評論文対策問題 063(本文1000字・選択肢10個+英訳)
本文(抜粋)
「忘れてしまった」「どうしても思い出せない」と聞くと、多くの人はネガティブな印象を受けるだろう。
確かに、試験や仕事で大切なことを忘れるのは困るし、過去の経験や出来事を記憶しておくことには価値がある。
しかし一方で、「忘れること」には重要な働きもある。
たとえば、強い悲しみや怒りの感情を抱えたままだと、人は前に進むことが難しくなる。
そうした感情を「少しずつ薄れていく」ことによって、私たちはまた人と関係を築いたり、新しい行動を始めたりできるようになる。
また、日々の膨大な情報をすべて記憶していたら、私たちはかえって思考や判断が鈍ってしまうかもしれない。
忘却とは、「覚えないこと」ではなく、「必要なものとそうでないものを整理する能力」なのだ。
実際、私たちは無意識のうちに、重要度の低い情報や過去のミスを「見えにくい場所」へと押しやっている。
これは逃避ではなく、「生きていくための自然なバランス調整」なのではないだろうか。
忘れることに対して罪悪感を抱くのではなく、それを「選択の一部」として捉え直すことで、自分自身との向き合い方も変わってくる。
忘却は、人間が「限られた容量の中で、何を大事にして生きるか」を問い続ける営みのひとつなのかもしれない。
【問題】
筆者の主張に最も合致するものを選べ。
- 忘れることは記憶力の衰えを示すものであり、訓練すべき対象である。
- 記憶は全て保持するのが理想であり、忘却はその妨げである。
- 忘れることは大切な記憶を失う危険があるため、極力避けるべきである。
- 忘れる行為は、過去から目を背ける無責任な態度を意味する。
- 忘却はストレスを減らすが、思考や判断の質を低下させる。
- 忘れることは、人間に備わった情報整理の力として重要である。
- 忘却は記憶喪失とは異なり、意識的な自己制御の一部である。
- 重要でない情報も含めて記憶することで、人間の経験は深まる。
- 忘れることを許さない社会こそが、健全な記憶文化を育む。
- 過去の記憶を意図的に消すことが、精神的成熟に必要である。
【正解と解説】
正解:6
- 選択肢1:× 忘却を否定せず、むしろ肯定的に捉えている。
- 選択肢2:× 全てを保持することが思考の鈍化につながるとされる。
- 選択肢3:× 忘却が回復や前進に寄与すると述べられている。
- 選択肢4:× 無責任ではなく、自然なバランス調整とされている。
- 選択肢5:× 忘却は思考や判断を助ける役割があるとされる。
- 選択肢6:◎ 「整理する能力」「自然な営み」など本文の主張と一致。
- 選択肢7:△ 一部は正しいが、「無意識のうちに」行われる側面も強調されている。
- 選択肢8:× 重要度に基づいた選別が望ましいとされている。
- 選択肢9:× 「許さない社会」ではなく、許容が必要とされている。
- 選択肢10:× 忘却は「自然な過程」とされており、意図的操作とは異なる。
語句説明:
忘却:物事を忘れること。本文では「意味のある選別行動」として扱われている。
【本文の英訳】
Forgetting is often seen as a flaw. But forgetting can be a strength. If we never let emotions fade, we can't move forward. If we remembered every detail, our thoughts would be overwhelmed. Forgetting helps us filter what's essential. It’s not escaping the past, but balancing what we carry. To forget is not failure—it’s a quiet way of choosing what truly matters.