現代文対策問題 74
本文
現代人はかつてないほど「自由」であると言われる。封建的な身分制度や地域共同体の強い束縛から解放され、職業選択の自由、居住地選択の自由、そしてどのような価値観で生きるかを自己決定する自由を手に入れた。この個人主義の進展は、近代社会が勝ち取った偉大な成果である。
しかし、無限に広がる選択の可能性は、本当に私たちを幸福にしたのだろうか。むしろ私たちは「自由という名の病」に苛まれているのではないか。何ものにも束縛されないことは裏を返せば、何も生きる指針や意味を与えてはくれないということである。かつて自明とされていた共同体の価値や伝統的規範が失われた現代では、生きる意味さえも自らゼロから発明しなければならないという過酷な課題を背負わされている。
あらゆるものが選択可能である状況は、常に「選ばなかったもう一つの人生」を意識させ、自分を相対化する。選択は本当に正しかったのか。もっとよい生き方があったのではないか。この絶え間ない不安と後悔は、自由の代償として支払わされる精神的コストなのである。
自由からの逃避として、人々は安易な物語や強力なリーダーに盲目的に帰依してしまう現象も、この文脈で理解できる。自ら選択し決定する重荷に耐えられなくなると、人は誰かに答えを与えてもらうことを渇望するのだ。真の自由とは単なる選択肢の多さではなく、自らが選び取った不自由さに責任を持って引き受ける覚悟の中にこそ宿るのかもしれない。
【設問1】傍線部①「かつて自明とされていた共同体の価値や伝統的規範が失われた現代では、生きる意味さえも自らゼロから発明しなければならない」という過酷な課題なのはなぜか。
- 生きる意味を見つけられないと社会から落伍者扱いされるから。
- 支えや基準のない中で、人生の根拠をすべて自分の責任で作り上げなければならないから。
- 多様な生き方が認められるため、他者からアドバイスを受けにくいから。
- 伝統的価値を否定し新しい生き方を模索することが保守勢力との対立を生むから。
【正解と解説】
正解 → 2
- 2. かつて共同体が提供していた支えや基準が失われた結果、人生の意義を自力で構築しなければならず、その重荷を「過酷」と表現している。
- 1・3・4はいずれも本文の主張とは異なる視点であり不適当。
【設問2】傍線部②「自由からの逃避として、人々は安易な物語や強力なリーダーに盲目的に帰依してしまう」という行動の根本的動機は何か。
- 判断に自信が持てず、責任を負う重圧から逃れたいという欲求。
- 経済的安定を保証してくれる存在を求める気持ち。
- 単純明快な答えで安心したい知的怠慢。
- 大きな集団に所属し一体感を得たい社会的欲求。
【正解と解説】
正解 → 1
- 1. 自ら選択・決定する責任の重圧に耐えられず、その重荷を軽減するために答えを外部に求める動機を示している。
- 2・3・4はいずれも本文の核心である「責任の重圧」からの逃避とは異なる。
【設問3】筆者の考える「真の自由」とはどのような状態か。
- 社会的規範や他者の評価から完全に解放され、欲望のままに生きること。
- 無限の選択肢から常に最適なものを選び続ける高度な判断力。
- 自らの意思で特定の生き方を選び、それに伴う制約と責任を引き受ける覚悟を持つこと。
- どのような状況でも決して後悔しない確固たる自己肯定感を持つこと。
【正解と解説】
正解 → 3
- 3. 「真の自由」は選択肢の多さではなく、選んだ不自由さに責任を持つ覚悟に宿ると述べている。
- 1・2・4はいずれも本文の「責任の覚悟」という主旨と合致しない。
語句説明:
苛まれる(さいなまれる):苦しめられる、悩まされること。
自明(じめい):説明や証明を要さず、明らかなこと。
相対化(そうたいか):他との比較の中で位置づけられること。
帰依(きえ):絶対的存在にすがること。