評論文対策問題 057(本文1000字・選択肢10個+英訳)
本文(抜粋)
現代社会において「効率」は美徳として広く受け入れられている。
少ない時間で最大の成果を出す、無駄を省いて生産性を上げる、といった発想は、学校教育からビジネスまであらゆる場面で推奨されている。
しかし、「効率化」そのものが目的化してしまうと、本来の目的や価値を見失うことにもなりかねない。
たとえば、読書において「要点だけを素早く把握する」ことが重視されすぎれば、文章全体がもつリズムや語りの流れ、思考の揺れといった「読む体験」そのものが失われてしまう。
散歩を「運動量の記録」に変えてしまえば、道ばたの草花や空の色に心を留める余地がなくなる。
「何のためにやるのか」を問わず、すべてを効率性という軸で測るようになると、感性や偶然との出会い、人間的なゆらぎが切り捨てられていく。
効率的なやり方が常に最良とは限らず、時には「回り道」や「手間」が思考の深まりや関係の豊かさを生むこともある。
また、効率を重視するあまり、「早く結論を出す」ことが正義とされ、「迷うこと」「保留すること」が非合理とされる風潮もある。
だが、迷いこそが問いを生み、保留が対話の余地を残すという視点も必要だ。
効率化は強力な道具であるが、それを用いる前に、「何を大切にしたいのか」「何を失いたくないのか」を自らに問う姿勢が求められているのではないだろうか。
【問題】
筆者の主張に最も合致するものを選べ。
- 効率性は全ての行動において最優先されるべき基準である。
- 迷いや保留は判断の遅れであり、できるだけ避けるべきである。
- 読書や散歩にも効率を導入すれば、より良い成果が得られる。
- 効率性は感性や偶然を活かす前提条件である。
- 効率性の追求は、人間的な経験を切り捨てる危険を含んでいる。
- 回り道や非効率な手間は、常に無駄に終わる。
- 効率性のない作業は、社会的に評価される価値がない。
- 結論を保留することは、責任回避にすぎない。
- 迷いを重ねるよりも、迅速な決断が思考を深める。
- 効率の良さは、創造性や豊かさの条件となる。
【正解と解説】
正解:5
- 選択肢1:× 「効率性の目的化」に対して筆者は否定的。
- 選択肢2:× 「迷い」や「保留」の価値が本文で明確に述べられている。
- 選択肢3:× 散歩や読書の効率化が「体験の喪失」になるとされている。
- 選択肢4:× 効率が感性を阻害することへの警鐘が中心。
- 選択肢5:◎ 「切り捨てられる」「ゆらぎ」「問う姿勢」など本文と一致。
- 選択肢6:× 非効率の価値がむしろ称揚されている。
- 選択肢7:× 評価軸を効率だけに絞ることに対する疑問が投げかけられている。
- 選択肢8:× 保留の意義=対話の余地として肯定されている。
- 選択肢9:× 迷いは「問いを生む」とされており、否定されていない。
- 選択肢10:× 創造性や豊かさは「手間」や「偶然」から生まれる場合もある。
語句説明:
ゆらぎ:一定でなく、揺れ動くこと。人間らしい曖昧さや不確かさの象徴。
【本文の英訳】
Efficiency is widely praised in modern life—do more, faster, with less. But when efficiency becomes the goal itself, we risk losing what matters. Skimming books, optimizing walks, rushing decisions—these all trade depth for speed. Emotional nuance, sensory richness, even thoughtful hesitation are sacrificed. Efficiency is powerful, but without asking what we value, it can hollow our experience. Sometimes, taking the long way or pausing to reflect brings insight. Before optimizing, we must ask: What are we trying not to lose?