評論文対策問題 079(本文1000字・選択肢10個+英訳)
本文(抜粋)
「気持ちはわかるよ」「それ、共感する」
そんな言葉が、今の時代には当たり前のように使われている。
他人の痛みや苦しみに寄り添おうとする姿勢は、社会においてとても大切なものであり、共感の力が人と人をつなげることも確かにある。
しかし一方で、「共感」が過剰になることで、かえって相手を押しつぶしてしまうこともある。
たとえば、誰かが悲しみの最中にあるとき、「自分も同じだったよ」と言うことが、相手の気持ちを理解することではなく、「自分の話」にすり替えることになってしまう場合がある。
共感しようとするあまり、相手の語ろうとする余地を奪ってしまうこともあるのだ。
本当の共感とは、「わかるよ」と言うことではなく、「わかりきれない」という前提をもって、ただそばにいること、相手の言葉を受け止めることである。
むしろ、「簡単にわかったつもりにならないこと」が、理解に向かう誠実な姿勢なのではないか。
共感とは、他者の感情に自分を重ねることではなく、「他者のままであること」を尊重することなのだと思う。
その距離感の中にこそ、共感の本当の可能性があるのではないだろうか。
【問題】
筆者の主張に最も合致するものを選べ。
- 共感とは、相手の立場を完全に再現する努力である。
- 本当の共感には、自分の経験を重ねることが必要不可欠である。
- 「わかるよ」と言うことで、相手は安心する。
- 共感とは、相手の気持ちを分析して説明することである。
- 他者の感情は理解しきれないという前提をもつことが、本当の共感に近づく道である。
- 共感を示すには、必ず言葉にして伝えるべきである。
- 誰かの話を聞くときは、自分の体験と常に結びつけるべきである。
- 共感とは、相手の感情を自分の感情に置き換えることである。
- 共感とは、相手が話す前に察して先に行動することを意味する。
- 共感を示すには、まず相手を論理的に理解することが大切である。
【正解と解説】
正解:5
- 選択肢1:× 完全に再現することは不可能であるという立場。
- 選択肢2:× 自分の経験を重ねることが危ういとされている。
- 選択肢3:× 「わかるよ」の安易な使用が問題視されている。
- 選択肢4:× 説明や分析ではなく「受け止める姿勢」が重視される。
- 選択肢5:◎ 「わかりきれないという前提」=本文の中心的主張。
- 選択肢6:× 言葉ではなく「そばにいること」が本質とされる。
- 選択肢7:× 経験を結びつけることが「すり替え」になる場合がある。
- 選択肢8:× 「他者のままであること」を尊重すべきとされている。
- 選択肢9:× 察して先回りすることより、「相手の言葉を待つ」姿勢が重要。
- 選択肢10:× 論理的理解よりも、受け入れ方や姿勢が問われている。
語句説明:
すり替え:本来の対象を別のものと無意識に入れ替えること。
【本文の英訳】
“I understand how you feel.” We say it with care—but do we really? True empathy may begin not with knowing, but with not-knowing. Not replacing their pain with ours, but listening without rush. Empathy is not merging—it’s staying near while letting them stay themselves.