現代文対策問題 73
本文
「グローバル化」という言葉が叫ばれて久しい。ヒト・モノ・カネ・情報が国境を軽々と越えて行き交う時代──私たちは世界があたかも一つの均質な空間になりつつあるかのような錯覚に陥りがちだ。英語が共通語となり、ファストフード店が世界中に進出する光景は、文化の多様性が失われ、世界が画一化していく過程のようにも見える。
しかし事態はそれほど単純ではない。グローバル化は文化の均質化を進める一方で、実は各地域の文化的固有性をむしろ先鋭化させるという逆説的な働きももつ。世界がつながり、異質な文化との接触が日常になるからこそ、人々は「自分たちとは何者か」というアイデンティティの問いに直面せざるを得なくなるのだ。自文化の輪郭は、他者という鏡に映して初めて、はっきりと認識されるのである。
たとえば、海外発の食文化がそのまま受け入れられるのではなく、その土地の食材や味覚に合わせて独自にアレンジされ、全く新しい食文化として根付く例は枚挙に暇がない。これは文化の単純な消失ではなく、異文化との接触を通じて新たな創造が生まれる「ハイブリッド化」の過程と捉えるべきだろう。
グローバル化を単なる文化の画一化と捉える悲観論も、異文化が摩擦なく融合するという楽観論も、どちらも現実の一面にすぎない。本当に問われているのは、この複雑で動的なプロセスの中で、自らの文化的立ち位置を見失わず、同時に他者との創造的対話の可能性に開かれているしなやかな姿勢ではないだろうか。
【設問1】傍線部①「世界がつながり、異質な文化との接触が日常になるからこそ、人々は『自分たちとは何者か』というアイデンティティの問いに直面せざるを得なくなる」とあるが、これはどういうことか。最も適当なものを次の中から一つ選べ。
- 異文化の流入によって自国文化が衰退し、自分たちのアイデンティティに自信が持てなくなるということ。
- 多様な文化に触れることで自文化の相対的な位置がわかり、自分たちの独自性について改めて意識するようになるということ。
- グローバルな競争にさらされることで生き残るために自らの文化的強みを見つける必要に迫られるということ。
- どの文化にも優劣はないという考えが広まることで自文化への誇りを失い、アイデンティティが揺らぐということ。
【正解と解説】
正解 → 2
- 1. アイデンティティの喪失ではなく、意識化が促される点を強調している。
- 2. 異文化との比較を通じて自文化の特徴や独自性が際立ち、問い直すきっかけになるという意味である。
- 3. 経済的競争ではなく文化的認識の問題を論じている。
- 4. 誇りを失うのではなく、他者との対比によって自文化を問い直す好機となる。
【設問2】傍線部②「グローバル化を単なる文化の画一化と捉える悲観論も、異文化が摩擦なく融合するという楽観論も、どちらも現実の一面にすぎない」と筆者が述べるのはなぜか。
- グローバル化の影響は地域や国によって異なり、一般化できないから。
- 文化の画一化と固有性の先鋭化という、一見矛盾する二つの現象が同時に進行しているから。
- グローバル化は経済現象であり、文化への影響はごくわずかだから。
- 文化変化は非常に緩やかで、本当の影響を評価するにはまだ早すぎるから。
【正解と解説】
正解 → 2
- 1. 一般化の困難さではなく、文化変容の複雑な構造を論じている。
- 2. グローバル化は均質化を進める一方、地域固有性を先鋭化させるという二重の働きがあるため、悲観論・楽観論のどちらも偏った見方だとしている。
- 3. 文化への大きな影響を前提に論じている。
- 4. 時間軸ではなく現象の構造的複雑性を指摘している。
【設問3】本文で述べられている「ハイブリッド化」の例として最も適当なものを次の中から一つ選べ。
- 海外の有名ブランド店舗が国内主要都市に次々オープンすること。
- アメリカ生まれのハンバーガーが日本で「テリヤキバーガー」として独自に人気を得たこと。
- インターネットで世界中の人々が同じ映画や音楽を同時に楽しむこと。
- 日本の伝統祭りが外国人観光客誘致のため英語パンフレットを作成すること。
【正解と解説】
正解 → 2
- 1. 異文化がそのまま流入する例であり、画一化の側面。
- 2. ハンバーガーが日本の味覚に合わせて「テリヤキバーガー」として定着するのは、異文化が土着文化と融合し新たに創造されるハイブリッド化の典型例である。
- 3. 同時消費は均質化の例。
- 4. 情報発信の例であり、文化そのものが融合・創造されるハイブリッド化とは異なる。
語句説明:
均質(きんしつ):性質や状態がどれも同じでむらがないこと。
画一化(かくいつか):個性や多様性を失い一様にしてしまうこと。
先鋭化(せんえいか):特徴がより鋭く際立つこと。
枚挙に暇がない(まいきょにいとまがない):数えきれないほど多いこと。