現代文対策問題 53

本文

日曜日、私は父に頼まれて物置の整理をしていた。古い雑誌や使わなくなった釣り道具などがごちゃごちゃに積まれている。父は口下手で気難しく、私と父の間には昔からどこかよそよそしい空気が流れていた。今日のように何かを一緒に作業するなんて、本当に珍しいことだった。

「おい、その箱、気をつけろよ」
父が低い声で言った。私が開けようとしていたのは、年季の入った段ボール箱だった。中には古いレコードがぎっしりと詰まっていた。ほとんどが私の知らない外国のロックバンドのものだ。
「へえ、父さん、昔は音楽とか聴いてたんだ」
意外な発見に私がそう言うと、父は少し照れくさそうに顔をそむけた。
「……若い頃はな。お前くらいの年にはバンドもやってたんだぞ」
初めて聞く話だった。父がギターを弾く姿なんて想像もつかない。
一枚、聴いてみるか
父はそう言うと、箱の中から一枚のレコードを取り出し、埃を払って部屋に持っていった。しばらくして物置まで聞こえてきたのは、少しノイズ混じりのギターの音色だった。それは私が普段聴く音楽とはまったく違ったけれど、不思議と心が落ち着く音だった。寡黙な父の背中が、ほんの少しだけ饒舌に見えた午後だった。


【設問1】古いレコードを見つけた時の「私」の気持ちとして最も適当なものを、次の中から一つ選べ。

  1. 父の意外な過去の一面に触れ、父に対して新たな興味を感じている。
  2. 自分とは全く趣味の合わない父との世代間のギャップを改めて感じている。
  3. 父が自分には隠していた秘密を知ってしまい、少し気まずい気持ちになっている。
  4. 父の青春時代の情熱を目の当たりにし、自分の今の生き方と比べて劣等感を抱いている。
【正解と解説】

正解 → 1

  • 1. 「私」は父を「口下手で気難しい」人物だと思っていましたが、レコードという物的な証拠を通して、父がかつて音楽に情熱を注いでいた青年であったことを知ります。「意外な発見」や「初めて聞く話」という記述から、これまで知らなかった父の側面に対して、素直な驚きと関心を抱いている様子がうかがえます。
  • 2. ギャップを感じてはいますが、それを否定的に捉えているわけではありません。むしろ興味の対象となっています。
  • 3. 「気まずい」というネガティブな感情ではなく、純粋な驚きが中心です。
  • 4. 劣等感を抱いているという記述は本文にありません。

【設問2】傍線部「一枚、聴いてみるか」という父の提案に込められた心情の説明として最も適当なものを、次の中から一つ選べ。

  1. 自分の音楽の知識を娘に見せつけ、父親としての威厳を示したいという気持ち。
  2. 娘との気まずい沈黙に耐えられず、とりあえずその場を取り繕おうとする焦り。
  3. 自分の大切な思い出の一部を娘と共有することで、普段はできないコミュニケーションを図ろうとする不器用な試み。
  4. 娘が自分の古いレコードを傷つけないか心配になり、自ら扱ってみせようとする気持ち。
【正解と解説】

正解 → 3

  • 1. 威厳を示したいという高圧的な態度ではなく、むしろ「照れくさそうに」しており、もっと内気な動機がうかがえます。
  • 2. 焦りから出たその場しのぎの提案ではなく、自分の過去と向き合う積極的な提案です。
  • 3. 口下手な父にとって、言葉で自分の過去や内面を語るのは難しいことです。しかし、レコードを見つけられたことをきっかけに、音楽という媒体を通じてなら娘に自分の一部を伝えられるかもしれない。この提案は、普段はよそよそしい娘との距離を少しでも縮めたいという父なりの精一杯の、不器用なコミュニケーションの試みであると解釈できます。
  • 4. 「心配」というよりは、娘の「意外な発見」という反応を受けての行動です。

レベル:大学入学共通テスト対策|問題番号:53