現代文対策問題 63
本文
私たちは、物事を学ぶ際、できるだけ、最短距離で、効率よく、ゴールに到達すべきだと考えがちである。教科書を読み、要点をまとめ、練習問題を解く。そうした、直線的な学習ルートこそが、最も、合理的で、優れた方法だと信じられている。しかし、私は、そのような、効率性ばかりを重視する学びのあり方に、疑問を感じている。
むしろ、真に、深く、創造的な学びとは、しばしば、「回り道」の産物なのではないだろうか。ある一つのテーマを調べているうちに、全く関係ないと思っていた、別の事柄に興味が湧き、そちらに深入りしてしまう。当初の目的からすれば、それは、無駄な「回り道」に違いない。しかし、そのような、偶然の寄り道の中でこそ、私たちは、予期せぬ発見や、分野を横断する、新しい視点を、獲得することがあるのだ。
歴史上の、多くの科学的な大発見が、当初の目的とは違う、偶然の産物であったことは、よく知られている。それは、研究者たちが、一直線に、答えだけを目指していたのではなく、脇道に逸れることを恐れず、目の前に現れた、未知の現象に、柔軟に、興味を向けたからに他ならない。「回り道」とは、無駄な時間ではなく、未知の世界への、扉を開くための、豊かな探求の時間なのである。
もちろん、常に、回り道ばかりしていては、何も、成し遂げることはできないだろう。しかし、効率性や、合理性だけを追求するあまり、寄り道や、脱線を、一切、許さないような学びの姿勢は、私たちから、創造性の最も重要な源泉である、セレンディピティ(偶然の幸運な発見)の機会を、奪ってしまう。時には、地図を捨て、あえて、道に迷ってみる。その勇気こそが、私たちの知の地平を、大きく、押し広げてくれるのではないか。
【設問1】傍線部①「効率性ばかりを重視する学びのあり方に、疑問を感じている」とあるが、筆者がそのように考える理由として最も適当なものを、次の中から一つ選べ。
- 効率的な学習法は、記憶の定着率が低く、結果的に、多くの時間を、無駄にしてしまうから。
- 当初の目的から外れた、偶然の寄り道の中にこそ、予期せぬ発見や、新しい視点を得る機会があるから。
- 最短距離で学ぶことは、他者との競争を激化させ、協力して学び合うという、本来の学習の精神を、損なうから。
- 効率性を重視するあまり、学習のプロセスを楽しむことができなくなり、学ぶこと自体への、意欲が失われてしまうから。
【正解と解説】
正解 → 2
- 1. 「記憶の定着率」といった、具体的な学習効果の比較はしていません。
- 2. 筆者は、「当初の目的からすれば、それは、無駄な『回り道』に違いない。しかし、そのような、偶然の寄り道の中でこそ、私たちは、予期せぬ発見や、分野を横断する、新しい視点を、獲得することがある」と述べています。これが、効率性ばかりを重視する学びへの、筆者の疑問の、直接的な根拠です。
- 3. 「他者との競争」については、本文では触れられていません。
- 4. 「学ぶこと自体への意欲」という、動機付けの問題も重要ですが、筆者がより強調しているのは、回り道がもたらす「創造性」や「発見」という、知的な成果です。
【設問2】傍線部②「『回り道』とは、無駄な時間ではなく、未知の世界への、扉を開くための、豊かな探求の時間」とあるが、これはどういうことか。その説明として最も適当なものを、次の中から一つ選べ。
- 回り道をすることで、気分転換ができ、再び、本来の目的に、集中して、取り組むことができるということ。
- 回り道という、非効率な経験をすることで、逆に、効率的な方法の、ありがたみを、再認識できるということ。
- 計画から外れた、偶然の探求の過程で、当初は、予想もしていなかった、新しい発見や、知識と出会うことができるということ。
- 回り道をすることで、多くの人々と出会い、自分の知らない、多様な価値観に、触れることができるということ。
【正解と解説】
正解 → 3
- 1. 「気分転換」という、心理的な効果だけでなく、もっと知的な成果について述べています。
- 2. 「効率的な方法のありがたみを再認識する」という、皮肉な効果について述べているわけではありません。
- 3. 「歴史上の、多くの科学的な大発見が、当初の目的とは違う、偶然の産物であった」という例が、この選択肢の内容を裏付けています。「未知の世界への、扉を開く」とは、まさに、計画外の「新しい発見や、知識と出会う」ことを、比喩的に表現したものです。
- 4. 「多くの人々との出会い」に限定した話ではなく、もっと広く、知識や発見全般について論じています。
【設問3】筆者が、本文の最後で「地図を捨て、あえて、道に迷ってみる」ことを勧めているのはなぜか。その理由として、最も適当なものを次の中から一つ選べ。
- 計画に縛られず、偶然性に身を委ねることで、創造的な発見の機会が、生まれやすくなるから。
- 自力で、道を探すという困難な経験を通じて、精神的な強さや、自立心を、養うことができるから。
- 既成の知識(地図)を、一度、全て、疑ってかかるという、批判的な思考態度が、重要だから。
- 道に迷うことで、現地の人々と、コミュニケーションを取らざるを得なくなり、語学力が、向上するから。
【正解と解説】
正解 → 1
- 1. 「地図」は、効率的な、直線的な学習ルートの比喩です。それを「捨てる」とは、計画や、既知のルートから、自由になることを意味します。筆者は、そうした、計画から外れた「偶然性」の中にこそ、「創造性の最も重要な源泉である、セレンディピティ」が生まれる、と主張しています。この選択肢が、筆者の主張の核心を、的確に捉えています。
- 2. 「精神的な強さ」や「自立心」を養うことが、主たる目的ではありません。
- 3. 「批判的な思考態度」も重要ですが、筆者がより強調しているのは、「偶然の発見」という、創造性の側面です。
- 4. 「語学力の向上」といった、具体的なスキルの話はしていません。
【設問4】本文全体の趣旨として、最も適当なものを次の中から一つ選べ。
- 学習においては、最終的な結果よりも、そこに至るまでの、努力の過程の方が、より重要である。
- 真の学びのためには、効率性を追求するだけでなく、時には、無駄な回り道をすることも、必要である。
- 科学的な発見の多くは、計画的な研究ではなく、全くの偶然によって、もたらされてきた。
- 現代の教育システムは、効率を重視するあまり、学生から、学ぶことの楽しさを、奪っている。
【正解と解説】
正解 → 2
- 1. 「努力の過程が尊い」という精神論ではなく、その過程(回り道)がもたらす「創造性」という、具体的な効用について論じています。
- 2. 筆者は、「効率性ばかりを重視する学び」に疑問を呈し、その対極にある「回り道」が、「予期せぬ発見」や「新しい視点」をもたらす、と一貫して主張しています。そして、両者のバランスの重要性を示唆しています。この選択肢が、本文全体の主張を、最もバランス良く、要約しています。
- 3. 「全くの偶然によって」というのは、言い過ぎです。研究者たちの、基礎的な知識や、探究心があってこその発見です。
- 4. 「現代の教育システム」という、特定の制度批判が主題ではありません。もっと普遍的な、「学びのあり方」について論じています。
語句説明:
産物(さんぶつ):ある場所や、ある活動の結果として、生み出されたもの。
横断(おうだん):こちら側から、あちら側へと、横切ること。ここでは、複数の分野に、またがること。
セレンディピティ:何かを探している時に、探しているものとは別の、価値あるものを、偶然、見つけ出す能力。偶然の幸運な発見。
地平(ちへい):ここでは、知識や、思想などの、が及ぶ範囲のこと。