現代文対策問題 71
本文
その日、僕と友人の和也はくだらないことで喧嘩をした。原因はもう忘れてしまった。些細な一言がきっかけで互いに意地を張り合い、どちらも引けなくなってしまったのだ。気まずい沈黙の中、僕らは並んで帰り道を歩いていた。
河川敷の土手まで来た時、和也が不意に立ち止まった。そして、川に向かって思い切り石を投げた。水面を何度も跳ねていく水切り。僕らが子供の頃、日が暮れるまで競い合った遊びだ。
「……七回」
和也がぽつりと言った。それはあいつの自己ベストの記録だった。まるで僕に挑戦するかのように、和也は次の石を拾った。僕は何も言わずにその隣で平たい石を探し始めた。言葉はなくてもやることは決まっていた。どちらかが「参った」と言うまで、この勝負は終わらない。
僕らは無言で石を投げ続けた。夕日が僕らの影を長く長く土手に伸ばしていく。カラスが鳴き、一番星がまたたき始めた。結局、どちらも和也の七回を超えることはできなかった。汗と泥にまみれ、肩で息をしながら僕らは顔を見合わせた。そして、どちらからともなくふっと笑いがこぼれた。
「腹、減ったな」
和也が言った。「ああ」と僕は答えた。もう何で喧嘩をしていたかなんてどうでもよくなっていた。
【設問1】傍線部「僕らは無言で石を投げ続けた」とあるが、この時の二人の心理状態として、最も適当なものを次の中から一つ選べ。
- 互いへの怒りを石にぶつけることで、ストレスを発散しようとしている。
- 言葉で謝るきっかけがつかめず、子供時代の遊びを通じて仲直りしようとしている。
- 水切りの勝負に熱中することで、気まずい喧嘩のことを一時的に忘れようとしている。
- 相手よりも優れていることを証明し、喧嘩の決着をつけようと躍起になっている。
【正解と解説】
正解 → 2
- 1. 「怒り」というよりは、意地を張った後の気まずさが中心です。
- 2. 喧嘩の後、二人は気まずい沈黙に陥っています。どちらも謝るタイミングを失っているのです。そんな中、和也が始めた水切りは二人にとって懐かしい共通の原体験です。言葉を交わさなくてもルールは分かり合える。この遊びに没頭するうちに、喧嘩の原因である些細な意地はどうでもよくなり、子供の頃のような素直な関係に戻っていく。水切りは彼らにとって言葉を超えた仲直りのための儀式なのです。
- 3. 「一時的に忘れよう」という消極的な態度ではなく、関係を修復しようとするもう少し積極的な意味合いがあります。
- 4. 「決着をつけよう」という競争心は表面的なもので、その根底には仲直りしたいという気持ちがあります。
【設問2】この物語で、二人の仲直りのきっかけとして最も重要な役割を果たしたものは何か。次の中から一つ選べ。
- 夕暮れの河川敷という感傷的な雰囲気。
- 二人で共有していた子供時代の遊びの記憶。
- 勝負に熱中したことで得られた肉体的な疲労感。
- どちらも相手を超えられなかったという勝負の結果。
【正解と解説】
正解 → 2
- 1. 「雰囲気」も一因ですが、より直接的なきっかけは水切りという行為です。
- 2. この物語の核心は、言葉でのコミュニケーションが行き詰まった時、二人が子供時代に返り共通の遊びを通じて関係を修復した点にあります。水切りという遊びは、彼らにとって言葉以上に雄弁なコミュニケーションの手段でした。この共有された記憶と経験こそが、彼らの心の壁を溶かした最大の要因です。
- 3. 「疲労感」も緊張をほぐす効果はあったかもしれませんが、根本的なきっかけではありません。
- 4. 「結果」そのものより、勝負をしたというプロセスが重要です。