現代文対策問題 78

本文

「歴史」とは単なる過去の事実の寄せ集めではない。もしそうであれば、歴史学は無味乾燥な年表作成に終始するだろう。歴史家は膨大な過去の痕跡から特定の出来事を選び出し、それらを結びつけて一つの意味ある「物語」として再構成する。すなわち、歴史叙述には本質的に解釈という行為が伴うのである。

この解釈の営みにおいて決定的に重要な役割を果たすのが、歴史家の持つ「現在」という立ち位置である。私たちは過去そのものに戻ることはできない。常に現在の視点と関心に照らして過去を問い直し、その意味を見出そうとする。それゆえ歴史はしばしば「現在と過去との尽きることのない対話である」と言われるのだ。どの過去が想起され語られるかは、私たちがどのような「現在」を生き、どのような「未来」を望むかによって常に変わり続ける。

とはいえ、歴史が恣意的に作り変えられる物語であってよいわけではない。歴史家の解釈は残された史料に基づく厳密な考証によって裏付けられなければならない。史料という過去からの声に謙虚に耳を傾け、自らの解釈を絶えず検証していく誠実な態度が不可欠である。

歴史を学ぶ意義は単に過去の知識を増やすことではない。それは現在の私たちが自明と考えている価値観や社会制度が、決して永遠不変のものではなく、ある歴史的過程を経て形成された相対的なものであることを知る営みである。その学びを通して、私たちは現在を批判的に捉え返し、未来の新たな可能性を構想するための視座を獲得するのだ。


【設問1】傍線部①「…『現在と過去との尽きることのない対話である』と言われるのだ」とあるが、これはどういうことか。最も適当なものを次の中から一つ選べ。

  1. 歴史的な大事件は現代にも教訓を与えてくれるということ。
  2. 現代の価値観が過去の解釈に影響を与え、その解釈が再び現代の認識を形作る相互作用のこと。
  3. 過去の偉人の書物を読むことで時空を超えた精神的交流ができるということ。
  4. 新史料の発見により歴史は常に書き換えられる未完の学問であるということ。
【正解と解説】

正解 → 2

  • 歴史家は現在の視点で過去を再解釈し、その歴史が再び現在の認識を形成する。これが「現在と過去の対話」である。

【設問2】傍線部②「歴史を学ぶ意義は単に過去の知識を増やすことではない」とあるが、筆者が考えるより重要な意義とは何か。

  1. 歴史上の偉人の生き方を学び、自らの人生の指針とすること。
  2. 現在の価値観や制度が歴史過程で形成された相対的なものであると理解すること。
  3. 人類の過ちを知り、同じ失敗を繰り返さない決意を固めること。
  4. 現代社会問題の歴史的背景を理解し、解決策を見出すこと。
【正解と解説】

正解 → 2

  • 歴史を通じて、現在の価値観や社会制度が相対的に形成されたことを知り、現在を批判的に捉え返す視座を得る営みである。

【設問3】筆者の考えによれば、歴史家の解釈が恣意的な物語に陥らないために不可欠なものは何か。

  1. 多くの人に共感される感動的なストーリーを構築する文学的才能。
  2. イデオロギーに偏らない絶対的中立な視点を維持すること。
  3. 史料に基づき自らの解釈を厳密に検証する実証的態度。
  4. 歴史の法則を見抜き未来を予測する先見の明。
【正解と解説】

正解 → 3

  • 解釈は残された史料に厳密に基づいて裏付けられ、声に謙虚に耳を傾け検証する誠実な態度が欠かせない。

語句説明:
叙述(じょじゅつ):物事を順を追って述べること。
想起(そうき):思い起こすこと。
恣意的(しいてき):思いつきや自己都合で行われるさま。
視座(しざ):観察や思考の立場・観点。

レベル:大学入学共通テスト対策|問題番号:78