評論文対策問題 046(本文2倍・選択肢10個+英訳)
本文(抜粋)
「忘れてはいけない」という言葉は、過去の出来事を語るときによく使われる。
たしかに、歴史的な事実や失敗から学ぶには、記憶し続けることが不可欠である。
しかし同時に、人は「忘れる」ことで前に進めるという側面もある。
たとえば、誰かに傷つけられた記憶をずっと抱え続けると、怒りや苦しみが癒えず、日常の一歩を踏み出せなくなることがある。
そうしたとき、「もういいか」と思える感覚は、忘却がもたらす柔らかな救済なのかもしれない。
また、情報があふれる現代において、すべてを覚えようとすることはかえって思考を鈍らせる。
忘れることで余白が生まれ、新しい発想や視点が入ってくる余地もできる。
忘れるとは、単に記憶を失うことではなく、手放すこと、距離を取ることでもある。
私たちは、「忘れること=悪いこと」という前提を問い直し、その働きの多面性に目を向ける必要があるのではないだろうか。
【問題】
筆者の主張に最も合致するものを選べ。
- 忘れることは人間の弱さを表す行為であり、克服すべきである。
- 過去を忘れることは、歴史的責任の放棄を意味する。
- 忘れることは思考を停止させ、創造性を損なう。
- すべてを記憶する努力こそが、知的成熟の証である。
- 忘れることは、人生の苦しみを正面から避ける逃避である。
- 忘れることには、人を癒やしたり、新しい視点を生んだりする働きがある。
- 人は何かを忘れることで、過去の過ちを繰り返すようになる。
- 忘却とは、記憶の喪失ではなく、意図的に思考を捨てる行為である。
- 情報社会では、すべての記憶を保持することが知性の基盤である。
- 忘れることは無意味であり、できる限り避けるべきである。
【正解と解説】
正解:6
- 選択肢1:× 忘れることは「柔らかな救済」として肯定的に描かれている。
- 選択肢2:× 歴史の忘却の危険性には触れつつも、それとは異なる面が論じられている。
- 選択肢3:× 忘れることで「余白」「新たな視点」が生まれるとされている。
- 選択肢4:× すべて覚えることが逆に「思考を鈍らせる」とされる。
- 選択肢5:× 苦しみを避けるというより、受け入れる手放しとしての忘却が描かれている。
- 選択肢6:◎ 本文「癒し」「余白」「新たな発想」=忘却の肯定的側面に合致。
- 選択肢7:× 「忘れる=過ちの再生」だけではなく、癒しとしての側面が強調されている。
- 選択肢8:× 忘却は「思考の喪失」ではなく、「距離をとる」こととされる。
- 選択肢9:× すべて覚えることに否定的な視点が示されている。
- 選択肢10:× 忘れることにこそ意味があると論じられている。
語句説明:
忘却:記憶や思考を手放し、意識の外に追いやること。必ずしも否定的な意味ではない。
【本文の英訳】
“We must never forget”—this phrase is often used when discussing history. Indeed, remembering past events and mistakes is crucial for learning. However, forgetting also plays an important role in moving forward. Holding onto painful memories can trap us in anger or sorrow. In such moments, the feeling of “letting it go” may be a quiet form of healing. In today’s information-heavy world, trying to remember everything may cloud our thinking. Forgetting can create space—for new ideas, fresh perspectives, and emotional relief. Forgetting is not mere loss of memory, but a form of release or detachment. We should reconsider the assumption that forgetting is bad, and instead explore its multifaceted nature.