評論文対策問題 059(本文1000字・選択肢10個+英訳)
本文(抜粋)
「ちゃんと言葉にして」と求められることがある。
確かに、感情や考えを言葉にすることは、自己理解を深めたり、他者との距離を縮めたりするうえで重要な手段である。
自分が何を感じているのか、何を大事にしたいのかを言語化することで、それまで漠然としていた思いや価値観が輪郭を持ちはじめる。
また、他者との関係においても、言葉を使って伝えることによって、すれ違いや誤解が避けられる。
だが同時に、「言葉にしきれない」ものも確かに存在する。
ある感情は、言葉にした瞬間に薄まってしまったり、言葉にしたことで別の意味として伝わってしまったりすることがある。
「あのときの空気」「あの沈黙に流れていた感覚」など、言葉以前の体験には、言葉が追いつかないこともある。
また、「言葉にすることが正しさ」という価値観が強くなりすぎると、言葉にできない人や、うまく表現できない人の思いが排除されてしまう。
私たちは、言葉にすることの大切さと同時に、「言葉にならないものの尊重」も学ぶ必要があるのではないか。
無理にすべてを言語化しようとせず、言葉の外側にある感覚や沈黙、まなざしや間合いといったものも、他者と共にあるための大切な手がかりとして捉える視点が求められている。
【問題】
筆者の主張に最も合致するものを選べ。
- 言葉にすることができない感情は、他者に伝える手段が存在しない。
- 言葉にしない態度は、責任回避の手段とみなされるべきである。
- 言語化こそが、すべての思考と感情の唯一の出口である。
- 言葉にできないものは、社会的には無価値とされる。
- 感情を適切に言語化できるかどうかが、人間関係の質を決める。
- 言語化と同時に、言葉にならない感覚や沈黙も尊重されるべきである。
- 沈黙や感覚を重視することは、現代社会では非合理的である。
- 表現できないものは、伝える努力を放棄しているにすぎない。
- 言葉にすることを重んじる姿勢は、言えない人々を排除する危険を含む。
- 言葉の正確さを磨くことが、感情の整理にもつながる。
【正解と解説】
正解:6(と9)
- 選択肢1:× 「手がかり」は言葉以外にもあるとされている。
- 選択肢2:× 沈黙は「共にある手がかり」として肯定されている。
- 選択肢3:× 言葉以外にも「まなざし」「間合い」などが提示されている。
- 選択肢4:× 無価値とはされておらず、むしろ「尊重の対象」とされる。
- 選択肢5:× 言語化が苦手な人を排除する価値観が危険とされている。
- 選択肢6:◎ 「言葉にならないものの尊重」=本文終盤の核心的主張。
- 選択肢7:× 感覚や沈黙も「他者と共にあるための大切な手がかり」とされている。
- 選択肢8:× 表現しきれないこと自体を責める態度が危険視されている。
- 選択肢9:◎ 「言葉にすることが正しさ」への懸念と一致。
- 選択肢10:△ 一部肯定だが、本文の主張の核ではない。
語句説明:
まなざし:相手に向ける視線・目の表情。非言語的な関係性のしるし。
【本文の英訳】
We're often told, “Put it into words.” Expressing our thoughts can clarify them and help others understand us. But some feelings fade or distort when we try to verbalize them. The atmosphere, the silence—these often resist language. When verbal expression becomes the only valued form, those who can’t find the words are excluded. We must value not only what is said, but also the unsaid: glances, pauses, presence. True communication includes respecting what can’t be fully spoken.