現代文対策問題 67

本文

現代はしばしば「情報化社会」と呼ばれるが、私はむしろ「ノイズの時代」と呼びたい。本来受け取るべき意味ある情報、すなわち「シグナル」以外の全ての余計な情報を「ノイズ」と呼ぶ。インターネットやテレビから絶え間なく流れ込む断片的なニュース、ゴシップ、広告の多くは、思考を豊かにするシグナルではなく、むしろ妨害するノイズにほかならない。

かつて情報が希少だった時代、人々は一つのシグナルを大切に深く吟味した。しかし現代では、ノイズの量がシグナルを圧倒してしまっている。その結果、本当に価値あるシグナルをノイズの洪水から見つけ出すことが極めて困難になっている。

ではこの時代に真に重要な能力とは何か。それは、より多くの情報を効率よくインプットする能力ではない。むしろ逆である。すなわち、自分にとって不要な情報(ノイズ)をいかに巧みに遮断し、無視するか、という能力だ。私はこれを「知的なフィルター」と呼びたい。このフィルターの性能こそが、現代人の知性の質を決定すると言っても過言ではない。

真に知的な人間とは、多くのことを知っている人間ではない。むしろ、多くのことを「知らなくてもよい」と心得る人間である。自分にとって本当に重要なシグナルを見極め、それ以外の無数のノイズには意識的に耳を閉ざす。その勇気と見識こそが、ノイズの時代を賢く生き抜くための唯一の武器ではないだろうか。


【設問1】筆者が現代を「ノイズの時代」と呼ぶのはなぜか。その理由として最も適当なものを次の中から一つ選べ。

  1. 現代社会が物理的な騒音に満ち、人々が静かな環境を得られなくなっているから。
  2. 思考の妨げとなる無意味な情報があまりにも氾濫しているから。
  3. インターネット上に悪意ある偽情報が蔓延し、人々が騙されやすくなっているから。
  4. 多様な価値観が無秩序に存在し、何が正しい情報か判断できなくなっているから。
【正解と解説】

正解 → 2

  • 1. 「ノイズ」は比喩的な情報の過剰を指し、物理的音ではない。
  • 2. 筆者は「ノイズ」を「意味ある情報以外の余計な情報」と定義し、その例として断片的ニュースや広告を挙げている。これが「ノイズの時代」と呼ぶ直接的理由である。
  • 3. 偽情報も含まれるが、筆者の定義はゴシップや広告も含む広い概念である。
  • 4. 価値観の多様性より、情報量の問題として論じられている。

【設問2】傍線部①「ノイズの量がシグナルを圧倒してしまっている」結果、どのような事態が生じていると筆者は述べているか。最も適当なものを次の中から一つ選べ。

  1. 人々が情報過多で思考力を完全に失ってしまった。
  2. 人々が本当に価値ある情報を見つけ出すことが難しくなった。
  3. 人々があらゆる情報を疑い、人間不信が蔓延した。
  4. 専門家の権威が失墜し、社会が混乱した。
【正解と解説】

正解 → 2

  • 1. 「完全に失った」とは本文の表現より過剰である。
  • 2. 「ノイズの洪水の中から価値あるシグナルを見つけ出すことが極めて困難になっている」と明確に述べられている。
  • 3. 人間不信や疑心暗鬼は論じられていない。
  • 4. 専門家の権威失墜については触れられていない。

【設問3】傍線部②「真に知的な人間とは、多くのことを知っている人間ではない」とあるが、これに続く筆者の考える「真に知的な人間」像として最も適当なものを次の中から一つ選べ。

  1. 幅広い知識を体系的に整理し、必要に応じて自由に活用できる人間。
  2. 自分にとって本当に重要な情報を見極め、不要な情報を意識的に遮断できる人間。
  3. 常に新しい知識を貪欲に吸収し続ける人間。
  4. 専門分野を深く極め、他の追随を許さない人間。
【正解と解説】

正解 → 2

  • 1. 知識の活用よりも、情報の選択と遮断を重視している。
  • 2. 筆者は「知らなくてもよいことを知る」能力、つまり不要な情報を遮断する能力を重視している。
  • 3. 知識吸収を重視するとノイズの洪水に巻き込まれかねない。
  • 4. 専門性も重要だが、本文で強調されているのは取捨選択の能力である。

【設問4】本文で筆者が提唱する「知的なフィルター」とはどのような能力か。次の中から一つ選べ。

  1. 情報を瞬時に記憶し整理する能力。
  2. 情報の真偽を正確に見抜く能力。
  3. 必要な情報と不要な情報を見分ける能力。
  4. 情報を他者に分かりやすく伝達する能力。
【正解と解説】

正解 → 3

  • 1. 記憶・整理ではなく、情報の取捨選択が焦点である。
  • 2. 真偽判定ではなく、ゴシップや広告を含む全ての不要情報を遮断する能力を指す。
  • 3. 筆者は「不要な情報を巧みに遮断する能力」を「知的なフィルター」と定義しており、これが正解である。
  • 4. 伝達能力ではなく、インプットの選択能力が主題である。

語句説明:
ノイズ:雑音。本来の情報(シグナル)を妨げる不要な情報の比喩。
シグナル:信号。受け取るべき意味ある情報の比喩。
凌駕(りょうが):他をしのいで勝ること。
見識(けんしき):物事を見抜く優れた判断力。

レベル:大学入学共通テスト対策|問題番号:67