現代文対策問題 73
本文
その日の国語の授業で、先生は教科書の詩を読み終えると、不意にこう言った。「この詩を読んで、何でもいい。感じたことをノートに書いてみなさい」。
シーンと静まり返った教室で、生徒たちは一斉にシャーペンを走らせ始めた。僕はどう書けばいいのか分からなかった。詩の意味はよく分からないし、特に何も感じなかった、というのが正直なところだ。周りのみんなが何かをもっともらしいことを書いているように思えて、焦りが募る。
「正解を書こうとしなくていいんだぞ」
先生が、困っている僕の心の中を見透かしたように言った。
「感想に正解も不正解もない。君が感じたそれが、君だけの答えだ。何も感じなかったというのも、立派な一つの感想だよ」
その言葉に、僕は少し救われたような気がした。何も感じなかった。そう正直に書こうか。でも、それはなんだか自分の感性が貧しいと告白しているようでためらわれた。
結局、僕は当たり障りのない、ありきたりな感想を書いた。「作者の悲しみが伝わってくるようでした」と。先生は僕のノートを受け取ると、黙って一度頷いただけだった。その先生の目が少しだけ寂しそうに見えたのは、きっと僕の気のせいではないだろう。僕は自分の書いた嘘を見抜かれたような気がして、なんだかひどく恥ずかしくなった。
【設問1】僕が当たり障りのない感想を書いてしまった理由として、最も適当なものを次の中から一つ選べ。
- 先生に良い評価をもらい、内申点を上げたかったから。
- 「何も感じなかった」と正直に書くことで、自分が無感動な人間だと思われることを恐れたから。
- 詩の本当の意味が理解できず、的外れなことを書いて恥をかきたくなかったから。
- 授業を早く終わらせたくて、とりあえずその場しのぎの答えを書いたから。
【正解と解説】
正解 → 2
- 1. 「内申点」のような功利的な動機は、本文からは読み取れません。
- 2. 先生は「何も感じなかったというのも立派な一つの感想だよ」と言ってくれました。しかし、僕はその言葉を受け入れられませんでした。「それは、なんだか、自分の感性が貧しいと告白しているようで、ためらわれた」という内面の葛藤がその理由を物語っています。彼は周りと違うこと、そして何も感じられない自分をさらけ出すことを恐れたのです。これは、思春期にありがちな自意識や羞恥心が原因です。
- 3. 「恥をかきたくない」という気持ちもありますが、より核心にあるのは「感性が貧しい」と思われたくないという、自己評価に関わる恐れです。
- 4. 「早く終わらせたい」という単純な怠慢ではありません。彼は真剣に悩んだ上で、当たり障りのない答えを選択しています。
【設問2】傍線部「その先生の目が少しだけ寂しそうに見えたのは、きっと僕の気のせいではないだろう」から読み取れる先生の心情として、最も適当なものを次の中から一つ選べ。
- 生徒のありきたりな感想に失望し、自分の授業の力不足を嘆いている。
- 生徒が自分の本当の気持ちではなく、当たり障りのない「正解」を書いてしまったことを見抜き、残念に思っている。
- 生徒が詩の持つ深いテーマを全く理解していないことに気づき、呆れている。
- 早く授業を終えたいという生徒の気持ちを察し、同情している。
【正解と解説】
正解 → 2
- 1. 「授業の力不足」を嘆いているというよりは、生徒の「姿勢」に対して何かを感じています。
- 2. 先生は「感想に正解も不正解もない」「君が感じたそれが君だけの答えだ」と、生徒が自分の心に正直であることを促しました。しかし、僕が提出したのはありきたりで心のこもっていない感想でした。先生は、僕が結局、世間的な「正解」らしいものに逃げ込んでしまったこと、そして自分の本当の心と向き合う機会を自ら手放してしまったことを見抜いたのです。その生徒の臆病さに対する共感と残念な気持ちが、「寂しそう」な目に表れていると僕は感じたのです。
- 3. 生徒の「理解力」を問題にしているのではありません。むしろ、理解できなくてもそれを正直に表現することを求めていました。
- 4. 「同情」というよりは、教育者としての残念な気持ちが強いでしょう。