現代文対策問題 76

本文

近代科学は「客観性」を最重要視し、観測者の主観や価値観を排除して、誰が見ても同じように認識できる普遍的な事実を解明することを使命としてきた。この客観性への志向がテクノロジーを発展させ、私たちの物質的生活を豊かにしたことは疑いない。

しかし、この世界観は重大な問いを見落としてはいないだろうか。すなわち、私たち一人ひとりにとって、この世界はどんな意味を持つのかという問いである。科学が描き出す客観的世界像は、物質の運動法則や化学反応のメカニズムを説明できても、私たちが感じる喜びや悲しみ、人生の目的といった主観的価値については何も語れない。

この科学の光が届かない領域を探求してきたのが、文学や哲学、宗教といった営みである。これらは客観的な正しさを証明できないが、私たちに生きる意味を与え、苦悩と向き合うための言葉を与えてくれる。言わば、科学が世界の「仕組み」を示す地図ならば、文学や哲学はその地図の上を私たちがどう歩むべきかを示す羅針盤の役割を担ってきたのである。

客観的な知識の重要性を認めつつも、それだけが人間の知性のすべてではないと理解することが大切である。仕組みを知ることと、意味を感じること──二つの異なる次元の知性をバランスよく育むことなしに、私たちは真に人間らしくこの複雑な世界を生きることはできないだろう。


【設問1】傍線部①「…主観的な価値の領域については、何も語ることができない」とあるが、筆者がそう考える理由として最も適当なものを一つ選べ。

  1. 科学は発展途上であり、将来的には感情や意識も解明される可能性があるから。
  2. 科学が扱うのは、誰にとっても同じように観察・測定できる客観的事象に限られるから。
  3. 感情は非論理的で気まぐれなため、知的探求の対象になり得ないから。
  4. 人生の目的は個人の自由な選択に委ねられるべきで、科学が価値観を押し付けるべきではないから。
【正解と解説】

正解 → 2

  • 近代科学は「誰が見ても同じ」に基づく普遍性を追求する性質上、主観的な感情や価値を扱う領域に踏み込めない。

【設問2】傍線部②「…それだけが人間の知性のすべてではない」とあるが、筆者が対比しているもう一つの「知性」とは、どのようなものか。

  1. 物事の本質を直感的に見抜く鋭い洞察力。
  2. 人生の意味や価値を問い、感じ取る主観的探求能力。
  3. 複雑なデータを整理し未来を予測する高度な分析力。
  4. 他者の感情に共感し円滑な関係を築く社会的能力。
【正解と解説】

正解 → 2

  • 科学が扱わない「喜びや悲しみ、人生の目的」といった主観的価値を問う能力を指している。

【設問3】「地図」と「羅針盤」の比喩について、最も適当な説明を一つ選べ。

  1. 「地図」は科学が世界の仕組みを示すもので、「羅針盤」は文学や哲学が生き方の方向を示すもの。
  2. 「地図」は哲学が人生の全体像を示すもので、「羅針盤」は科学が行動を決定するもの。
  3. 「地図」は歴史が過去を記録するもので、「羅針盤」は芸術が未来を拓くもの。
  4. 「地図」は法律が社会のルールを示すもので、「羅針盤」は良心が行動を導くもの。
【正解と解説】

正解 → 1

  • 筆者は科学を「仕組みを示す地図」、文学や哲学を「歩む方向を示す羅針盤」にたとえている。

語句説明:
客観性(きゃっかんせい):誰が見ても同じように認識できる性質。
普遍的(ふへんてき):あらゆる場合に共通して当てはまるさま。
志向(しこう):目指す方向や傾向。
羅針盤(らしんばん):航海で方角を知るための器具、比喩的に進むべき方向を示すもの。

レベル:大学入学共通テスト対策|問題番号:76