現代文対策問題 75
本文
その日の理科の授業は、植物の観察だった。生徒たちは二人一組になって、校庭の隅にある小さな花壇の前にしゃがみ込んでいる。私は誰とも組まず、少し離れた場所からその様子を眺めていた。クラスにうまく馴染めずにいた私は、いつも一人だった。
花壇には色とりどりの花が咲いていたが、私の目を引いたのは、コンクリートの割れ目から一本だけ懸命に生えている小さな雑草だった。誰にも気づかれず、水をやられることもない。それでも、太陽に向かってまっすぐに葉を伸ばしている。その姿がなぜか他人事とは思えなかった。
授業の終わりに、観察記録を提出することになっていた。みんながパンジーやチューリップの華やかな絵を描いている中、私はあの雑草の絵を描いた。派手さはないが力強いその姿を、できるだけありのままにスケッチした。
「あら、佐藤さん。面白いところに目をつけたわね」
提出したスケッチブックを覗き込んで、先生が言った。
「この草、ドクダミっていうのよ。目立たないけど、とても強い草なの。それに、きれいなだけじゃなくて、薬にもなるのよ」
先生はそう言って、私のスケッチに大きな花丸をくれた。私は自分の席に戻りながら、先生の言葉を反芻していた。ドクダミ。薬にもなる、強い草。私はもう一度、窓の外のあの小さな雑草を見た。さっきよりも少しだけ、その姿が誇らしく見えた。そして自分も、いつかあんな風になれたらと、ほんの少しだけ思った。
【設問1】傍線部「この草、ドクダミっていうのよ。目立たないけど、とても強い草なの。それに、きれいなだけじゃなくて、薬にもなるのよ」という先生の言葉は、「私」にとってどのような意味を持ったか。最も適当なものを次の中から一つ選べ。
- 植物に関する新しい知識を得られたことへの、知的な満足感。
- 自分の着眼点を先生から褒められたことへの、単純な喜びと自信。
- 雑草にもちゃんと名前と役割があることを知り、自分にも価値があるかもしれないという間接的な励まし。
- 先生が自分だけを特別扱いしてくれたことへの、優越感と戸惑い。
【正解と解説】
正解 → 3
- 1. 「知的な満足感」だけでなく、もっと感情的な影響を受けています。
- 2. 「褒められた喜び」もありますが、それ以上に言葉の内容そのものが重要です。
- 3. 私は、クラスで「一人」で「うまく馴染め」ない自分と、誰にも気づかれない「雑草」を重ね合わせていました。その雑草に、先生は「ドクダミ」という名前を与え、「強い」「薬にもなる」という価値を教えてくれました。これは、目立たない存在にもちゃんと名前(個性)があり、見かけだけでは分からない強さや役割(価値)があるのだということを私に気づかせます。先生はドクダミ草を語ることを通して、間接的に「あなたもそのままで価値があるのよ」というメッセージを送ってくれたのです。
- 4. 「優越感」ではなく、自己肯定感につながる内面的な気づきです。
【設問2】この出来事を通して、「私」の心境はどのように変化したか。最も適当なものを次の中から一つ選べ。
- クラスで孤立している現状を悲観し、ますます自分の殻に閉じこもるようになった。
- 先生から認められたことで自信をつけ、これからは積極的にクラスメイトと関わっていこうと決意した。
- 自分と重ね合わせていた雑草の価値を知り、孤独な自分を少しだけ肯定的に捉えられるようになった。
- 自分を理解してくれないクラスメイトを見返すため、植物の知識を深めようと決心した。
【正解と解説】
正解 → 3
- 1. 「悲観」しているのではなく、むしろささやかな希望を見出しています。
- 2. 「積極的にクラスメイトと関わる」という具体的な行動の変化までは、まだ読み取れません。変化はあくまで内面的なものです。
- 3. この物語の中心は、孤独な「私」が自分と同じような境遇の「雑草」に自己を投影し、その雑草が先生によって価値づけられることで、間接的に自分自身も励まされるというプロセスです。最後の「自分も、いつか、あんな風になれたら、と、ほんの少しだけ、思った」という一文は、彼女が自分の孤独なあり方をただ惨めに思うだけでなく、そこに強さや価値を見出す可能性を感じ始めたことを示唆しています。
- 4. 「見返すため」という攻撃的な動機は、彼女の性格とは合いません。