ、結果的に大勢と同じになってしまうという矛盾。
  4. 個性的でありたい気持ちが強すぎるあまり、かえって他人の目を過剰に意識してしまうという矛盾。
【正解と解説】

正解 → 2

  • 口では「他者と違うこと」を称賛しながら、行動では孤立を恐れて「同じ」であることを選ぶ。価値観と言動が正反対を向いている点を指摘している。

【設問2】傍線部②「他者にどう見られるかではなく、自分がどうあるか」とあるが、これはどのような態度の転換を意味しているか。最も適当なものを次の中から一つ選べ。

  1. 自己中心的な考えを改め、常に他者への配慮を忘れない謙虚な態度へ変わること。
  2. 他者からの評価や承認に依存する生き方をやめ、自らの内面的な基準に従って生きる主体的な態度へ変わること。
  3. 主観的な思い込みを捨て、社会の中で客観的に自分の役割を分析する態度へ変わること。
  4. 集団の中で自分を殺さず、恐れずに自分の意見を主張し他者と議論する態度へ変わること。
【正解と解説】

正解 → 2

  • 評価の基準を他者(外部)から自分自身(内部)に取り戻し、他者承認ではなく自分の価値観に従って生きる態度を意味する。

【設問3】筆者の考える「真の個性」の説明として最も適当なものを次の中から一つ選べ。

  1. 誰にも真似できない斬新で奇抜な自己表現を行うこと。
  2. 他者との比較ではなく、自らの内面と向き合う誠実な姿勢から生まれるもの。
  3. 集団内でリーダーシップを発揮し周囲を惹きつけるカリスマ性。
  4. 社会の常識や流行に流されず常に批判的な態度を貫く反骨精神。
【正解と解説】

正解 → 2

  • 真の個性は外面的な差異化ではなく、自己の深い内面を誠実に見つめる眼差しに宿ると述べている。

語句説明:
称揚(しょうよう):大いに褒めたたえること。
礼賛(らいさん):素晴らしいものとして褒めたたえること。
埋没(まいぼつ):埋もれて見えなくなること。大勢の中で個性を失うこと。
自負心(じふしん):自分の才能や価値に自信と誇りを持つ心。

レベル:大学入学共通テスト対策|問題番号:79