評論文対策問題 013(本文2倍・選択肢10個)
本文(抜粋)
感情を言語にすることは、人間にとって不可欠な行為である。
喜びや怒り、悲しみや戸惑いといった感情は、心の中にあるだけではしばしば混沌としており、それを言葉にすることでようやく自分のものとして理解される。
言語化は、感情を整理し、他者と共有するための手段であるだけでなく、それによって感情そのものの形を変える行為でもある。
たとえば、うまく言葉にできないもどかしさを感じたとき、私たちはその感情を「名づける」ことで、ある種の輪郭を与え、自分自身と他者との関係性の中に位置づけ直すことができる。
しかし同時に、言語は感情のすべてをとらえきれるわけではない。
言葉にした瞬間に何かがこぼれ落ちるような感覚、言語化されたものが本当の感情からずれてしまうという不一致感もまた、多くの人が経験する。
つまり、感情の言語化には「明確にする力」と「歪める危うさ」の両面がある。
私たちは、言語を信じすぎてもならず、同時に言語に頼らなければ感情を見失ってしまうという、二重のジレンマの中で生きている。
【問題】
筆者の主張に最も合致するものを選べ。
- 感情は言語化することで正確に把握される。
- 言葉にできない感情は、他人と共有する価値がない。
- 感情は言葉で完全に再現できると考えるべきである。
- 感情の言語化は、感情を正しく定義し分類する手段である。
- 感情と言語の関係は、基本的には一致しないものである。
- 感情の言語化は、自分の感情を理解するための必要な行為である。
- 言語化によって感情が変質してしまうことは、避けるべき誤りである。
- 言語は感情に輪郭を与えると同時に、本質を曖昧にする側面もある。
- 感情の言語化は、他者とのコミュニケーションには不向きである。
- 言語を使わずに感情を理解しあうことが、最も誠実な方法である。
【正解と解説】
正解:8
- 選択肢1:× 「正確に把握される」と断定する立場は、本文の「歪み」や「こぼれ落ちる感覚」と矛盾。
- 選択肢2:× 言葉にできなくても意味があることが本文から読み取れる。
- 選択肢3:× 本文は言葉にできない面を強調しており、「完全に再現」は不可能とされている。
- 選択肢4:× 感情は分類よりも、自己理解や関係性の再構成に重きが置かれている。
- 選択肢5:△ 「一致しない」は片面だけであり、「明確にする力」も見落としている。
- 選択肢6:△ 正しいが、「変質する危うさ」への言及がなく片面的。
- 選択肢7:× 「変質は誤り」とする断定は本文に反する。筆者はそれを前提としている。
- 選択肢8:◎ 「輪郭を与える」と「曖昧にする」両面を含んでおり、本文の核心を正確に表現している。
- 選択肢9:× 「不向き」とは書かれておらず、むしろ共有に必要とされている。
- 選択肢10:× 「言語なしでの理解」が本文の趣旨ではない。言語の必要性が強調されている。
選択肢を見抜くテクニック:
- 両義的な立場(明確にする力と危うさ)を反映しているか
- 断定口調(~すべき、~しかない)に注意
- 片面的な真理(例:言語は便利 or 言語はダメ)を避ける
語句説明:
輪郭:ぼんやりとしたものに明確なかたちを与えること。ここでは感情を明確化するという意味で使われている。